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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章 獣領の騒乱 編
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第二十三話 ふたつの意志〜犬と猫の対峙〜


 カイザンは生き残るために剣を抜こうとした。

 しかし、寸前でどこかの屋根から誰かが跳んできたのだ。....元気な挨拶とともに。


「おっはよー♪」


 目の前に降りて来るのと同時、即座に最寄りのトリマキに勢いを乗せた跳び蹴りを放ち、もう一人を一度目の蹴りからの回し蹴りで対応。華麗に着地する。


 その華奢な足で高く蹴り上げられたトリマキの体、遅れてきた衝撃がさらにそれを後押し、レンディの真横まで吹き飛んで、落下から顔面を地に擦り付けて徐々に制動していく。


 客観的に見て、かなり痛そう、の一言。


 軽そうな蹴りであったが、見た目以上に威力があったらしく、トリマキたちは身悶えて動かなくなってしまった。


 それを失望の目で見届けたレンディは、隣に立つトリマキに気絶して邪魔になった彼らの処理を任命。...と言っても、無造作に投げられ、邪魔のない場所に運ばれただけ。


 レンディにとって、それよりも重要なことがある。


 突然の乱入だった。現れた獣人にトリマキたちが騒めき始め、カイザンがその存在を認識してから心からの安心を得て、レンディが小さな英雄の姿を見つめたまま笑みを浮かべた。


