第四十二話 心からの願い
「(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!」これまでのあらすじ
異世界転生を果たした矢先、最強種族と謳われる女神領領主エイメルと決闘をすることになった主人公カイザンは、与えられた種族の特殊能力を駆使していきなり最強種族の異名を手に入れてしまった。その正体が肩書きとは程遠い、有名無実のただの元高校生なことは誰にも知られず、悪名ばかりが広がった結果、帝王なんて呼ばれ方であらゆる領を恐怖に包んでしまった....。
汚名返上と暇潰しの名の下に、パートナーであるアミネスを連れて旅に出たカイザンは、近くの獣領で過ごすうち、多くの者からその存在に気付かれ、ついには獣領の領主リュファイスにとある協力を頼まれてしまった。それは獣領に迫る脅威、光衛団と呼ばれる組織の撃退を協力してほしいとのことであった。
獣領の最高守衛団[五神最将]、その団員の天真爛漫な猫耳っ娘ウィバーナがカイザンの護衛に任に就き、同年代のアミネスと親友レベルに仲良くなった頃、事件は起きた。カイザンの泊まる宿屋に現れた獣種の者たち、光衛団幹部ラーダによって洗脳された彼らの襲撃を受けるが、駆けつけたウィバーナが苦戦しつつも掃討。そこで、ウィバーナが異種どうしの血を持つことで忌み嫌われる多重血であることを知ったラーダは、ウィバーナを標的に変え、それから数日後の夜、見回り中のところに奇襲。重傷を負ったウィバーナは種の門を開き暴走。領主リュファイスの妹であるレーミアが種王の神器とともに参上し、カイザンたちとの協力でなんとかそれを収めた。しかし、目覚めたウィバーナは自分が門を開いたことを知って心を閉ざし、一方でカイザンとアミネスはリュファイスからウィバーナが過去にも一度門を開いたことがあったことを知ってしまった。
ウィバーナの心の闇に気付いたアミネスは、カイザンに背中を押され、閉ざされてしまった心を救ってみせると決意したのであった。
自分の手が震えているのを理解した。
王城の静かな廊下の中で、自分の心臓の音がとても大きく聞こえている。心拍も呼吸も大して激しい訳じゃない。それなのに、自分の中で圧倒的な不安感を引き出そうとする。
その部屋に踏み出すことに対して、極度に緊張してしまっている事実。それを前に、気が退いてしまいそうな....。
自分の言葉がウィバーナに届いてくれるのか、それが不安で仕方ない。
目の前の扉にでさえ、臆病に立ち止まってしまっている自分が、この奥に待ち受けるウィバーナが閉ざした心を開くことができるのだろうか。
全部、自分に託されたこと。みんなの想いを背負ってる。勝手に背負ったものだとしても、ウィバーナに向けるものは自分だけの感情なんかじゃない。
この想いに懸けて、なんとしてでも、ウィバーナの心を救わなければならない。それ以上に親友として、暗く深い、悲しみの渦から解放してあげたい。
そう心では誓っている.......でも、ウィバーナの心が抱えるその闇の深さはとてつもないものだった。
理解しようとしてはいけないものを、踏み入れてはいけないものを、理解した気でいて、それでいて何ができるのか。
自分は本当に、ウィバーナを救えるのだろうか。
『お前にしかできないことなんだろ』
背中を押してくれたカイザンの言葉が脳裏を過る。
リュファイスの言葉で折れかけた心を、カイザンが鼓舞してくれた。自分を信じてくれた、カイザンの言葉だ。
・・・そうだ、私がやらなくちゃいけない
自分にしかできないことだと、ぱーとなーが教えてくれた。
あの夜、ウィバーナをカイザンが助けてくれた。自分があの夜、大したことをしてあげられなかったことをずっと後悔に思っていた。
だから、もう後悔なんてしたくない。
救えるのなら、自分に何かできるのなら、それを信じてただ突き進むだけだ。
瞳の曇りを無くし、手の震えが止まった。
弱音なんて吐く必要はない。親友に言葉をかけることに、そんなものはいらないはずだ。
....覚悟も決意も、とっくにできていると思っていたのに、最後にこんなに葛藤するなんて思いもしなかった。
いざ扉を開けたら、ウィバーナはどんな顔をしてくれるだろうか。わからない。だけど、一つだけわかることがある。
....扉を開けた先、ウィバーナが見る顔が悲しい顔なんてしてられない。
ウィバーナに会う。それなら、するべきことは一つ。
顔を上げ、精一杯の笑顔とともに、アミネスは扉を開けて部屋へと踏み出した。
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ノックもせずに入るなんて、我ながら淑女としての嗜みに欠けていると思う。
いや、思い返せば、ウィバーナとの楽しい日々は、全てがそうだったかもしれない。彼女の笑顔の前では不思議と口調が砕けていた。いつもの敬語なんて忘れて、心から笑っていられた。
・・・お母様は、許してくれるかな....。
心の中でぽつりと呟いた。そこに不安なんて一切ない。
きっと、親友ができたことを心から喜んでくれるに違いないのだから。
いずれあそこに帰った時、使命を果たせたならきっと.....。
そのための一歩を踏み、アミネスは部屋に入った。
