魔物もたまにはいいものだ
短いですが、思いついたので書いてみました。
「ぎゃあぁああ」
ふぅ、これで全員だな。
今回の冒険者はちょっと手強かった。思った以上に苦戦したよ。
「あの魔法使いがウザかった~」
「盾役との連携上手かったよね」
「あの剣士も上手いこと立ち回るし・・・。ねぇ?あれみんなCPなの?。ちょっと連携上手すぎない?」
「あれだろ?、AIが学習してどんどん立ち回りが上手くなるってやつ。レベルも高かったし結構ベテラン冒険者だったのかも」
「そうね、経験値も多いし。頑張った甲斐があったわ!」
「あ、私レベル上がった~」
一緒に戦った仲間がそれぞれ感想を言っている。
今僕達がやっているのは流行りのVRMMORPGだ。オープンワールドを舞台に個々で好きに生きるだけのゲームなのだが、プレイヤーが操作出来るのは魔物に限定される。他のゲームでは人間側で魔物を倒していくのに対し、これは魔物になって人間(CP)を倒すのがメインで、この世界の魔物は全てプレイヤーである。
メインと言っても人間を倒すのは経験値稼ぎのひとつなだけで、このゲームは基本的に何でもありだ。
他の魔物を狙うのもよし、オープンワールドを走り回って遊ぶのもよし、魔物を進化させて楽しむのもよしで好きに遊べる。
僕達は、会社の同期達で何かしないかと話をした時に、「みんなやった事ないことしようよ」と言う事になりこのゲームを始める事になった。
普段ゲームなんてオフラインばかりだった僕は、仲間内でワイワイ出来るオンラインにハマってしまい、それから仕事以外はずっとこればかりしている。
仲間のユウ、なまけもの、ココアも同様だ。みんな定時で直帰してこのゲームをしている。
因みに僕のパーティはこんな感じ。
Gさん(僕)=ヴェノムサーペント
ユウ=ゴブリンウォーリアー
なまけもの=グール
ココア=プチバード
な「ココアはまだ進化しないのか?、レベル的には進化できるだろ?」
コ「進化先が可愛くない。大体グールって何?、気持ち悪いから寄らないでよ!」
な「仕方ないだろ!、死霊系なんだからさ。進化したらマシになっていくから我慢してくれ!」
ユ「それより何で死霊系なのよ。その名前だと動物系を選択しなさいよ」
な「いいだろが!。女の癖にゴブリン系選んでるやつに言われたくねぇ!」
ユ「それ差別!。私は実用性を選ぶの!、やっぱり手足がないと困るの!」
コ「せっかくの魔物なのに人間体を選ぶのは面白くないよね。私は高さ制限あるけど飛べるし最高!」
G「ココアはいいよな。俺なんか視界が低すぎて、草が多いところきっつい」
蛇なんて選ぶんじゃ無かった。最終的にドラゴンに進化できるかもと思って始めたけど辛い。初期種族に戻るけど種族変更しようかな?
