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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章 獣領の騒乱 編
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第二十九話 目覚めし意志〜決着〜


「私の名は、ウィバーにゃ・フェリオル。[五神最将]の団員にして、フェリオルの家名を持つ者。この領の不届き者を処する者である」


 まさか自分の名前まで「にゃ」ににゃるとは驚きだ。

 その驚き以上にこの宣言は、相手に威嚇する役割以上の効果を持つ。


「私が、おまえに引導を渡す」


 その言葉は、その引導は誰に向けられ、渡されたものなのか。

 正面で満身創痍にあるレンディと、どこかでレンディを操っている洗脳者か。


 どちらにせよ、この戦いの終幕を告げることに変わりはない。


 ウィバーナらしくない言葉が続いたが、最後にあった決意の挑発と、眉尻を上げて浮かべた自覚のない悪戯な笑みは彼女らしさそのものだった。


 本当に、無邪気で無垢で純粋で。アミネスに似た生意気さをたまに見せる少女だ。

 戦闘と一切を隔絶した笑顔がそこにある。


 この戦いに何一つ賭けちゃいない。だから、


「弱者が。たかが獣種が。たかが下等ごとき種族が。俺を、俺の力を受けたこいつを殺るとほざくのか。...ふざけるな」


 こんな下等種族に、負けるのが許せない。

 自分自身でないとはいえ、どれだけ力を与えたことか。洗脳魔法はされる側との調律と同調を必要とする。レンディはもう、他人ではない。


 こんな下等種族に、負けるなんて許されない。

 種の自尊心が、誇りが貶されるのも同然。実力で遥かに劣る獣に、間違いあっても負けていいことはない。


 許せない。許されない。あり得ない。ふざけるな。

 絶対に許せない。獣も、レンディも、自分も。...いや、悪いのも弱いのも、憎むべきもただの一人しかない。

 全部が全部、全ては。


「ウィバーナァァァァァァァアアアーーーーッ!!」


 こいつが、全部こいつが悪い。こいつが許せない。

 異端は所詮、異常で異質で、この世界の悪意そのものに他ならない存在。

 何の多重血だか知らないが、高位の種族から力を与えられたレンディが無様に屈し、醜くも血肉を晒し、敗北する。はあっ?ふざけるな。負け恥を晒すのは、いつだって愚かな弱者だ。戦場で笑顔を振り撒くこの娘に、死を刻んでやる。


 不要なレンディの命を尽くしてこいつを、ウィバーナを殺す。殺すだけで十分だ。それだけで満足する。この勝利なんてのはどうでもいい、この戦い自体をただの執行と思えばいいだけのことだったんだ。獣種の命ごとき、生かすも殺すも簡単なこと。解釈の仕方もそうだ。


 怒りを発源として、口が裂け切れんばかりに標的の名を叫ぶ。共鳴か、レンディの全身から血が溢れ出ていく。死が目前まで近付いてくる。気にもしない。洗脳者には一切の痛覚が届かないからだ。高位に洗脳されたのだから、命尽きる最期の時まで、その身を賭して盲従してもらわなければ。


 命の喪失より、命を奪うこと。それが洗脳された下等なる者たちの、レンディに課せられた最後の宿命。濃密な殺意の意志は彼に在る。


 姿勢を低く、血が失せてすっかり細くなった腕が貸された力により肥大化し、最後と言わんばかりに全力で駆ける。

 力にみなぎる腕と生命は反比例、自ら死へと突き進む。

 向かう先には、構えずにただ直立するだけのウィバーナと闇に在る死。


 レンディが、洗脳者の意志が伝わっていながらも、消えることがないウィバーナの笑み、絶対に揺るがない余裕。......この少女には、絶対に勝てるはずなんてないのに。無意識の内に誰もが抱くもの。


 それでも、止まらない。止まる訳には行かない。


「ーーーーーッ!!!!」


 地鳴りのような咆哮が放たれる。

 これは自身への鼓舞でもあり、己の血を、怒りを、力を、全てを殺意へと変えるためのもの。


 至近距離にまで入り、レンディは拳へと全力を賭す。


 先に着いた右足が強く踏み込み、重心をそこへ預ける。そうすることで、勢いは全て、重心と反対、左の拳へと委ねられた。


 そして、その殺意の権化はーーーーーーー、


「ふっ」


 容易く、打ち滅ぼされてしまう。


「....なっ」


 気付いた時には、もう既にウィバーナの蹴りがすぐ真横にまで到達していた。体勢的に回し蹴りが行われている。.....一体、どうやって。


「があっっっ」


 時遅く、回避も防御も間に合わず、頭を側面から強打され、身体ごと吹き飛ばされた。

 思考も何もかもが置いてけぼりにされ、レンディは受け身も取れずに地面へと落ちる。


 苦痛の声を漏らし、レンディは何とか顔を上げて、ウィバーナを見た。


 足を前に出し、体の向きは斜めを向いているその姿勢、明らかに回し蹴りが行われたのは確か。...