 ....この時、レンディの中に違う色が取り込まれたのだと、後になって思った。


 レンディは何故か用意されている偉そうな椅子から立ち上がり、場面の静寂を破るように拍手を始めた。


「これはこれは、どなたかと思ったら。我が領の最高守衛団たる[五神最将]の二番手、ウィバーナ様ではありませんか。さすがは対応がお早いことですね」


 広場に降り立ったその英雄ーーーーウィバーナに対し、レンディは称賛の声をかけた。

 意図は不明。単純に助けるという行為に対してのものとは思えない。


 先程、カイザンに向けていた口調とは一変、立場を弁えた礼儀。


・・・いや、何ていうか......それ以外にも何かが変わったみたいな気がする。


 少ないラリーしかしていないカイザンでも、違和感を感じる程のレンディの変化。


 それでも、レンディへの追及は不可能だ。彼の変化は、ただの違和感で収まりきるものでないというのは対峙するからこそ分かる。


 浮かべた笑みは一向して不敵で、真っ直ぐに向けられた視線は何かを見透かすように不気味なもの。一言で言うのなら、狂気。それ以上に見合う言葉は思い付かない。


 少しずつ足を下げていき、ウィバーナの背後に身を隠すカイザン。


 そんな時、手を叩く音が徐々に静かになり、そこに静寂が訪れた。

 そうなれば、現状の主導権は彼のものになるのは必然的だ。


「ウィバーナ様、あなたにお聞きしたい。.....そうまでしても何故、領の守衛団ともあろう方がそのものがを助けるのですか?」


 この場合・この状況で、当たり前に出てくる彼ら側の疑問。おそらく、周りで傍観する獣者たちの総意に近いかもしれない意見だ。


 レンディの反応の通り。ウィバーナという十四の少女が獣領の守衛であることは領内で広く知れ渡っている。


 レンディの言い分はつまりこう言うことだ。

 彼女が多くの民衆の前で誰もが恐怖を抱く象徴たるカイザンを助けるため、領民を傷付けたともなれば。


 だが、それはあまりにも主観的な考えだ。


 普通に考えてみれば、カイザンを助けたのは外交問題を防ぐ行動そのもの。守衛団としての行為の対象に含まれ、他領地の領主に護衛を付けることは当然だ。


 彼ら側の身勝手な言い分と考えだ。...しかし、これはそう一言で片付けていいものでもない。

 それに、この場でそれを言える者が発言権と、その意志を持たないこともまた然り。


 彼らの思考が浅はかなるもの。...そう思える者は、徐々に数を減らしているのだから。


・・・天然なのは分かってるけど、いい風に転がされないでくれよ、ウィバーナ。


 ふと最悪の展開が脳を過ぎる。


 レンディの言葉はウィバーナに向けられた悪意。

 それに対して、


「わたしは、カイザンの護衛だから」


 予想外にも堂々と言い返した。

 聞かれたことだけに返すのは、今一番取るべき選択だ。本当に予想外。分かってて言ってたら一周回って怖い。


 二週間の中での印象とはかなり違う。


 まったくもって、ウィバーナらしくもないが、何も悟られないのはとてもいいこと。


 一方で、言葉一つで彼はそれ以上の情報を得ていた。


「あなた方は獣領の最高守衛団。命令したのは、種王ガイスト....いや、彼は領事に関しては不介入。つまりは、領主リュファイス様なのですね」


・・・ぁ.......まんまとやられたな。


 ここで領主リュファイスの名前を出されては、どう利用されるかなんて分かったものではない。

 守衛としての失態だ。


 ウィバーナ自身もそれに気付いて、満天の笑顔の中に不安の色を持ち始める。

 そして、警戒から一歩後退ってしまう。獣種は本能に忠実な種族。警告は魂からの死の忠告と言っても過言ではない。


 故に、レンディは追い詰める。


「領の全権を託されし領主が、それは大層な理由があってのこと。そうでなくては、そうでなければならない」


 ただの子供を侮った挑発的な物言いを続けた。

 中身のない言葉でも、今のウィバーナには通用する。

 でも、ウィバーナはまだ負けていない。だって、カイザンが同じ立場だったら、完全に逃亡するか、誰かの命令ってことにするから。


「言えにゃいよ。これは、領にゃいの秘密だから」


 カッコいいのに、にゃで完全相殺。

 まあ、レンディはそこに関してを気にしない。


「......そうか、これしきでは折れないか。....では、身を以て教えていただこうか」


 軽く舌打ちし、仕方なく強硬手段とする。


 レンディの一言で直接的な命令を受けたように、一度後ろへと下がったトリマキたちが一斉にウィバーナへと敵意を向けた。


 その視線を維持したまま、彼らは宿を囲むような半円の陣形を取った。


 一見して、並ぶ者たちの体格も構えも揃いがない。それでも、統率の取れた完璧な陣形だ。


 まるで最初からこうなると分かっていて用意されていたような。


・・・こんなこと、ただの一方的な...。


「勘違いしてもらいたくないのですが、これは領民全ての総意の下での行動と解釈してもらいたいですね。女神領の新領主。巨人領を消し去り、今や全領地が恐れるその者が、この領に居座り続けている。領民が日々怯えているのはご存知でしょう?皆、いつこの領が支配されるのかと思う中で、リュファイス領主は友好を信じて協力を申し付けた。...そして、あなたの今の行為だ。その最強種族を我々が領民の意志たる代行として排除しようとしたところを、あなたは阻止したのです。真に守るべき領民に危害を加えてまで。この決定的で明確な事実、ここに集まる者たちは確とこの目で見届けました。我々は、その理由をお話しいただくまで、退く訳にはいかないのです。...まさか、権力で抑えようとは思いますまい」


 あまりに身勝手で、公的な道理に反する理由を、自己欺瞞に侵されたような正義を装い、堂々過ぎる態度で述べた。


 要は、自分たちは領の害となる者を何もしない守衛団に代わって排除しようとしているだけで、暴挙でも反逆でもない。さらに、それ止めようとするであろうウィバーナを悪とする。

 彼らは領民を味方にして、自分たちの意見を正義だとし、ウィバーナが理由を話すまで戦闘を続けると。


 ここでもしカイザンやウィバーナが正論をぶつけたとて、彼らは敵の邪論と受け取り、さらに結束を増すことすら可能となる。

 何故って、民衆は彼らに対して無条件の信頼を与えてしまっているから。


 その理由も含めて、レンディがおかしなことを言ったことにカイザンは気付いた。


・・・あいつ、協力を申し付けたって言ったよな。....その情報、どっから入手したんだよ。それに、領事への権限が領主にあることぐらい、その領の領民なら知っていて当然のはずだ。


 王城の本会議室には、リュファイスとカイザン、後は守衛団しか居なかった。それ以外が知っているはずがない。

 領民のパニックを防止するために、リュファイスが領内に例の一件を広めていないことから、カイザンの協力もまた知らされていないはずなのだ。


 レンディの変化や、領民の異変。そして、その情報。


・・・まさか、これ......洗脳ってやつか?催眠術とかとは違うタイプの。


 洗脳者からレンディを経由して、領民のほとんどを支配下に置いている。


 今の時期、こんなことを行う者は例の一件に関わる人物以外にはないだろう。


 となれば、あれから二週間経ってやっと現れたということ。


 光衛団幹部の奇襲、ちょっとした搦め手とでも捉えるべきだろうか。

 おそらく、洗脳者の狙いはカイザンではなく、[五神最将]そのもの。

 ここでウィバーナを潰し、後は領民の信頼を失った守衛団を獣領ごと消滅させてしまえばいいだけのこと。



 レンディの狙いが何か、彼らが何であるか、自分が何をすべきか。


 それらをウィバーナが理解しているかの検討は付かない。けど、まんまと乗せられているとも思えない。


 それでも、ただ一つだけ、ウィバーナが確実に理解していることがある。

 それは、


「何度も言うけど、わたしはカイザンの護衛」


 戦闘を確信して、笑顔を取り戻したウィバーナには、負ける気なんて一切ない。


 [五神最将]の二番手、そのウィバーナが独壇場を誰かに譲る訳はないのだ。

 

 それが例え、圧倒的な存在であっても、それが獣領の脅威である限り、ウィバーナには戦う意志が在るのだから。


 強く言い切るのと同時、腰の両端に備え付けられたポーチに両手を交差して突っ込む。

 すぐに勢いよく抜き出せば、両手首から適当な大きさの金属物が装備され、指先部分からは曲線を描きながら伸びた無刃の爪。


 王城で作られたクロー・ネイルという武器。

 そのいかにも猫らしい武器を構え、ウィバーナは吠える。


「戦うなら、かかって来にゃよ!!」


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