第十四話 帝王は風雲児
それから、三日が経った。
カイザンは毎日のように闘技場へと足を運んだ。その度の勝利、相応なる大金取得。
稼いだお金でウハウハになれるのも良い気分だろうけど、帝王を見るアミネスの目が怖いからほどほどにしているつもりだ。
それでも、貯蓄額はとんでもないことになっている。
これではいつ強盗に遭うか分からないと警戒はしていたが、よく考えたら宿にはカイザンたち以外に客は居なかった。当然だ。帝王が住み着いているのだから。
既に、恐怖の象徴なのかもしれない。
獣領には闘技場を中心として最強種族の噂が再び流れ、今では闘技場の観覧は大盛況。カイザーに挑戦する者も増えている。
しかし、それが決して良いものでないことは明らかだ。
ーーーーーー故に、彼らが動き出すのも仕方のないこと。
それは、獣領の北に位置する王城。種王と領主の住むそこは、領地と種族の中枢部だ。
場面は、その王城のすぐ横。隣接された大きな建造物、獣領の最高守衛団[五神最将]の本部であり、たくさんの衛兵が行き交う詰め所、ここもまた一つの中枢部。
そこで、
「失礼致します。.....ルギリアス殿、何日か前に門番から連絡のあった二人組の件なのですが。一方の少年が闘技場内で自らを例の最強種族だと名乗り、連戦連勝を重ねているそうです」
会議室とも思える大きな部屋で、領内報告を済ます一人の衛兵。
そこに居るのは、ルギリアスと呼ばれた男。この男こそ、[五神最将]の現リーダーである。
「話は聞いている。本来ならば、十四年前の厄災を繰り返さぬためにも、早急に対処するべきところだが......、リュファイス領主から手を出すなとの命令が下っている。今は警戒体制のままでいい。下手に動けば、どうなるなか分からんぞ」
「リュファイス領主が、.....そうですか。では、数名での広範囲監視を続けます」
「それでいい。だが、あまり特殊能力を使い過ぎるな。奴の種族が詳しく分からない以上、どう利用されるか分からないからな」
ルギリアスの忠告とを受け、部屋を出る際の礼儀として頭を下げると、衛兵は部屋を出た。
扉を閉める際に音が鳴らなかったことから、衛兵の几帳面さが分かる。
という訳ではなく、入れ違いで誰かが入ってきたのだ。入る際に扉を全開にして一切閉めようとしないことから、礼儀の無さが丸わかり。
「リーダー、どこか行くのかにゃ?」
そう問いながら近付いて来るのは、獣種の少女。名を、ウィバーナ・フェリオル。
瞳の色は赤く、大きく見開いている。橙色の髪は、肩まで届く程度の長さで、頭から大きな猫耳が立っている。本来の人の耳には、獣種とは思えない、まさかの近代的な装飾品を装備している。
何気ない個々の動作にも笑顔が振りまかれていて、周囲を明るくさせる性格が第一印象となり得る。元気そうに尻尾を愛想良く振る、ザ・獣耳っ子。
服装は動きやすさ重視のために露出が多く、そこから分かる華奢な身体であるが、獣種としての力量はとても高い。
そう、彼女もまた、[五神最将]の現団員の一人だ。
部屋の奥に立つルギリアスに軽快な足取りで近付くと、無愛想な顔を覗き込む。
「ウィバーナ。明日、王城の本会議室に来い。リュファイス領主からの招集だ」
重い声音で坦々と語るルギリアスに、ウィバーナは不満そうにしながら、内容に注目する。
「リュファイスから?」
首を傾げて、聞き返す。
無言の同意を受け、ぽかーんと口を開けて何かを考え始める。それがしばらく続いたので、場面は次へと移る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
獣領で迎える何度目かの朝だ。新しい朝と言える。
死なずに転生できたのもそうだが、旅という新しい門出を今更ながら祝う気分で窓越しに外を見つめる今日この頃。カーテンを開け、朝の日差しに浸か........なんと、今日はくもりだ。
とはいえ、異世界に来て以来、曇ること自体が相当珍しい光景。ある意味で、これも新しい...。
