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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章 獣領の騒乱 編
14/50

第十話 旅の始まりは獣耳で〜獣の種族〜

「...実は、獣領にはあの巨壁の下、このまま進んだ先に関門があって、そこを通るには紋章を見せる必要があります」


 自分を見つめ直して早数秒、いきなりの第一関門に遭遇してしまうらしい。


 全種族に共通している数少ない点の一つ、自種の象徴である紋章の存在。

 生まれた瞬間から首元にその種を表す唯一無二の同族共通の紋章が刻まれる。


 つまり、それを見せるということは、自分の種族を明かすということ。


 問題は紋章の件だけではない。

 決闘以外で強気になることを忘れてしまったカイザンは、関所で問い詰められたりすれば押され負けて真実を述べてしまうかもしれない精神の持ち主だ。

 ワケありの者にとっては、どれだけ真実を偽れるかだと言うのに。


 と、現在、アミネスの頭の中で考えられている。既にカイザンは失敗を引き起こす要因とされているようで。


「幸い、創造種は絶滅危惧種でして、紋章どころか、その存在を知ってる人すら少ないくらいですし、カイザンさんのウィル種は既に絶滅。紋章に関しては気付かれないと思っていましたが、もしもがあります。なので、情報収集を行いましょう」


・・・何この子、凄い頼りになるんだけど。ていうか、俺のパートナーなんですけど。


 坦々とした口調で進めていくアミネスに、謎の安定感、いや、安心感を深く感じる。

 実際、個人的には紋章に関しては安心感は抱いてもいいはずだ。ミルヴァーニが知らなかったことがいい例のように、カイザンの噂は謎の種族となって広まっているため、ウィル種であるとは広まっていないのだから。


 だが、アミネスがそう言うのなら、情報収集は他にも何かしらの理由があるのだろう。


「ちなみに、情報収集ってのは、第一村人発見みたく?」

「何を言っているか分かりませんが、たぶん違うんじゃないですか」


・・・絶対、よく考えずに結論決めただろ。パートナーだろ、俺らは。


 隣から読める心の声に面倒そうな顔をしつつ、アミネスはしっかりぱーとなーとして役目を。


「この畑地帯は既に獣領の一端に入ります。ですので、ここで歩く人に話を聞いてみましょうという感じです」

「なるほどなー、あながち俺のは外れてない訳だ。となると、役割分担が必要だな。アミネスは、質問役・聞き手・メモ係。俺は.....たまたま残ったタイム・キーパーで」

「存在価値あるんですか?......私一人で十分ですから」


 修学旅行のインタビュー要員をテキトーに並べたら運良くカイザンに簡単な役が回ってきた。それが災いしてか、役から外されてただの付き添いに。


・・・ちっ。タイム・キーパーを侮りやがって。修学旅行のインタビューや生徒会役員選挙なんかじゃ重要要員だぞ。....まあ、任せるけども。


 心では反抗しながら、体では二歩ほど後ろに下がってアミネスに最強種族として労働を命ずる。いや、聞き込みに関する全権を委ねる。パートナーっぽくね。


 そうして、二歩前を歩くアミネスは早速第一村人を発見して声をかけているところだ。


 パッと見は六十代後半、白い無精髭と優しい面持ちのお爺さん。軽そうなくわを肩に載せ、骨の形が浮き出る程に細い体をしている。

 首に刻まれている紋章は、本に書かれていた獣種のそれと確かに合致する。...のだが、本当に獣種なのかと疑ってしまう。


 筋肉質とも中肉中背とも違う。いくら老いてるとはいえ、獣種の力強さというのに欠けている。

 一つ言えるのは、このお爺さんには犬の耳と尻尾が生えているということ。


「こりゃあ、獣種だな」

「紋章があるじゃないですか。邪魔しないでください。うるさいです、下がってください」


 一人、勝手に納得しているカイザンを空いた手で「しっしっ」と追い払う。すっと食い下がってフレームアウト。したのにずっと邪魔そうな視線。


・・・これ以上に下がれっての?