「入るよ、ウィーちゃん」
「.....っ」
ずっと布団に顔を埋めていたウィバーナ。
声に反応して目を向けると、そこには大切なはずの親友が立っている。
突然の入室に大きく目を見開くと、すぐさま目を伏せ、顔を背けた。
当然のことだ。ウィバーナはそうしなければならない。
もう傷付けてしまった。後戻りなんてできない、しちゃいけない。そうすることにした。しなきゃいけない。
再開を望むことすら、ウィバーナにはもう許されない。
「....にゃんで、来たの?」
「ウィーちゃんが心配だったから」
そこに偽りは無い。二人の関係にそんなものは要らないから。...だからこそ、それがウィバーナを苦しめているのだとしても。
自分の行動が、素直に心を伝える意志が、その全てが人を傷付けていく。ウィバーナにはもう、そう考える選択肢しか残っていない。
拒絶し、引き離すのは、他の誰でもない親友のため。
「アミちゃんに.......にゃにがわかるの?」
「聞いたよ、六年前の出来事を」
「っ........にゃら、どうしてここにいるのっ?...わたしのことにゃんて、放っておけばいいのに」
その言葉からは正の感情が全く感じられなかった。アミネスを想う気持ちすら、もはや負に染まりつつある。
今のアミネスがウィバーナのトラウマの全てを知っている訳でも、理解している訳でもない。
ならばそれはきっと、ここから先は親友なんて関係ないのだろう。....故にアミネスは、
「私がいなくなったら、'あなた'は一人になるんだよ。過去の記憶の全て、一人で抱え込んで、ずっとずっと」
他人として、ウィバーナの心に入り込む。
その言葉に、ウィバーナは布団を強く握り締め、そのまますがるように抱き付いた。
明るさという感情を失ったような瞳は、深い悲しみに揺れている。過去のトラウマを、無理やり思い出させたようなものだ。
元は可憐で、大きな夢を持った少女。
彼女のそれに気付きながらも見ているだけ......それはこの状況において、あまりにも残酷だ。
しかし、今のアミネスにはそれを止めることも、慰めることもできない。
....だから、これだけは伝えなくてはと思い、勇気を振り絞ろうとした瞬間、言葉はウィバーナによって遮られた。
「だからっ....」
「....もう、嫌にゃの。....わたしはたくさんの人を殺した。あの日のことから逃げられにゃいの。離れたくて、どうにかして忘れようとした。みんにゃが、忘れさせようとしてくれた。....にゃのに、わたしはまた繰り返した。わたしが弱かったから、わたしが約束を破ったから、わたしが.....多重血だったから」
血に関係されない、立派な獣種として生きることを望んだ。だけど、ウィバーナは結局、多重血の宿命からは逃れられなかった。
望まなくても、抗っても、ウィバーナは繰り返す。
「....だから、わたしは考えたの、わたしがみんにゃから離れれば、みんにゃが悲しむことも傷付くこともにゃい。....これしか、これしかにゃいんだよっ」
自分が望むもの、自分が在りたい場所。全て、生まれた頃からこの娘は自分の血と境遇によってそれらを奪われ、ここまでに追い詰められた。
自分のことを後回しにして、大切な人たちを拒絶して、自分がそこにいない世界でみんなの幸せを願うようにそれを口にしたウィバーナは、最後の一言だけ弱々しくこぼす。
そんなウィバーナを見て、アミネスの瞳もまた悲しみに淀む。過去の出来事を知っただけに過ぎない。こんなにも辛い感情を秘めていたなんて知らなかった。
....知らないことなんていくらでもあるのだろう。なら、それを聞くことから始めないといけない。
「どうして、そんなに自分を責めるの?」
そこに慈しみはなく、哀れむように、同情の意を込めて問う。
ウィバーナからすれば、突然の問いであった。しかし、驚く理由はそこではない。
それは、アミネスの声色にあった。
一度は拒絶したもの。でも、その声音からアミネスの抱く感情が伝わったような気がした。同情、それ以上の負い目を持った罪悪感。
どうして、アミネスがそんな感情を持つのか、ウィバーナにはわからない。
その問いに対して、ウィバーナは悩んだ末に震える瞳を伏せて答える。
「わたしが悪いから、わたしのせいでみんにゃが傷付くの」
悲しい答えだ。そう哀れみに一蹴することは容易い。だが、それはウィバーナが苦しみの果てにたどり着いた唯一の答え。
全て自分が悪い。そう思い、信じることが楽になってしまった。それが苦しみを生むものだとしても、その盲信は今のウィバーナの唯一の味方なのだ。
....そうまでしても何故、
「どうして、そんなにみんなを想うの?」
....そんなの、ウィバーナからすれば簡単な問いだ。
「みんにゃのことが、大好きだから。わたしが多重血って知ってても、こんにゃわたしにゃんかに優しくしてくれて、大切にしてくれたから」
問いに対しての答えに、明確な間があった訳ではない。悩む必要のない即答だった。
その言葉一つ一つが、過去のトラウマがウィバーナを縛り、自身を貶め続けた結果。
「どうして、そんなに過去を憎むの?」
「みんにゃが、たくさんの人が死んじゃったから。全部全部、...わたしが殺した過去。....それを嫌うのにゃんて当たり前だよっ」