「うん、女神領と変わらんな」
朝は朝だ。どこから見ても同じ朝、語る気がせん。むしろ、何を語れるだろうか。日本から俳人を連れてきたとして、誰も読めないはずだ。...もちろん、金は賭けないぞ。
「独りの状況で、わざわざ感情を口に出す必要ありますか?」
「無言で窓の外を眺めていいのは、観光バスに独りで乗った時専用だよ」
アミネスからの突然な物言いにも、朝を感じさせない素早い返し。
ちなみに、カイザンが物心ついてから初めて窓の外をじっと眺めたのは、徹夜勉強中に一度だけ瞼を閉じてみたら受験当日の朝で、時計よりまず先に差す陽光に目を剥いたあの日。
アミネスの質問に対して冷静には返したものの、よくよく状況を考えてみると、
「つか、俺の部屋。なんで入ってんだよ」
・・・寝起きだからだけど、俺も落ちたもんだな。
疑問よりも先に口が出るなんて。withアミネス生活でそこら辺が無意識に培われてしまったらしい。
自分の将来を心配してため息を吐くぱーとなーを他所に、アミネスは質問に答えるべく肩提げカバンから何かを取り出す。
「今朝の新聞に、面白いことが書かれていましたので、ぱーとなーの私が慈悲深くも見せてあげようと思っただけです」
「また、パンフレットに続く謎の印刷物だな。....面白いって、アミネスが俺に笑顔を見せてくれるレベルで?」
自慢じゃ、本当に自慢じゃないけど、からかわれてきた意地ってものが芽生え始めている。
カイザンをからかう時ぐらいしか笑顔を見せてくれないアミネス、笑われることがあっても笑わせたことがない訳だし、どっかの記者ごときが笑わせるなんて対抗心が溢れる。
・・・何やら、たぎってきたもんですな。
ただの嫉妬。燃え上がるカイザンの様子に気付いて。アミネスにもまた、からかってきた意地がある。
「そうですね。そこまで面白くはないので、見せないでいいですね」
「いやあぁー、負けでいいから見せてー」
新聞片手にカイザンの心を揺さぶって見事に落としたアミネスは、悪戯な笑みの後にそれを手渡して、勝手にベッドの上に座った。勝者敗者の関係は既に成立している。人の部屋の家具だというのに。
平然とした態度は、心を読んだのを誤魔化すために違いない。よく考えたら、前にもあったように心以上の何かを読まれた。
言い返さないのは背中が痒いくらい耐え難いが、面倒だから我慢する。両方とも。女神領で暇を耐えたのだから、耐久力はある方だ。自称。
渡された新聞を開き、ふむふむと呟きながら流れ目で読み進める。てっきり巻物系かと思ったら、普通に日本的な新聞だった。印刷技術が余計に気になる。そして文字通り、端から端まで目を通し、無言でゆっくりと閉じた。数秒後、口を開く。
「うん、読めないね」
あっさりと諦めて、新聞と読むことを簡単に投げ出す。それをアミネスがしっかりとキャッチした。
「時間の無駄でしたね。子供でも読み易いと大人気の新聞なんですけど。子ども・大人・お年寄り・カイザンさんと、年齢層を分けましょう」
「俺一人でどれだけの高齢化率になんだよ、それ」
・・・文字の読み書きに、年齢層とか関係ないだろ。
「だったら、早く文字を覚えてくださいよ。文字に関して、私ばかりが働かされるのは御免です。ぱーとなーとして頑張ってください」
「聞き飽きたから、早く読んでくれよ。パートナーとして頑張ってください」
「むぅ....」
何か言いたそうな顔をするも、話を進めるために我慢。頰を少し膨らます感じが久しぶりに微笑ましいと思う。二歳離れているだけだけど。
「では、読みますね。...速報です。先日、カイザンさんが旅に出た翌日、西の大陸に属する巨人領がまるごと消えて無くなってしまったそうです」
「.......ドゆコトですかい?」
巨人領、つまりは巨人種の領地。妖精種や巨人種にはもともと興味があったから、一度アミネスに聞いたことがある。確か、高位の種族と言っていた。
・・・このご時世に、絶滅なんてあり得るのか?