 不満そうなぱーとなーを横目に、目の前のお爺さんに聞き込みを開始するアミネス。簡単に了承は得たようだ。


「お嬢ちゃんは可愛いから、何でも聞いてくれて構わないよ。がはははは」


 思わずカイザンは剣の柄を握る。

 それをアミネスは制止させない。何だかアミネスの方が怖くなったので、ゆっくり手を離す。


「すみません、獣種について詳しく教えて欲しいんです。私の居た領地では、獣領についての情報があまり手に入らなくて」


・・・エイメルの大図書館にはめちゃ本あったけど、あん中にないってあり得るのか?......あっ、まさか領内機密的なアレかっ!!


 と期待するカイザン。そんなものを話す訳が無いだろうとの考えには至らない。


「まあ、それはしかたのないことじゃな。ワシら獣種はほとんどの種族から下等と見下されとるらしい。それは無論、ワシらのような者がいるからじゃがな。.....獣種にはな、三形態ほどの分かれがあるんじゃよ」


 そこから急に、お爺さんの口調はWikipediaと化した。


 通常型[アニマル](獣種ではあるものの、身体能力は平均を軽く下回り、獣としての要素がとても薄い。獣種のウィルス内に在る遺伝子が弱いのだとされ、領内では獣種の劣等種族と、まるで別種族のような扱いを受けている。他、身体獣化が行えない。領を囲む城壁の外で家畜や稲作を行うことが義務付けされている。全獣種の人口の内、約十パーセント程の数)


 獣身型[ビースト](獣種としての身体能力に非常に優れ、獣耳や尻尾といった獣要素が発達しており、五感の一つとして使用可能。それにより、特殊能力[強調五感]が、アニマルよりも多様性に特化。また、身体獣化による筋力強化を魔力の消費で行うことが可能。ビーストの全てに、領内でのあらゆる権利の保証と義務の確立がされている。全獣種の内、約九十パーセントがビーストである。一部のビーストには、ごく稀にウィルスの特殊性で異能を持つ者も現れるとか)


 獣神型[シリウス](外見のかなりが獣要素に濃く、常時身体獣化状態に近い圧倒的個体。ビーストの身体能力を遥かに凌駕し、五千年前の種族戦争では高位種族とも互角に戦えていたとか。全獣種の内、約一パーセント未満に含まれる)


 と長々と説明をしてくれた。メモの時間を一切与えぬ上舌で。


「ワシが知っているのはこれくらいじゃ、アニマルの中でも情報に長けている方じゃから、信用してくれて構わんよ」


・・・まあ、長かったしな。


 そう心では思いつつも、年相応と言える優しい笑みをこぼすこのお爺さんには同情の念しか湧かない。


 お爺さんの言うことが本当だとしたら、この笑みの奥では同族からの差別に苦しむ姿もあるのだろう。

 何だか、胸がキュッとなった、ドキッとかじゃなく。さっき剣を抜こうとしたことをどうやってなかったことにしようかと悩む。このまま胸の内に留めていようと思った。


 そのカイザンの慌てようをお爺さんは気にせずに、


「他に、何か聞きたい事はあるかのぉ?」

「いえ、これだけで十分です。お忙しい中、本当にありがとうございました。お仕事頑張ってくださいね」


 輝く笑顔でお爺さんに感謝の言葉を述べるアミネス。

 遠目からだが、カイザンにも横顔の一部と優しい言葉遣いは届いた。

 二つの理由でじーんとくる。


・・・えっ、何それ。そんなの言われたこと無いんだけど。えっ、俺の頑張りとか評価されてないの?えっ、猛烈に剣抜きたくなってきた。


 アミネスからそれを言われたい気持ちが溢れ出したが、おそらく、絶対に無理だ。女神領でなら死ぬまでに一度くらいはされたかもしれないが、パートナー関係成立で叶わぬ夢に。


 そんなこんなで、最終的にお爺さんへの嫉妬心だけを残し、聞き込みはアミネスが満足したようで早くも終了した。


 こうして、二人はまた、獣領の巨壁内へと足を進めて行く。


「なあ、関門の話とあの質問、何の関係があったんだ?」

「前から知っていたことに含め、確認したかっただけです。さっきの質問のおかげで、獣領内に明確な差別があることが判明しました。それだけでも十分なんですよ」

「へぇーーー」


・・・いや、関係は?