多重血のウィバーナを忌み嫌う者など、獣領には多くいたであろう。それでも、ウィバーナにとっては獣領が大切な場所で、そこに住む獣種の人々の事が大好きだった。
大切で、大好きで、大事な居場所だった。
なのに、人を血に染め、返り血を身に浴び、多くの断末魔を聞いた。もう戻らない命、戻れない過去。
ウィバーナは苦しみ、悔やみ、嘆いてる。
誰も彼女の想いになんて気付けない。知ったとしても、誰も触れようとなんてしない。
誰も救おうとしなかった幼い心は今も叫び続けている。
「.....それに」
途中で言葉を切るウィバーナ。
胸を押さえ、歯を食いしばりながらその先を、ずっと秘め続けていた想いを口にする。
「アミちゃんだけは、わたしが守っていたかったから」
「っ.....」
ウィバーナが苦しむ、一番の理由....。
「あの日から、門を開いた時のことをどんどんと思い出し始めてる。....わたしはアミちゃんに、爪を向けた。あの時みたいに、わたしはまた誰かに、大切にゃ人に爪を向けたんだよ....」
ウィバーナにとって、アミネスが一番大切な存在で、絶対に守りたいと思えたから。....守りたかったから。悲しい過去なんて忘れて、今を明るく生きれるこの居場所を。
これ以上は傷付けたくなんてない。
「ーーーー」
アミネスは問いをやめ、胸を押さえる。
ウィバーナの抱いている気持ちはずっと、楽しかったあの日々ですら、悲しみしかなかったのだと、そう感じてしまうほどに。
.....でも、それは間違いだったと、他の誰でもないウィバーナが言う。
「アミちゃんは、わたしに初めてできた友達にゃの、大切な親友にゃの。....わたしは、アミちゃんのことが一番大切だって思えたから。わたしがずっと隣にいて、守っていたかった」
さっきまでの悲しみとは別物、そこにあるのは一途で無垢で、裏のない純粋な優しさそのものだった。
それでいて、今のウィバーナの表情は優しさと隣り合わせの感情だ。
....ウィバーナが持つ、アミネスには理解が及ばない世界。どれだけの苦しみと悲しみに包まれ、淀んでしまったものなのだろうか。
でも、それを、その感情を受け止めることに、それを理解する必要はないはずだ。ウィバーナを知っている。アミネスにとっては、それだけで十分なことだ。
アミネスは再び問いかける。
「あなたがみんなを突き放すことを本気で望むなら、それは叶うかもしれないよ。....でもね。ならどうして、あなたはそんなに悲しい顔をしているの?」
「えっ....」
アミネスに言われて初めて気付いたように、ウィバーナは頬を裾で拭うと....そこはほんのりと湿っていた。
「....にゃんで、わたし泣いてるのっ」
気付いた瞬間、それは溢れ出した。
次々と流れ出る涙に驚きを隠せず、頬を伝うそれを必死で拭い続けるウィバーナ。....拭い続けたのに、止まらない、止まってくれない。
自分の意志とは無関係なもの。ウィバーナが否定し続けるものを肯定するかのように、それは溢れていく。
その涙にはきっと、ウィバーナの本当が込められているのだと。
そこに在るウィバーナの本心を信じて、アミネスが続けざまに、語りかけるように話し始めた。
「....あのね、ずっと気付いてたの」
「....にゃにを?」
未だに感情をコントロールできないでいるウィバーナが震えた声で返す。
アミネスの優しくて温かい声に最初は驚いたものの、その先に答えを述べるのだと理解し、手を止めてすぐに聞き入った。
「王城の中庭でウィーちゃんと初めて会った時、すごくドキドキした。いきなり話しかけてきて、同年代の子があんなに優しく、あんなに温かく接してくれたのが初めてだったから。すごく、嬉しかったから」
「ーーー」
一番口馴染んだその呼び方で。もう他人として問う必要なんてない。アミネスの知らないものを語るんじゃなく、アミネスの知っている親友のことを話すのだから。
....ウィバーナからの返しがない。だけど、潤いに満ちたその優しい瞳が言葉よりも雄弁に聞いている。
「カイザンさんと私たち三人で領内を遊び回った一週間、ウィーちゃんはずっと元気で楽しそうで、あっという間に親友になっちゃってて。もうビックリしちゃったよ」
「ーーー」
「いつも元気で明るくて、笑顔一つで周りの人たちを明るくさせてしまうような、そんなウィーちゃんだった。わたしもそんな姿を見て、毎日元気をもらってた」
「ーーー」
「でも.......でもね、私は気付いたの。ウィーちゃんの笑顔には必ず、自分を貶めるような何かが心で渦巻いていた。....そしてあの日に知った。ウィーちゃんがずっと抱えていたもの、背負っていたものを。....大切な夢が、あの夜に崩れてしまったことを」
「ーーーっ」
最後の一言に、ウィバーナの身体が震えた。
分かってはいたんだ。その夢が、ウィバーナにとってどれだけ大きく、支えになっていたか。それが崩れてしまったことが、どれだけの辛い重荷であるか。
あの日あの高台で、ウィバーナは自分の過去とその存在を明かし、それでも尚自分の夢を叫んだ。
獣領の皆に認められたい、その願いの行き着く場所が酷く残酷な運命だったかを、あの夜に思い知った。
