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風間俊介になれなかった男

作者: スズキ



 前にテレビで、俳優の風間俊介さんがディズニーランドが好きで、よく一人で行って園内を散策しているという話をしているのを見たことがある。


 個人的な話になるけれど、僕も風間くんと同じくディズニーランドが大好きだ。彼には遠く及ばないだろうけど、年に二回は必ず行くくらいにはディズニーランドが好きだ。


 だが一人ディズニーというのは一度もしたことがない。なにぶん学生、それも地方在住の高校生の身なのでディズニーに行くときは必ず家族で一緒だ。例外は修学旅行の時で当然一人ではなくグループ行動だった。


 しかし一人ディズニーというものに僕はとても心惹かれた。一人で気ままにディズニーランドの中を歩き回るなんて、考えるだけでも楽しそうだ。


 そんなことを想像していた僕だったが、思いがけずその機会が訪れた。高校三年の終わりの受験期、都内の某大学を受験することになっていた僕は、最後の面接試験のあとに空き時間を見つけたのだ。


 おい、午前中の面接が終わったら夕方の新幹線までの間にディズニーランドに行けるんじゃないか。そのことに気がついた僕は前日にディズニーストアでチケットを買い、そして翌日面接が終わってそのままの足で高校の制服を着たまま東京湾へ向かったのだ。もうほかの学校で受ける試験もなかったし、一種の慰安旅行のつもりだった。


 ディズニーランドかシーどちらにするかで僕はシーを選んだ。ちょうどピクサー映画のイベントをやっていたからだ。僕はトイ・ストーリーをはじめとするピクサー映画の大ファンなのだ。


 浮き足立つ気持ちで僕は舞浜駅のホームを降りてリゾートラインに乗り、ディズニーシーに突入した。これは楽しい一日になるぞと僕は軽い足取りで園内に入った。


 しかし楽しい時間はそれまでだったのである。


 テレビで風間くんはとても楽しそうに一人で散策するディズニーを紹介していたが、それは何十回も日常的に通っている人の楽しみかたで、年に数回行く程度の僕にそんなのんびりとじっくり味わう感覚は持ち合わせていなかったのである。


 何かしなきゃ、どこか行かなきゃと焦る僕はイベントの写真撮影スポットを見つけ、キャスト(従業員)さんに自分の携帯で撮影をお願いして写真を撮ってもらうことにした。


 だがポーズをとっている間、僕は周囲を通り過ぎる人からの視線を一斉に浴びる羽目になった。男一人で、それも学ランを着ていたのが余計目立っていたのだろう。こっちを見てくるカップルの視線が痛かった。


 そのあとシンドバッドの十人乗りのボートに乗るアトラクションに行ったが、周りがカップルとか友達グループとかのなかでひとりで乗り込んできたのは僕だけだった。そんな疎外感しかない状況でゆっくりと楽しめるわけがなかった。


 うう、高いチケット代払ってまで、おれはこんなところで何をしているんだろう。泣きそうなくらい虚しくなった。


 結局、入園からわずか二、三時間で僕はディズニーシーから逃げ出したのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 風間俊介さんになれなかった作者様は、それでも勇者様です! 一人でディズニーに入園したという事実が、正に勇者です! [一言] 大変にお疲れ様でございました。 心に傷を負ったことだと思います…
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