 だが、そんなことができるはずがない。

 この緊張感の中では、あらゆるものが現実よりも遅く見えて当然だ。それでありながら、ウィバーナの動きを、レンディは追うことができなかったのだ。


・・・.....なんなんだ、この獣は一体。レンディの肉体に限界が来ているのは理解している。だが、ここまでの実力差は出ないはずだ。なのに、なのに、何故だっ!?こいつの動きが速過ぎる、よもやこの獣の眼であってもだと...。


 理解不能の事態に、レンディの思考は酷く混乱する。


 第三者から見れば、ウィバーナがレンディの拳を受け流し、カウンターを放ったようにしか思えない。だが、それすらもただの結果と直前によって作り出された予想でしかない。


 ウィバーナの動きは速過ぎた。獣種の域を凌駕するその力に、レンディは困惑しているのだ。



 圧倒的所業とその実力を見せたウィバーナは、構えを解いて棒立ちでレンディの様子を見ている。


 レンディは地に屈し、ウィバーナは無傷。

 この状況、ここでウィバーナの勝利が決した.....その時、ウィバーナの身体が微かに震えた。


 震えというよりは、振動したというのが正しい。

 それが見間違いでなかったことは、簡単に判断できた。だって、すぐに異変となって現れたのだから。


「うっ」


 突如、目を剥き、内に溢れる何かに侵されて胸を抑えたウィバーナ。

 こぼれた苦しみの一言を残し、抗えぬままゆっくりと目を閉じた。...力が抜けたように、体が前後に小さく揺れた後、前のめりに倒れようとする。寸前で膝を着くが、立つまでには至れない。


「ウィーちゃんっ!!」


 演技とも思えない仕草で何かに侵されているウィバーナを見て、アミネスも異常事態と感じたのか、思わず名を叫ぶ。

 平時ならば、ウィバーナは満面の笑みでそれに答える。

 だが、彼女の身は今、そんな状態にない。

 ウィバーナの元に走ろうとしたアミネスをカイザンが止めた。今だけは、どれだけアミネスに酷い事を言われても、ここから離す訳にはいかない。


 全身から絶え間なく血を流すその男は、もう立ち上がっているから。


 一体、彼女に何が起きたのか。

 考えることなんて一切しない。そんなものは血とともに消え失せていった。ただ、今が殺る時だと確信しただけ。この一撃を持ってして、終わりとするだけのこと。

 構えがないのなら好都合、それでいい。もろに一撃を見舞いして、殺す。そう一瞬にして理解した。


「ははははははははははっ!!」


 異常な程に込み上げてくる笑みが止まらなかった。


 否、止まらそうともしない。この笑みこそが、死の惨劇、殺人の快感、恍惚のものとなり得る最大の至福。


 さっきの蹴りは頭に直撃している。今も脳は震え、まともに動けるような状態ではない。


 それでも、レンディは立ち上がる。


 今度こそ、最期の一撃になることは理解している。死が、待ち受けていることも理解している。

 ......だが、そのどれもこれも、


・・・俺には関係が無いことだっ!!


 その場で踏み込み、再度ウィバーナへと走る。


 距離は間近、すぐ目の前。拳がウィバーナの幼げな顔に届く。あと数秒がコンマに。数十センチが数センチに。あと少しで、それが。殺人が行われる。


 それは、それこそが、不純たる異端への制裁なる執行。醜い獣を、この俺が。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺してやるよぉォォォォォオーーーーーッ!!


「そこまでにしてもらおうか」


 またも突然に事は起きた。

 前触れなく、周囲の領民たちは洗脳されているにも関わらず、第三者の声が鳴り響いたのだ。さらに、それがすぐ近く、ウィバーナの背後から聞こえたもの。反応しない訳がなかった。


「.......ぶふぁ」


 背後からその姿が現れたのに気付いた直後、視界に映ったのは残酷な血飛沫。もちろん、自分のものだ。

 獣化された豪腕が鼻を折って、その先にある頭蓋を砕くヒビを入れ、遅れてきた衝撃が顔面を貫いた。


 意識が消失し、魂が元の色を取り戻すも、肥大化した腕が役目を果たせぬまま弾けて大量に出血。肌が腐ったように汚れ、骨が浮かび上がり、粉々の頭蓋を抜けて眼球が垂れ落ちる。...これをもって、獣種レンディの命が消失した。