その苦しみを理解するなんて、簡単に言っていいことではない。諦めたのでもなく、届かなかったのでもなく、ただの悪意によって、ただ踏み潰されてしまった儚い想いだ。
....それでも、言わないといけないこと、伝えないといけないことがあるからアミネスは。
「私は知ってるんだよっ。ウィーちゃんは、誰よりも笑顔が似合う女の子なんだってっ!!」
想いのままアミネスの声が強くなり、それがまるで心を表すようで、ウィバーナは聞きたくないとばかりに必死に耳を覆う。
それでもまだ、ウィバーナには言葉が届く。絶対に届くのだと、これまでの思い出と今の自分を信じる。
アミネスはあの高台で、ウィバーナの夢を否定した。
叶うはずのないものを、身の丈を知らない夢を、自分が為さねばならないものと重ねて、それを否定し続け、大切なことを見失っていた。
もうそんなことにはならない。信じることを誓い、信じてくれる人がいるから、もうアミネスは違わない。
「私は、ウィーちゃんが笑顔を見せずに独りで悲しむところなんて見たくない。できるのなら、身を寄せて震える心を慰めてあげたい。私はずっと、ウィーちゃんと一緒にいたいの。だから、私はウィーちゃんの拒絶なんて、絶対受け入れたりなんてしないっ。だって....だってさ、これが私からウィーちゃんにできる精一杯の愛情表現なんだもんっ」
潤み声になりながらも、想いの丈を伝えるアミネス。
ウィバーナを映していたはずの視界は、今にも滴らんとするに涙によって上手く見えないでいる。
自分の言葉がウィバーナに届いたのか、伝わってくれたのか、霞んで映るウィバーナがどんな表情しているのか.....。
伝えきったのだから、きっと届いて......。
「....もう、そんにゃのやめてよ」
そんなこと、アミネスだけの感情に過ぎない。
アミネス一人の何かで、ウィバーナは自分を許せたりしない。
長く耐えてきた苦しみが、たったそれだけの言葉で、感情で、想い一つで動かされるようなものじゃない。
ウィバーナはアミネスの言葉に呼応するような自分の涙を気取らせまいとするように、しかし打ち沈んだ調子でこう言い出した。
「もう....お願いだから放っておいてよ」
「どうして.....分かってくれないのっ!?」
「っ、分かってないのはアミちゃんの方だよっ!!」
声を張り上げたウィバーナの勢いに圧され、アミネスの瞳から涙が滴っていく。
そうして映ったウィバーナは、強く意志の込められた声とは違い、とても弱々しい表情だった。
戸惑い、言葉を失うアミネスの心に、ウィバーナは叫んだ。
「にゃんでわたしの言うこと聞いてくれにゃいのっ!?わたしがみんにゃのために必死で考えて、たくさん泣いて悩んだことにゃのに、どうしてアミちゃんはいつもいつも簡単に否定しちゃうのっ!?」
どうして否定するかなんて、そんなの当たり前だ。
心配する声も想う言葉すら聞かずに自分を犠牲にして、それで何もかもが平穏だなんて、そんな自己犠牲の考え、アミネスが肯定するわけない。
「そんなことをウィーちゃんがする必要なんてないからだよっ。なんでそこまで、自分だけでどうにかしようと思っちゃうのっ?頼ってくれれば何だって協力してあげる、ウィーちゃんの周りにはそういう人たちがいるんだよっ」
「誰かに助けてほしいにゃんて思ってにゃい。巻き込みたくにゃんてにゃいから、わたしににゃんて関わらにゃいでって言ってるんだよっ!!」
叫び度、ウィバーナの顔はどんどんと悲しみに曇り続ける。心はもう限界を迎え、それに気付かない振りをして、今のウィバーナはこうしているのだろう。
「....もう悲しい思いをするのはわたしだけでいいから.....そうじゃにゃいとダメにゃの。わたしがみんにゃの事を想ってどれだけ頑張って行動しても、誰も守れにゃいで傷付けるばかりにゃら、わたしは....わたしがこうするしかにゃかったんだよ」
背負うことのないものまで背負って、重荷を分け合う手すら拒んで、一人で塞ぎ込んで....暗い未来しかないだなんて、誰もが一緒に歩むことを嫌がるなんて、勝手に決め付けないでほしい。
一緒に背負いたいと手を差し伸べる手があり、一緒に歩みたいと願う者がいる。
だから、ウィバーナを否定し続ける。
これから先の未来、そこに光を見出せないのなら、光を見せてあげればいい。アミネス自身がウィバーナの光となればいいだけだ。
その光で、ウィバーナの道を照らす。
その先には暗闇なんて存在しない。ウィバーナの笑顔が温かさの中心にあるような、在るべき美しい未来へ。
ーーーーー何より、アミネスは約束したから。
「ウィーちゃんは私を、守ってくれるんでしょ?なら、ずっとずっと一緒にいてよ、離れてなんて言わないでよっ」
高台からの帰り道に、ウィバーナは守ると言ってくれた。その場限りのものになんてさせない。
絶対離れない、アミネスがその断固たる意志を貫き、それすらも理由にしたとしても、....ウィバーナは譲れない。
「わたしが一緒にいたら、いつかまた、守る前にわたしがアミちゃんを傷付けるかもしれにゃいんだよ。わたしだけの力じゃ止められにゃいの、もう大切にゃものを失いたくにゃんてにゃいのっ。だからっ」
