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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章 獣領の騒乱 編
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第三十七話 久しぶりの活躍所〜それに応える者〜

 作戦はこうだ。


 獣種の門[獅子之獣乱]を開いてしまったウィバーナを止めるには、現状ではカイザンの特殊能力[データ改ざん]を使用する他ない。

 当初はルギリアスに動きを止めてもらう予定であったが、比較にならないレベルで心強い援軍たるレーミアを加えて、今更ながら合流した残る[五神最将]団員の二人の総名四人でウィバーナの動きを止める事になった。


 相手が獣種である以上、背後からの奇襲は意味がない。むしろ危険過ぎる行為だ。故に、カイザンがウィバーナに近付くには、無事に放てるまでの時間稼ぎが必要。....と言いたいところだが、残念な事に[データ改ざん]は対象となる者以外に周囲内に他の者が存在する場合は成立しない嫌な特典が付いている。


 となると、残る要員は一人。アミネスだ。


 今までこれと言った活躍のなかったマイ・パートナー。タライを造ったところ以外は知らない。


 正直、密度の高いものを造れない創造種に何ができるのかと思うところは十分にあるが、ここはパートナーを信じてみようと思う。



 現在、カイザンたちは先程の位置とはかなり離れた場所での待機中。レーミアが相手をしつつ、自然に誘導して来てくれる手筈だ。


「とまあ、こんな作戦が本当に上手く行くかは未知数だよな。そりゃ初めてだし。ちなみに言うと、俺の中での不安要素ってのは.....」

「それが俺を指しているのなら、俺からしても貴様が不安要素だと言っておこう」

「この作戦の要に不安感じたんなら降りても構わないぞ。ルギ無しでウィバーナ救えたら、ちゃんとそう報告してやるからさ」

「そこで争われても困るんですけど」


 大事な作戦前だと言うのに無駄話を続ける二人にアミネスから不満の一言。

 別にカイザンとしては言い争っている自覚も何もないが、ルギリアスとしては対抗心か何かがあるのだろう。


 何にせよ、アミネスの言い分が正しい。

 緊張感を無くす迷惑な行為.....と思えているのは、アミネスだけで....。


「ルギリアスったら、噂の最強種族とそこまで仲良いなんてやるじゃない。アタシを差し置いて、もぉ♡。......まあ、そんなところが私のお♡き♡に♡入り♡り♡」


・・・意外にも低い声で最後の言わないでほしいんだが。


 [五神最将]団員、スネイク・フェリオル。獣身の異能[蛇足]。一応、性別はオスである。


「いやはや、感服ですな。リュファイス領主に続き、ルギリアス殿までもがこうも親しげに。これでこのフェリオルも安泰というもの。実に天晴れ」


・・・なんで長老的な視点なんだよ。


 [五神最将]団員、ツノーク・フェリオル。獣身の異能[一本角]。今年で二十歳になったばかり。


 後々合流の二人には緊張感なんてまるでなかった。


 とはいえ、カイザンにだって緊張感ぐらいある。むしろ、この新キャラ登場イベントに対して、ちょっとした危機感すら感じている。


・・・何なんだよ。この明らかにモブだろうに結果残しに来たみたいなキャラ祭りはよ。今更、本格登場とか遅すぎるんだよ。この場は俺のターンなんだからさ、控えて欲しい訳。久しぶりの活躍所なの。わかる?


 分かるはずがない。素直に諦めるまで何分かは要した。


 作戦前にギリギリで集合できた二人は、カイザンからあらかたの状況と作戦内容を知らされ、同じく待機中。さっきからやたらルギリアスとの会話に入ってくる。

 少しでも目立とうという作戦だろうか?