ユ「その前に名前変えてよ。アレ連想するから嫌なんだけど」
な、コ「「ほんとそれ」」
G「別にゴキブーー」
ユ、な、コ「「「それ以上言うな!!」」」
爺を略してGにしたのに・・・。
G「なぁこれからどうする?」
ユ「結構ダメージ貰ったし一旦オアシスで回復したいわ」
な「俺も回復したい。HP1桁しかない・・・」
2人は前線で頑張ってたし仕方ない。特になまけものは盾役だし。
サポート役の僕や、牽制役のココアはそれほど減ってない。
G「じゃあ一旦戻って、・・・またレベル上げ?」
な「だな。次のイベントまでにもう一回進化しておきたいし」
ユ「私もしておきたいわ」
コ「私違うところ行きたい!。草原飽きた!」
な「確かにそろそろ違う場所言ってもいいんじゃないか?、違うところの適正も上げておきたい」
適正か・・・。確かに僕の草原適正もかなり上がっている。最近はずっと草原であげてたからなぁ。
このゲームには適正値があり、その数値を上げることで進化先が増やすことができる。例えば火山に居続けると火に耐性がある魔物に進化できるようになるなどだ。
ユ「そうね。場所変えたらココアも気にいる進化先が出るかもだし」
G「でもどこ行く?、近くでここ以外だと・・・森、砂漠、山くらいだろ?。遠くに行けばまた違う場所があるけど」
現在拠点としているオアシス(休息所:非戦闘区域)の周りは草原、山、森、砂漠の4つのエリアしかない。ここは初期エリアであるから数が少なく貰える適正も少ない。
もっと色んな適正が欲しいのであれば違うオアシスに移動が必要だ。しかし適正を多く貰えるところは出てくる人間も強い。弱いまま行くとレベル上げ出来ず時間の無駄になるだけだ
な「じゃあ移動しようぜ!。俺たちのレベルだと北のオアシス辺りでもやれる筈だろ?」
コ「あそこの適正レベルってどれ位?」
ユ「まって今調べる・・・。40って書いてあるわ。私たちは36だからちょっと足りない」
G「なら大丈夫だね。適正は苦戦しないレベルだからちょっと低くても問題無い筈」
コ「じゃあすぐ行こ!」
僕たちはオアシスに一旦戻り北へと旅立った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オアシス間を移動は想像以上に大変だった。
拠点以外に回復出来る術が無いのでダメージを負ったらそのままだ。北のオアシスに近付くにつれ、人間の強さが増していき徐々にダメージが増えていく。
だがそれはまだマシな方だった。人間は所詮CP、逃げたら追っては来ないし、行動もまだある程度読める。
問題は魔物だ。
初期エリアでは初心者プレイヤーも多いためPvPが制限されていたのだが、ここではそれが無い。故に意気揚々と入ってきたプレイヤーを狩りにくる魔物が多かった。
そして当然僕たちもその標的にされた。4人パーティだったおかげで何とか返り討ちにしたけど、単機で突っ込んでくるバカが多すぎる。
1人で突っ込んできてすぐやられて、暴言メッセ送ってきた奴ははちょっと笑って通報しておいた。
な「多分レベルシンクのお陰だと思うぞ。アイツ本来はかなり高レベルだと思う」
コ「レベルシンク?」
な「レベルの調整だ。PvEだと調整されないが、PvPだと襲う側は襲われる側に有利になるようレベルが調整される。あいつはその事を知らずに突っ込んできたんだろう」
ユ「ちゃんとルールに書いてあるじゃない」
な「読んでねぇんだろ。読まずともゲームは出来るしな。コイツみたいに」
コ「あんな量のルール読んでられないよ!」
G「ほら、話はそこまで。また来たぞ、今度は4人組」
目の前から魔物の群れが走ってくる。・・・えーっと、狼2匹にスライムとスケルトンだな。スケルトンは杖っぽいのを持ってるし術師かな。
スライムとスケルトンは狼に乗っている。何かいいなそういうの。
な「取り敢えずこっちからは攻撃するなよ?。相手に有利になる」
コ「じゃあどうするの?」
ユ「警戒しつつ様子見」
なまけものとユウが前に出て構える。ココアは上に飛び様子を窺う。俺は気付かれないよう草むらに身を隠す。
相手は一定範囲まで近付いてくると狼からスライムとスケルトンが降りた。スケルトンはすぐさま詠唱を開始し、狼はそのまま突っ込んで来る。
どうやら相手は攻撃を開始したと判断されたようで、視界右上に戦闘の文字が出る。