「そうだとしても、その時にはみんながいる。いてくれてる。困った時には、温かい手を差し伸べてくれるよ。カイザンさんだって、領主のリュファイスさん、それに他の人だってみんな。これから出会う人たち、みんながウィーちゃんを助けようとしてくれる。....迷惑だなんて思わないでよ。誰かが大切な人と一緒にいることが、自分自身の望み以外の何だって言うの?」
どうして、そんなに自分の周りにいた人たちを信じてくれないのか。みんなとの関係の中に、多重血も何も関係ない。獣種だったからじゃない。ウィバーナだったから、みんなが大切に想ってくれたんだ。
どうして、素直に想いを伝えてくれないのか。アミネスがウィバーナの性格を一番知っている。寂しくないはずなんてない、ならその気持ちを叫ぶだけで、アミネスはずっと一緒にいるのに。
どうして、そこまで....。
「関係のにゃい領の人たちまで巻き込んだんだよ。わたしがここにいることが、たくさんの人を傷付けて、不幸にするのっ」
ウィバーナが傷付けたのだと叫ぶのは、何もアミネスたちだけのことだけなんじゃない。
....だから、リュファイスは下したのだ、この決断を。非情な選択だと分かっていながら、彼はそうした。
二度も過ちを犯した者は....、
「....光衛団の件が終わったらもう、ウィーちゃんはこの領にいられないの。....追放、されたんだよ。だから、そんなことを気にする必要はもうないんだよ」
「え.....っ」
ウィバーナの瞳が動揺に揺れているのが分かる。そこから感情がどういう方向に動いてくのかも分かる。
わざと言わなかったんじゃない。最初から伝えることもできた。....いや、できなかった。
またも、アミネスは逃げを選択してしまった。
ウィバーナに伝えることでどんな顔をされるのか、それが怖くて、言い出せずにいた。
「.....」
「.....もう、十分罰は受けたんだよ。これ以上、何かを負わなくてもいいんだって、だからさ....」
「.....」
俯いて、表情が見えなくなるウィバーナ。
小さく何かを言った気がして、顔を覗き込もうとしたアミネスに、ウィバーナは叫んだ。
「....にゃらっ、わたしの想いはどうすればいいのっ!!」
「っ.......もう、過去のことなんて忘れていいんだよっ。ウィーちゃんが悪いことも何もないって、みんな思ってる。....けど、リュファイスさんは領主としてその選択をしただけで、ウィーちゃんが望んでくれるなら、わたしとカイザンさんはずっと....」
領から追放されたって、決して一人になる訳じゃない。自分たちがーーーーアミネスとカイザンが一緒にいる。これからずっと一緒に旅をしようと、そう言ってくれるのがカイザンなんだ。
....だから、もう。
「....無理だよ。忘れるにゃんて無理にゃんだよっ」
過去なんて忘れてしまえばいい。説得の材料として言ったアミネスのその提案を、ウィバーナは弱々しい声で不可能だと告げた。
確かに、思い出したくないこと、忘れたいことを本当に忘れることなんてのは無理だ。でも、それ以外のことで埋めることはできる。そして、それをするのがアミネスたちだ。
「そんなことないよっ。私が、私たちがそんな記憶、これから幸せな記憶で覆い尽くしてさ....」
「わたしだって、またみんにゃと一緒にいたいって、何度も思ったよっ。...必死で思いを隠して、いくら考えにゃいようにしても、あの楽しかった毎日がずっとこっちに光を向けてくるの。.....でも、手を伸ばした先には、あの日の光景が待ってるの。....忘れられにゃいんだよ」
静かに息を呑むアミネスを他所に、ウィバーナの脳裏にはその光景が再び呼び起こされている。
六年前に門を開いたウィバーナは多くの子供を、駆け付けた兵士たちを、そこにいた領民を血に染まりながら蹂躙し続けた。
想像すらも悍しいその光景が、ウィバーナの目蓋に焼き付いて剥がれない。
少しでも思考がそれへと呑まれれば、恐怖に染まった悲鳴や肉を抉り取る悲痛な音が脳に直接に鳴り響いてくる。
目を背けても、覆っても、それは見え続ける。
耳を塞いで、音を遮断しても、それは聞こえ続ける。
その地獄に耐えきれてきたはずがない。
「もう....私は無理だよ。もう、わたしは幸せにはにゃれにゃい。あの音が、あの光景が、わたしをそうさせてくれにゃんかしにゃい」
ウィバーナの過去は、アミネスの思う何倍も辛く、苦しいものだ。思い浮かべることも叶わない、血塗れた世界。
無くなってしまえばいい過去だ。そう誰もが思うもの。
.......だけど、今のウィバーナにとって無くなっていい過去なんてないんだと、アミネスはそう確信している。
酷いと一蹴してくれて構わない。
アミネスは今、自分の信条を押し付けようとしている。それが本当に正しいものなのか、まだ自分でもわかっていない。でも、口にしなきゃ始まらない。
苦しいことや悲しいこと、過去の犯したものも後悔も、辛く耐えきれないものならば、責任から逃げたっていい。忘れてしまってもいい。誰かに頼ることもまた手だ。
だけど、自分の過去は簡単に否定しないでほしい。
辛い記憶もそのひと時も、その過去が今の自分自身を作ったものなのだから、それを否定するのは、今までの出会いや今に至るまでの全て、今の自分自身そのものを否定することと同じだ。