 先日のウィバーナ活躍によって忘れられてそうな主人公位置を取り戻すためにも、あのレーミアすら出し抜いて目立つ必要がある。

 そう考えているぱーとなーの心を読めるからこそ真に不安要素しか感じないアミネス。


「そろそろ本当に集中して......」


 そこまで言いかけて、ルギリアスを始めとした[五神最将]たちの目つきが変わったことに気付いた。


 カイザンも雰囲気から何かを察した頃、ルギリアスは拳を強く握り締め、全員の顔を見る。


「準備は良いか?」

「良くなくても強制スタートだろ。いいよ、心構えもバッチリ。だろ?アミネス」

「はい、もちろんです」


 急なスイッチの入れ替えに戸惑うのが普通でも、カイザンの心を見越して急な質問にも笑顔で答えるアミネス。自信はかなり高そうだ。


 自分への単純な自信なのか、ウィバーナに対する気持ちからの自信なのか。どちらにしろ、偽りでないことは確か。頼り甲斐があるというもの。


「その元気の良い返事とともにアミネスを信じるからな」

「私から信じるかは分かりませんけど、カイザンさんから信じるのは勝手ですから」

「ん?...なんか、急に突き放された気が...」

「後にしろ、来るぞ」


 背を向けたまま二人を静かにさせたルギリアスが、先陣を切って飛び出していく。

 続けてスネイク、ツノークと駆け出す。カイザンたちはもちろん最後。


 路地裏で隠れていた訳ではないカイザンたち、真っ向から迫って来るレーミアたちに対し、縦並びで整列。パーティー方針はガンガン活躍しようぜ。


 前から見てルギリアスの影に入ってしまっている件については後で愚痴をこぼす予定のカイザン。


 こんな状況な訳なので、アミネスはいちいちため息を吐いたりなんてしない。それが何故だか悔しくなったカイザンが何か言おうとしたその時、


「キキギギキキキーーー」


 とっさに耳を塞いでよかったと本当に思った。

 鋼が煉瓦を滑っていくような不快音が地面を打ち付けていくように迫ってきたのだ。


 レーミアによる自分たちの接近と無事を知らせるための行動だろう。しばらくの間、ウィバーナの注意を引きつける危険な役を任せたが故に、カイザンたちも心配をしていた。安心して耳から手を離す。


 心配していたカイザンたち.......その中でも一人、ズバ抜けた心配性男が。

 何かを察知したスネイクとツノークが瞬時に耳を塞いだ。釣られて同じ行動をするカイザンとアミネス。


「レーミア様っ!!!!」


・・・ぬぐぐくぐくぐぐぅるさいっ。


 身を案じてなのか、急にその名を叫ぶルギリアス。


 二人の行動が素早かったことから、癖か何かなのだろうか。ビースト・ペアレントといい、いろいろ大変なやつだと思う。あえて言うのなら、面倒なやつ。


「今からそっち行くから、攻撃しないでよ」


 とてつもなかったルギリアスのある意味の咆哮。それに答えたようで答えていないレーミアがよく分からない返答を返してきた。


 その発言の意図とは、獣種ならではの問題があるから.....。


 ルギリアスがそれに気付ける前に、遠くに居たはずのレーミアの姿が一瞬にして目の前にまで近付いていた。


・・・えっ.............。えっ?


 よく意味が分からなかったので、そんな反応をしておく。


「......れ、レーミア様っ!?」

「だから言ったでしょ、後一瞬、自制心が遅れてたら当たってたわよ。気を付けなさい」


 特殊錬技[身体強化]を足先に集中させた踏み込みの刹那的なまでの接近から、地面に足を刺すような雑な急ブレーキをかけたレーミア。その整った顔のすぐ横にルギリアスの手刀が静止していた。


 レーミアが予めこの事を伝えていなかったら、ルギリアスは本人の意志を無視した本能的行動によって危害を加えていたかもしれない。


 無理もない、今の緊張感だ。ウィバーナへの対処を考えるあまりにそうなってしまうのは当然。


 案の定、命令の意図に気付くのが遅かったルギリアスは、手刀を繰り出そうとしてしまった訳だが。


・・・当たってたら、ここが処刑場と化していたんだろうな。あー、怖い。


 後ろに下がるルギリアスへの刑罰を後にして、レーミアはその後ろに目を向ける。


「二人とも、やっと来たのね。お仕置きは明日するから、待ってなさい」


 言い訳を聞かない確定的死刑判決。当然だ。領主の妹が戦場に出ているのに、守衛団が遅れて登場など。ここは真摯に受け止め.....。


「これでも急いだ方なのよ。アタシは走るのがあまり得意じゃないけど、全力も全力で走って来たのー。もー、すっごぉい疲れてるのっ♡」

「スネイク殿の言う通りですぞ。爆発音を聞いて急いで現地に向かったが誰も居らんかったから、ちょいとそこらで五感研ぎ澄まさせておったら、たまたま見つけてかな。怒らんでほしいのじゃ、レーミア様」


 何の悪気もなく言ってみせた二人。

 その堂々たる振る舞いに、レーミアも許さざるを得な.....。


「最近、どんどんと礼儀が無くなってきてるわね。ちょっとどころか、かなり馴れ馴れしいっていつも言ってるでしょ。ウィバーナが特別なだけで、あなたたちも領民の一人なのっ!! 分かる?」