考えつく可能性は、獣領に来てから何度も悪行を聞く悪魔種。彼らなら戦争だってやり兼ねない。でも、その噂のなかのどれにも、領地一つを陥落させたなんてのはない。
そもそも、表現に気になる。消滅とは何だ?絶滅ではなく、領地の消滅。
・・・んー、分からん。
「ってなると思ってましたよ。勝手に考察を広げないでください。気になってほしい点はそこじゃないので」
「分かったよ」
・・・黙りまーす。
心を読んで宣言を聞き入れたアミネスは、満足そうに本文を読み進めていく。
「....昨日のことです。巨人領へと向かった商業人が、地図に従って着いた先に、地面が円形に抉られたような何もない土地を発見した。第一発見者となったその方は、非戦闘種族の夢境種だそうで、現状では容疑種ゼロとのこと。目撃情報通り、西領地連合会は巨人領の全て、滞在していた人々、あまつさえ周囲の地形すらも呑み込むように消えていたのを確認したらしいです」
・・・さっきからニュースみたく言うな。
そっちも気になるけど、カイザンは腐っても領主。どこかの領地ご消えたなんて、他人事とはあまりにもかけ離れている緊急事態。情報は新鮮な内に仕入れとかないと。
「消されていたってのは、言い方的には事件なんだな」
「自然現象でないことは明らかです。放たれたのは、おそらく[侵食]の特性を持つ闇属性魔力による魔法。巨人種には適性がありませんし、事故というには悪意が深いです。考えられる可能性はおおよそ二つ、強力な闇属性魔力を操る未確認の新生種族の出現。または、[四大鬼]の内の残り三体のいずれかが目覚めたか」
新聞を見ずに言っていることから、アミネス自身の見解。コメンテーターのようだ。拍手を贈る。
まだ続くご様子。最初の質問から随分と広がるものだ。
「魔法は同時に放てば、範囲や威力は増大します。しかし、巨人領を襲撃したのが複数人であれば、普通に考えて占領が目的のはずです。....あまり考えたくありませんが」
「つまりは、目的は巨人種をただ消滅させたいが為で、襲撃者はごく少数。または.....たった一人が、行った暇潰しみたいなもんってことだ」
本当に、あまり考えたくない可能性の一つだ。
こんな序盤でこんなこと、絶対に後々でなんか厄介なことになるじゃん。と、不快に感じる度に三連続でため息を吐いた。
「暇潰し。言い方は悪いですが、意味はそうなるでしょうね。悪意を持った単なる遊び、事故としても作為的。そう考えた西領地連合会は、一部で光衛団を疑う動きがあるとかないとか」
・・・さっきもあったけど、俺の知らない異世界常識単語には説明を入れろ。
[光衛団]とやらが何だとかは知らないけど、強そうな名前だからいずれ聞こうと思う。お楽しみはとっておこう。
単に最初に好きなものを食べると後が最悪だからという理由。カイザンの人生は、軽薄と言ってよい。
「で、興味深いってのは認めるけど、この話の何が面白いんだよ」
これが面白いというのなら、アミネスのツボを疑う。
「まあ、ここまでが面白くないのは認めますよ。..実は、さっきまで読んだ新聞は昨晩に出された[不眠]というタイトルで、カイザンさんをからか....もとい、驚かそうと?思いまして」
・・・夜に新聞って、タイトルから目的がハッキリしてるな。てか、途中の間と疑問系はなんだ。
一ヶ月間、本当にアミネスはぶれない意志を貫いている。体調悪い時とか分かりやすそうだ。
カバンから新たに新聞を出したアミネス、内容は短く、端的にまとめられている文字数だ。故に、アミネスも軽く端的にまとめる。
「これが、今朝に出された早朝新聞で、巨人領襲撃の犯人がカイザンさんにされてますね」
「・・・・・・・・・・えっ?」
スムーズな語り口調のアミネスより、当然ながらカイザンの間の方が長い。あまりに長いので、理解を待たずにアミネスは続ける。
「では、ご静聴を。一ヶ月前、突如として女神領に現れて最強種族を倒した新なる最強種族カイザー。まさかまさかの、女神領だけでは飽き足らず、巨人領までをその手に」
「待て待て待て待て待てぃっ!!」
予めご静聴と言ったアミネスの言いつけと、即座に取り上げた新聞を躊躇なく破り去った。
パラパラになったそれを見て、アミネスはまあ仕方がないの顔になってため息の後、危ない予感のする笑顔を作る。
「新聞の方はこれまでです。こんなことを書かれてしまえば、獣領でのカイザンさんの立場がとても危険なものになる程度なので、気にせずに次に行きましょう」
「いや、行けないよ。怖くて何処にも行けないよっ!!」
アミネスの冷静さと辛辣さが垣間見えた瞬間、堪らずカイザンは恥ずかしめもなく叫んだ。
カイザン&アミネス
「今更ですけど、会って間もないミルヴァーニさんに領主仕事を任せて、本当に良かったんですか?」
「それはなんともまあ、今更なことだな」
「まあ、あの方ならしっかりと務めてくださるでしょうけど、カイザンさんはどう思っていたのかと」
「なんだよ、それ。まるで俺がしっかりと働いてなかったみたいなさ」
「はい」「即答はやめようぜ?」
「では、次回は最暇の十五話「なろう系になれなかった帝王」....いえ、まあ、事実ですので」