自分の在り方を見失うその行為こそ、何もよりも愚かで醜いことだとアミネスは思っている。
「私はウィーちゃんがどれだけ苦しんで来たかを知らないよ。だから私は、今を言う。過去のウィーちゃんに無かったものが、今のウィーちゃんにある。それは嫌な記憶もあって当然だと思う。でも、それだけじゃないはずだよ。......だって、私たちと出会えたでしょ。酷い事を言ってるのは自分でも理解してる。でも、これだけは信じてよ。ウィーちゃんにその過去があったから、私たちは出逢えて、こうやって仲良くなれた。だから、だからさ、その今を信じてよっ」
アミネスは過去を後悔したり恥じたりしたことはあっても、無くしたいだなんて思ったことも、過去の自分を否定したことはない。
その過去が至る今の自分が一番自分らしくて、一番好きな道を歩いていると、そう自信を持っているから。
....もし、ウィバーナが本心からアミネスやカイザンたちとの出会いを無かったことにしたいと思うのなら、願うままに受け入れる。
でも、ウィバーナの本心は.....。
「....わたしは、アミちゃんと一緒にいたいよ....みんにゃと幸せに、一日中笑っていられるようにゃ楽しい日々を一緒に過ごしたいよ。....でも、だめにゃんだって....」
ウィバーナからすれば、自分の本心なんてどうでもいいことだ。伝えたって意味がない。
ウィバーナは今、自分ではどうすることもできないことに涙を流している。願うだけでも、逃げることでも、決して離れられない自分の罪に....。
「....わたしは......自分が許せにゃい。獣領のみんな、許してにゃんかくれにゃい....許せるはずにゃいじゃん....」
感情が口によく出るウィバーナは、常に震えている。体も声も、小さな体に詰め込まれた大きなものに耐えきれず。
......
そっと、アミネスは未だに布団を離せずにいるウィバーナの手を取り、両手で優しく包み込んだ。
抵抗なんてなく、むしろ力のない弱々しい手だった。
許されなくたって、その分にこんなにも苦しんだのだから、それでいい。本当なら、アミネスはそう声をかけた。
しかし、それを言っても、ウィバーナは納得なんてしないのは当然のことだ。純真なウィバーナにはそんなことはできない。許されないままでいる自分を許せないんだ。
.....だったら、
「償えばいいだけのことだよ。ウィーちゃん」
「....償う?」
手に伝わる温かみを感じながら、アミネスの提案に対して、小さく弱々しい声音で返したウィバーナ。
だが、その瞳に微かな希望の色を想わせ、アミネスを一心に見つめていた。
「自分を許せなくて、みんなから許してほしいって思うなら、追放までの一週間、できるだけの何かをしよう。例えば....まずは被害にあった人たちへのお見舞いに行くことから始まって、被害のあった地区の復興を手伝ったりするだけでも、それが償いになるんだよ。....私から提案したことだけど、たぶん、それだけのことじゃ誰からも許してもらえないかもしれない。でも、許されるだけのことはしようよ。ウィーちゃんの悔いがないように。もちろん、私も手伝うからさ」
手が強く握られた。光を見つけ、追い求めるような瞳がこちらを大きく覗いてる。
ウィバーナが無意識にそうしたもの。握られた手は痛くなんてない、むしろそれがあるおかげで心に安心が生まれるのなら、なんだって受け入れる。
自分のの存在を感じてくれるなら、それでいい。
ウィバーナの心がようやく、手を伸ばし、戻ろうとしている。
ウィバーナにその自覚がないのなら、アミネスは自ら手を差し伸べるだけのこと。
「精一杯償えば、わかってくれる人もいる。心の底から返してあげればいい。ウィーちゃんが守衛として守り、愛し続けたこの領は、足を踏み外したとしても落ちないように支えてくれてずっと見守ってくれる。ウィーちゃんがこの領を大好きだっていう、その想いの分だけ」
追放はもうどうにもならないことだ。
でも、領の裏切り者なんて言われたままで終わらない。アミネスが終わらせない。ウィバーナがどれだけ獣領を思い続けたか、それを知っているから。
「あの夜ウィーちゃんは門を開いて、カイザンさんたちが駆けつけるまで誰も止められなかったのに、奇跡的に負傷者はいなかった。それってさ、偶然とかじゃなくて、ウィーちゃんの意識が限界まで抗ってたんじゃないかなって、私は思うよ。もう間違っちゃいけないって、頑張ってたんだよ。悪くないんだって、ウィーちゃんの周りにいる人たちはみんなわかってる。....残りの一週間、償いの中でやり場のない怒りがウィーちゃんに向けられることは避けられない。でも大丈夫、わかってくれる人がいるから、絶対に一人になんてならない」
レーミアたちがウィバーナを本気で助けようとしたのは、本気で死なせたくなんかない大切な存在だったから。
ウィバーナの周りにいるたくさんの人が、支え助け、信じ続けてくれる。
「一緒にいる、一番の味方でいるからさ。だから、確証のない何かに怖がる必要も、自分を貶める必要もないんだよ。そんなもの、私が全否定して見せるから。だからさ、もう大丈夫だから....そんなに辛そうな顔をしないでよ。ウィーちゃんは笑顔が一番似合う女の子って、みんなが思ってるんだもん。....もちろん、それを私が一番想ってるんだからね」