「「・・・・・・・」」

「何か言いなさいよっ!!」


 思いの外、アットホームな獣領の守衛団と王族組。

 反省の色が見られない二人は、ルギリアスがすぐさま叱りつけた所で、レーミアはまだ刺さってた足を豪快に引き抜き、華麗に踵を返して大剣を構える。


 ゆっくりと近付いてくる小さな影。余剰分として漏れ出た魔力が微かに発光して、所々が見えてくる。


 すっと振り返り、目線だけで指示をするレーミア。それを受け取ったルギリアスは、即座に後方へと跳んで距離を取る。


「....さあ、ここからが本番ね。ウィバーナ」


 丁度、街灯に照らされ、八重歯を剥き出しにした無傷のウィバーナが現れた。

 レーミアがわざと急所を外し、刄を深く入れていないのもそうだが、再生能力が異常なまでに高い。

 レンディの一件よりかは高くはないが、門開放の凄まじさを物語り、改めて実感する。


 さらに言うならば、獣種とは思えない程の魔力保有量だ。


 でも、怯んだりなんてしない。むしろ獣種なら闘志を燃やすべき場面だ。レーミアだって例外ではない。


 ウィバーナがすぐに近付こうとしないのなら、先手を取る。圧倒的差を錯覚でもいいから見せつければ、それだけで隙を作れる。そうすれば、カイザンが。


「来ないなら、私か...っ」「ーーッ!!」


 ちょっとした瞬きの刹那、それを狙ってか、ウィバーナが踏み込んだ。

 足先にのみに雷を集中させた光速走行が迫り来る。


 それも、ただの接近ではなく、拳を構えた攻撃を伴う奇襲だ。


 レーミアが漏らした言葉は、ウィバーナの速さに驚いたもの。それが示すのは、この接近でのウィバーナの速度に......ではない。


 この接近自体、レーミアからすれば大した速さではないのだ。驚いた点はただ一つ。急激な速度上昇にある。


 ウィバーナはこの戦闘の中、常に本気の状態にあった。つまり、この速度上昇はレーミアと対峙してからの後天性のもの。


 ウィバーナはこの戦いの中で獣人型とは思えないレベルで経験を積んで自身の強化を続けている。おそらく、ここでの成長を平常時に引き継ぐことはできないだろう。だからこそ、この状況でこそ真に力を発揮する。


 本能のまま動くウィバーナには躊躇いがない。だから、攻撃は常に急所か確実に動きを止めることのできる箇所を定めてのもの。


 故にだ。低い姿勢で手を引くウィバーナがそれを放つ場所は簡単に予想がつく。上半身を傾けて、それに合わせて片足を後ろに引いた。目の前を拳が素通りしていく。やはり一直線に額を狙ったものだ。


 次に来るのは、予め予測して次の回避へと繋げる。前の足をさらに下げて、大剣を盾にしながら元の体勢へと戻る。

 そこからすぐに切り替え、いつまでも攻撃されっぱなしなど許さない。


 二人にとって、攻守の入れ替えはないと言っても過言がない程、速すぎる展開の連続。


 そんな二人の圧倒的戦いを前に、動こうとしたルギリアスは感情を抑えきれずに歯を噛んでいた。


 レーミアがリーチの長い大剣を扱う以上、不用意に近付けないルギリアスたち。それに、ルギリアスは作戦前にレーミアから「私の邪魔だけはしないでね」と脅しめに忠告されている。

 スネイクとツノークもまた、ルギリアスが動かない限り、勝手な判断で動くことはできない。


 レーミアの実力だけが唯一の頼りである。


 巧みに剣を振るい、拳撃の数々を受け流しつつ、隙の多い蹴り技の際にカウンターを返す。しかし、どれも回避か防御のどちらかで対応され、攻撃として入っていない。


 徐々に、だが確実にレーミアの動きとその速度に適応し始めている。否、このまま行けば、レーミアを超えるかもしれない速度の成長。


 もっともの脅威は、それが完全に魔力を纏っている状態でないこと。

 レーミアの持つ大剣、[獣王の獅子剣]の特性がウィバーナの魔力を喰らい続けているから今の状況が成立している。

 素早い動きの中で一瞬にして魔力を高密度にすることが不可能なため、今のウィバーナは本気になれていない。


 それでも、気を抜く瞬間的な隙を突かれてはある程度の密度を保った魔力が襲いかかることもある。

 そんな中でもし、大剣による防御に伴う魔力の吸収が間に合わなかったともなれば....。


「グゥウルルルァァアアーーーッ!!」


 単発的な強打で大剣を弾いたウィバーナ、計算した上での攻撃。レーミアが構え直すよりも早く、炎を纏った刄の如く獣爪を放つ。その斬りかかりを避けるために反対方向たる後方へと跳んだレーミア。

 大剣での受けは間に合わず、素手では受け止めきれないと判断した、とっさの回避だ。

 故に、次に繋げられない一手となってしまった。


 前衛姿勢のウィバーナからすれば、ただ正面へと飛び込むだけで連撃が成立するようなもの。


 レーミアが着地する前に、ウィバーナの踏み込む足が地に着いた。


・・・どうする。どうすれば....。


 動きを重視したがための一撃を受けることすら許さない紙装甲、猛威を振るわんとばかりの炎爪。


 絶体絶命、周りがスローに見えるほどの思考の中で、自分へと問いかける。思い浮かんだ答えは、自分以外に頼ることであった。


「道をっ!!」

「[クリエイト]っ」


 生命にも及ぶ危機感を感じ、反射的に叫んだレーミア。

 それに答えたのは、アミネスだった。特殊能力[万物創成(クリエイト)]とともに。

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