 それに伴い、周囲のトリマキ、洗脳されていた者たちが次々と意識を失っていく。洗脳が解除され、借りていた力が所有者へと戻ったことにより、元の胆力がウィバーナの攻撃に耐えきれずに気絶してしまったのだろう。彼ら自体、そこまでの人材ではないのだから。


 それを確認次第、カイザンたちは倒れたウィバーナの元に駆け寄る。アミネスが抱き起こし、息があるのをしっかりと確認。どうやら無事らしい。

 その前で魂が抜けて動くことのできないレンディの体をゆっくりと地面に伏せさせるのは、今更登場、どっかのルギリアスさんだ。


 カイザンたちを他所に、彼はもう目覚めることのないレンディに小さく語りかける。


「安らかに眠れ。お前は悪くない」


 これ以上、獣種としての誇りを貶さないように確実に命を狩る方法を取ったルギリアス。他でもない、レンディのため。自種を貶すことを自分が行う程、種族にとって苦しいものはないから。


「.....だが、六年前の報いとでも思うべきだな」


 立ち上がる際、何を言ったのかは分からなかった。


 守るべき領民の死に対して、ルギリアスは両手を合わせたまま頭を下げると、振り返ってカイザンたちに向き直る。


「すまない、遅れた」


 端的に謝罪を済ませ、ウィバーナの体調を外見から目視で確かめる。

 医師免許無しでの診察で問題なしと判断。今度は、周囲に幅広く目を向けて、領民の安否も確認。洗脳が解けたことで、傍観していた者たちが状況を掴めずに混乱している様子。


 この後、彼らに事情を話さねばならないことを考えただけでスゴく憂鬱で疲れた気分になる。

 それを考えたのと、やっと緊張感から解放されたのが混ざり合って、深いため息を吐いた。もちろん、ルギリアスの遅い登場にもだ。


 すると、アミネスの腕の中、ウィバーナが小さく動いた。弱々しく目を開けると、頑張って口を開いて、


「もお、ホントに遅すぎるよぉー」


 安堵よりも先に不満を言い残すのがとても彼女らしくて、カイザンたちも安心する。

 頰を緩めたまま再び目を閉じたウィバーナ。


「さすがに緊張みたいなのはしてたんだな。目覚めたら、ちゃんとお礼言っとかないと」


 と言うカイザンが一番緊張を解せていない。たぶん、後ろからわっ!!ってやられたら腰抜かすか気絶する。

 今何とか踏ん張れている。プールの授業の時に、お腹を引っ込めているみたく。


「この場は他に任せ、詳しい話は王城、リュファイス領主の前で聞かせてもらう」


 広場の者たちとレンディの死体は他の守衛に任せて、ウィバーナを担いだルギリアス。カイザンたちを王城へと連行した。


・・・なんか、容疑者みたいな扱いだな。


 空の上の神に誓って、悪い事はしていないはず。アミネス曰く、存在以外は。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その頃、獣領で一番空に近い場所、刻限塔の天辺にて。


「....失敗したか。やはり、深層への洗脳は本来の意識との調和に苦しむものだな。特殊能力もうまく機能しない。ぶぶっ」


 遠くから広場を見下ろす'洗脳者'は、長い独り言を重ね、吐血した。


「レンディの負傷か。俺の身体にまで影響の出る程の魔力、あの気配と威圧。........まさか、あの獣は」


 最後にこぼしたのは、驚愕と嘲笑を込めて。


カイザン&アミネス


「やっと、レンディの野郎が倒されたな。怖いくらいに気持ちがいいぜ」

「人が一人亡くなったというのに、よくそんな気分で居られますね」

「そんな言い方されたら、俺がめっちゃ悪役になっちまうじゃねぇかよ」

「それにですよ。レンディという方はあくまで洗脳されていた訳ですし、哀れな犠牲はしっかりと悲しむべきですよ」

「哀れな犠牲呼ばわりも酷いと思うよ。俺に対しての口調に慣れすぎて、他でも使ったりしないようにしろよ」

「カイザンさんに言われなくても心得ています」

「心得るレベルだったら、俺にだって優しくしろよな」

「ぱーとなーは何でも言える関係ですから。契約解除条件は女神領に帰ることのみです」

「遠回しに、私はこれからも口調を変えませんって言ってるんだよな」

「勝手な解釈ですよ。人の考えを一方的に考えた結論や答えを出すのは、帝王的な発想ですよ」

「人の心を無断で読むやつはどうなんだよ」


「........次回、最暇の第三十話「多重血の少女」。ウィーちゃんが多重血だった件、そう言えばカイザンさんに言うの普通に忘れてましたね」

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