 アミネスはただ、会話のラリーを少なくしたかっただけなのだろうと後になってから気付いた。


「そうだ、獣種ってのは身体能力が凄いってのはたくさん聞いたけど、魔法の方はどうなんだ?」


 獣種の特殊能力[強調五感]は、身体の一部に魔力を集中させることで五感の一部を強制強化させるもの。女神種と比べれば、魔法という概念とは一線を隔すように感じる。

 と、こんなことは女神領の本になら普通に書いてあるはずだ。...はず。


 ここいらでアミネスも「文字覚えてくださいよ」と言って、しっかりため息を吐く。


「はぁ........獣種は創造種と同じように、ウィルスの形質的に魔力に色を与える行為がとても苦手なんですよ」

「えっ、お前も魔法使えないの?....じゃあ、創造種はお絵描きして実体化させるだけか」

「....ぱーとなーとして、カイザンさんにタライを落としたくなりました」

「どこにパートナーが関係してるの?」


 さっきとは違った笑顔で創造機器を取り出すアミネス。創造種の[万物創成]は生き物以外なら、相応する魔力量で何でも造れてしまうのだから怖い。

 アミネスは完全に、ぱーとなー関係を乱用している気がする。...いや、している。


・・・よし、ここは話を逸らそう。


「で、さっきの爺さんの話は、どこまで知ってたんだ?」


 新たな質問をしながら、両手でどうどうと落ち着かせる。アミネスは不満げに創造機器をしまった。

 本を読めないカイザンとは違い、アミネスは読めるし、元々の知識も深い。ある程度は知っていたはずだ

 カイザンの問いに、アミネスは二択に迷った末に、正確には答えないようにした。


「獣種の三形態についてはあまり詳しくありませんでしたが、シリウスと呼ばれる方々が既に存在していないというのは聞いたことがあります。....例の、悪魔種との戦争で。現状で獣領を守護するのは、ビーストの精鋭五人による守衛団[五神最将]だそうです」

「うん、さっきの爺さんもそうだけど、情報は小分けにしてもらいたいな。一気に言われると覚えられないタイプだから、俺」


 正直、三形態の呼び方すらもう覚えてない。


・・・なんだっけ、ロシアの牛肉料理みたいな名前の形態。ビ、ビ、ビー、ビーフスト....、ビーストか。他は忘れた。


 いろいろと抜けて、ここぞという場面以外は他力本願の最強種族だから仕方ないよ。と自分に言い聞かせておく。


・・・にしても、爺さんを最初に見たときは絶望したもんだが、この先に居るのは、所謂ビーストと呼ばれる獣人たち。....つまりは、会える訳だ。


 旅の初めに獣領を目指した理由はこれに限る。


「やっぱり、旅の始まりは獣耳からだよな」


  転生早々に女神と会えた事が一番素晴らしいが、最も最悪な場面であったことに変わりはない。故に、何よりも求めている最高とは、獣耳に他ならない。


・・・せっかく異世界に来たんだからな。


 待ち受ける個人的幸せを前に女神領での事を振り返るカイザン。長かった、ある意味での苦難からやっと解放された心地良さ。


 頭での回想が数分前にまで来たところで、ふと思い出した。


「あれ、闘技場の利益って、教えてもらったっけ?」


 本日二度目、アミネスが会話のラリーをどれだけ短縮したかったかを思い知った。


次回予告雑談


カイザン&アミネス パターン1


「なあ、ボコボコの利益ってのは....」

「カイザンさん、前に調理実習がどうとか言ってましたけど、...料理なんて器用なこと、できるんですか?」

「失礼な。俺にだって料理の一つや二つ...」

「例えば?」

「...野菜炒めとかだな。三種程度の野菜を炒めて、はい完成ですって感じ」

「野菜を傷める?傷んだ野菜の何が美味しいって言うんですか?」

「な訳ねぇだろ。火を通すってことだよ」

「へぇー、スゴく簡単な調理方法ですね」

「自分で聞いたくせに興味無さげだな。....あれ、俺って何聞こうとしてたんだっけ?」



「では。次回、最暇の第十一話「獣領フェリオル」....ということは、ボコボコの準備ができたんですかね?」

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