ウィバーナのために、アミネスは止まらなかった。
背負うばかりなら、それを償いに変えることができる。それでも重く苦しいものなら、アミネスは手を差し伸べ、共に支えてくれる。何があっても、一緒にいてくれる。
償い程度のものじゃ傷付けてしまった人たちの誰からも許されないかもしれないけど、わかってくれる人がいることの幸せを知って欲しかった。
一人じゃないって、わかってほしい。一人になんかしないって、信じて欲しい。一緒にいたいと、そう願ってほしい。....だから、
「ねぇ、最後に」
握っていた手をそっと離して、向き合うウィバーナの頰に触れる。怯えるように揺らめくその瞳に見える光を信じて。
一方で、涙の跡の残った頰に当てられた手は熱く、アミネスの瞳は優しく見つめていてくれる。空色の瞳の奥に、自分の求めていた光を見つけて。
....こうして心を通わせていられる今、聞きたいことがある。
「一方が自分の想いを押し付けたりするじゃなくて、お互いに望みを言い合って、そうしてウィーちゃんの本当を聞かせてよ」
「お互いの望み....?」
「そう。ウィーちゃんが私に望んでいること。私の方は、ウィーちゃんに望んでいることを言うの。ねぇ、いいでしょう?」
「わたしが、アミちゃんに望むこと....」
思いを巡らすウィバーナの答え.......そんなの、一つしかないじゃないか。
どれだけ拒絶しても、離れようとしてくれない。決して一人になんてさせない。
どれだけ過去に縛られても、明るい未来を見出してくれる。過去のことを忘れさせようとしてくれる。
大切で大切で大切で、大好きな....。
そんなアミネスに心から望むもの.....
「....わたしは、アミちゃんに」
あの日に全てを知ってから、ウィバーナを見る目が少しも変わらなかったとは言えない。
あの夜、自分のことすら忘れ、自分に爪を向けたウィバーナに恐怖を抱いたことだって事実だ。
ウィバーナを追い詰める理不尽さの一端に加担してしまったようなことを、許してほしいと願うのはアミネスの方だ。
互いに負い目のあるような関係だとしてもいい。今、一緒にいてくれるなら、これからも一緒にいさせてくれるなら、どんな償いもしてみせるから。
....だから、ウィバーナにそれを望むんだ。
「....私は、ウィーちゃんに」
ウィバーナもわかっている。アミネスが何を言わせたいのかなんて。
....もういっそのこと、言ってしまえばいい。
それを言って救われるのなら、それが真に望んでいることなのだから。
それを言うことに、嫌な気なんて一切ないんだもん。
....それはまた、アミネスも同じこと。
「「ずっと、親友でいてほしい」」
声を合わせ、共に同じ望みを告げた。
互いに同じ想いを持っていたことに自信がなかった訳じゃない。それでも、こうして言い合いたかった。想いを言葉にしなきゃ、胸の内に秘めているだけじゃ、それが本当になってくれないから。
アミネスの指を、ウィバーナの涙が伝っていく。
その瞳の向こうで、アミネスの涙もまた、静かに頬を伝っている。
ようやく、ウィバーナの本当を知れた。
その待ち侘びた瞬間にこみ上げるものがないはずがない。
やっと、本当を伝えられた。
知ってもらえた喜びにすがりつくように、その感情が少しでも冷めてしまう前にウィバーナは....
「わたしはずっと、....アミちゃんの親友でいていいの?」
「私が望んだことだもん。ずっとずっと、親友でいてよ」
「....アミちゃんはずっと、わたしの親友でいてくれるの?」
「ウィーちゃんが望んでくれたから、私はずっと親友でいるよ」
望む言葉を交わし、ウィバーナの問いを返して、微笑みを浮かべるアミネス。
その言葉で、その想いと願いで、その微笑みで。
心で深く抱え続けていた何もかもが、救われた気がした。ーーーいや、きっともう、この心は救われたのだと、そう確信した。
六年前からずっと、忘れてしまっていた。誰も触れようとはしなかった。見捨てるように、壊れないようにと、誰からも開かれることがなく、長い間放置され続けていた感情。
それが今、アミネスの想いによって優しく解き放たれた。
「アミちゃんっ!!」
流れの小さかった涙が、心で溢れゆく感情に圧されて、再び勢いを増して流れ落ちていく。
それだけでは抑えきれない感情のまま、布団を離して飛びつくようにすぐ横のアミネスに抱きついた。
「っ、ウィーちゃんっ」
急に抱き付かれことに驚くアミネス。
幼い子供のように泣きじゃくるウィバーナによって、気が付けばあっという間にアミネスの胸元がすぐにびしょ濡れになってしまった。
でも、それを嫌がったりなんてしない。
ウィバーナが一緒を望んでくれたのだから、今は何もかも受け入れてあげるつもりだ。
泣くことに力の入ったウィバーナの握力はとても弱々しく、離れまいと力の限り必死に抱き付く姿を見て、アミネスはその背中に腕を伸ばす。
互いの距離に間なんてものはなく、お互いの心が通じ合っているように感じる。
それが、心から嬉しかった。
数分が経ち、部屋に夕陽が差し込んできた頃、