な「戦闘開始だな。ココアはいつも通り上からスケルトン達を牽制してくれ。俺とユウで狼の相手する」
ユ「あの狼速いわね、スピード特化かしら」
コ「牽制でいいの?、スライムは?」
な「何してくるか分からないし保留。そういうのはGさんに任せとけ」
G「ちょっとまってよ!。分からない奴の相手すんの嫌なんだけど!」
な「取り敢えず毒入れとけ!」
僕への指示雑いなぁ。まぁそれしか出来ないしそうするけどさ、スライムって毒入るのかな?。
どうやら相手は僕に気付いて無いようで、背後に回っている僕を見向きもしない。スケルトンは羽を飛ばしてくるココアが鬱陶しいのか、イライラした調子でココアに向けて火の玉を撃ち続けている。あの調子ならすぐMPも無くなりそうだし、指示通り先にスライムを狙おう。
な「くそっ!、思った以上に速い!」
ユ「そう?、それほど早くないじゃない。こっちはもう少しで倒せそう」
コ「いつまで牽制してたらいいのー?、やっぱ魔法ウザい」
な「Gさんがスライム倒すまでだ。というかGさんまだか!?」
G「このスライム全く動かないんだけど、やっていいの?」
な、ユ、コ「はよやれ!!」
スライムはスケルトンに隠れるように居て何もしない。真後ろまで来たけど全然動いていない。
何してるか知らないけど、これ以上見てたらまた怒られそうだ。
取り敢えず毒入れるために『毒牙』で噛み付く。『毒牙』は対象を高確率で毒状態に出来るが、攻撃力は低く接近する必要がある使いにくい技だ。近くに寄らないと行けないんだからもうちょっと威力があってもいいと思うんだけどな。
G「は?」
そう思いつつ攻撃したら、スライムは毒状態にならず死んだ。ひと噛みしただけで光となって消えるスライムをただ呆然と見つめる。
スケルトン「スラっち!?」
仲間が死んだ事に気付いたスケルトンと目が合う。慌てて尻尾で足払いをかける。蛇の良いところは尻尾のリーチが長いので尻尾を使った攻撃がしやすいところだ。残念なところはメインである毒が牙にしか無いところ。
足払いをくらったスケルトンがその場に崩れ落ちたので、頭を『毒牙』で噛んでおく。噛んだ所からジワジワと紫色の毒が広がっていく。
このゲームアイテムなんて概念が無いし、状態異常を回復させる手段が殆ど無い。その為このゲームでは状態異常にさせるだけで戦況があっさり変わる。
その代わり状態異常にできる技は全て使い難い。
スケルトン「毒!?。くそっ!、もう1人居たのか!!」
毒になったスケルトンはすぐさま杖で振り払ってきた。軽く後ろに跳んで躱す。
毒が入ったとはいえ、効果が切れるまでにHPを削り切れるかは分からないので追撃したい所だ。
しかし追撃する前に狼達が戻ってきた。
狼1「大丈夫か!?」
狼2「くそう、あのゴブリン強ぇ」
狼1「あのグールは遅いけど全然ダメージ入らない。防御特化か!?」
狼2「お前がスピード特化にしてるからだろ!。グールは元々防御力高いんだから効かなくて当然だ!」
スケルトン「撤退するか?、スラっち死んだしやる意味ねぇよな」
狼1「そうしよう」
狼2「やっぱこのレベル上げは無謀だったか」
ああ、そういう事ね。
コイツらあのスライムのレベル上げ手伝ってたのか。
レベル上げ出来なくなったし逃げようとしてるみたいだけど・・・
な「逃すと思うか?」
ユ「襲ってきて逃げるなんて最低ね」
コ「経験値置いてってね」
ウチの連中が逃すと訳ないよな。
狼達にはその後無事経験値になってもらった。レベルも上がり結果オーライ。
その後は襲われることも無く無事にオアシスについた。
ん?、もうこんな時間か。
な「あ~!、グール遅っせぇ!!。ちょっとスピードに振った方がいいのか?」
ユ「別にいいんじゃない?、上げても大して変わらないでしょ」
コ「その前にその見た目何とかしてよ気持ち悪い」
な「まだ言うか!。じゃあこれからレベル上げしに行くぞ、さっさと進化してやる」
G「もう0時だし僕寝るよ」
ユ「ゲッ、もうそんな時間!?」
コ「また仕事かぁ・・・」
な「はぁ!?、まだ行けるだろ。7時位まで行けるだろ!?」
G「会社無ければやるけど今日は無理。遅刻はしたくない」
ユ「お風呂もまだだしね。それじゃあ明日会社で」
コ「乙~、私も寝るね」
G「お疲れ様。なまけものも早く寝ろよ?」
そう言ってログアウトする。
「俺はまだやるぞ」となまけものが叫んでいたが・・・
案の定、次の日なまけものは遅刻した。