しばらく泣き続け、涙の勢いが弱まり始めたウィバーナが顔を上げ、近い状態で見つめ合いながら問いかけてきた。
「わたしは、みんにゃと......アミちゃんやカイザンと一緒にいていいの?」
突き放すのではなく、求めてくれる。
待ちわびたその問いかけに、アミネスは柔らかな笑みとともに返した。
「当たり前だよ、そんなこと。カイザンさんだって、ウィーちゃんを大切に想ってるから」
「みんにゃはわたしのこと、許してくれるかにゃ?」
「誰も責めてなんかいないよ」
「みんにゃはわたしのこと、嫌いににゃってにゃいかにゃ?」
「みんな、ウィーちゃんのことが大好きだよっ」
その優しい声で、心の底からほっとするのを感じる事に思わず笑みをこぼすウィバーナ。これが幸せの笑みというものなのだろう。
ーーーやっぱり、止まってくれそうににゃい。
涙は決して、悲しい時ばかりに溢れるものじゃない。
いつか誰かに教えてもらったことが、やっと、本当にやっと、わかった気がした。
きっと、今もまた流れゆくこれのことを言っているんだ。
目の前で笑顔のまま涙を流す親友に、アミネスはすっと小指を差し出した。
「さっきの望み、約束にしようよ」
「....約束?」
戸惑いながらも真似てゆっくりと指を出すウィバーナ。
アミネスは力のないそれを掴んで、小指を絡ませる。
「約束、私はウィーちゃんとずっと一緒にいるよ」
「ぁ、アミちゃん........うんっ、わたしも約束する!絶対にもう、破ったりにゃんかしにゃいっ」
アミネスの優しさを受け入れ、ウィバーナが力のこもった声と満面の笑みで繋いだ小指に想いを込める。
心を闇から救い出してくれるようなアミネスの指の温もりを感じながら、優しく上下に振って涙を吹き飛ばすように約束を誓い合った。
「「わたしたちは、いつまでも一緒だよっ」」
「いつまでも」.....その一言がウィバーナにとっては何よりも嬉しい言葉だった。
優しい語りかけや最後の約束に至るまで、アミネスの言葉はこれからずっとウィバーナを支える大切なものになった。親友が心の支えなのだ。
もう絶対に傷付けない。アミネスを守るために、絶対間違ったりなんてしない。その心さえあれば、これから先、負ける気なんてしない強い心を持てた。
勇気を持ち、誓いを立て、小指をそっと離したウィバーナは、どうしても伝えたいことがあった。
それは実に今更のことだ。でも、言葉では伝えたことなんてなかったから。
「アミちゃん....」
「ん、なに?」
さっきまでの声の震えなんてもうどこにもない。
突き放す必要も、自身を憎む必要もない。
今だから言える、今だからこそ伝えられる。
だから、ウィバーナは最高の笑顔で言った。
「ありがとう。わたし、アミちゃんが大好きだよっ!!」
「うん、私もウィーちゃんが大好きっ!!」
面と向かっては恥ずかしくて言えなかった言葉を、二人は出会ってから一番の笑顔で言った。
喜んで、はにかんで、笑って。
そうやって最後に見せる笑顔が何より魅力で、アミネスはそんなウィバーナが大好きだ。
いつも優しく微笑んで、一番に自分のことを想ってくれる。ウィバーナはそんなアミネスが大好きだ。
ーーーこの笑顔を、ずっと守っていたい。
その願いが、二人を繋ぐ掛け替えの無い絆となる。
互いに望み、互いに誓い、互いに願った。互いの想いを。
だって、二人は想い合う大切な親友なのだから。
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朗報を待ち望んでいたものの、アミネスがなかなか戻って来ないことに空気の読めない嫌な予感を感じていたカイザンは、物音一つ聞こえないウィバーナの部屋をそっと覗いてみた。
そこには、肩を並べながら寝ている可愛らしい寝顔が並んでおり、本当に勝手に感じていた緊張感を解いて、我ながら自分らしくもないと思う微笑をこぼす。
「ほんとに、俺を置いて仲良くなったもんだな」
別に嫌みで言った訳じゃない。ただ純粋に二人をーーーーー親友の二人の友情と、パートナーの頑張りを素直に褒めてあげただけだ。
その後、部屋を見てニヤついているカイザンをルギリアスが連行し、その日のことは無事に終わるのであった....。
カイザン&アミネス
※ただいま新型コロナ流行につき、この次回予告雑談は互いの距離を二メートル空けて行っております。
「無知で無教養なカイザンさんのために、今一度、魔力の持つの属性についての話をしましょう」
「これでも義務教育を終えてるんだけどな。異世界の知識なんてさすがに学ばねぇよ」
「言い訳なんて見苦しいだけなので、突き詰めていきましょうか」
「いや、自分で言うのもなんだけど、普通言い訳ってスルーしない?突き詰めていくタイプは初めてなんだけど」
「普通とか常識とかの狭い思考領域でしか行動できないから、カイザンさんはダメなんですよ」
「はいはい、わかりましたー。それより、もう次回予告雑談終わりそうなんだけど」
「でしたら、続きは次の次回予告にしましょうか」
「え、次回予告って次回に引き継いでいいタイプだっけか?」
「次回、最暇の第四十二話「カイザンの負い目」....あの、次回に説明するのでもう言うことないんですけど」




