プロローグ 公称帝王の誕生〜調子に乗った相手は女神でした〜
今とは違う別の世界、そこは異世界と呼ばれている。
魔法があり、数多の種族が生まれ、科学では到底解明できない、未知と出会いに溢れた世界。
そこに降り立つことこそが、異世界転生だ。
そして、この時にもまた、その世界へと足を踏み入れる者がいる。種族と特殊能力を与えられ、いずれ勇者となり、英雄となりて、世界に名を馳せる、そんな壮大な物語の始まりが......。
・・・いや、どうしてなんでしょうか閻魔様。聞いてないんですけど、こんな展開は諸々に。
開幕早々、自身が置かれた現状に不満を漏らす主人公。
彼の名は、暇・海塹。
たった数分前に異世界へと降り立ち、女神のような女性と対峙していた。....謎の状況である。
その女性は決して、閻魔様に仕える案内人などではなく、当然そんな話は聞かされていない。
天界から送られた訳でもない、正真正銘、異世界の住人だ。....この時点でもう、よくわからない。
あの世でいろいろ教えてくれた閻魔様の説明によれば、転生者はその世界での種族を与えられ、自分と同じ種族の領地に飛ばされると聞いた。
もちろん、彼ーーーカイザンは男だ。女神種なんて種族じゃないし、彼女らの領地に降り立つのはおかしい。
しかしながら、事実としてカイザンは女神と対峙している。
・・・ってなったらまあ、思う訳なんだよ。目の前の女神は、'突発的最初の強制イベントでの雑魚キャラ'なんじゃないかって。
この手のイベントはだいたいが主人公の力を発揮するような展開が始まるものだ。
つまり、ここで自分の特殊能力を、与えられた種族の力を試してみろとのことで間違いないだろうと思う。
そう言った結論に至り、時は数分後の事となる。
....自分を強キャラ主人公と勘違いした結果、カイザンはこういう状況にあった。
「決闘ですっ!! 貴方と私、どちらが優位にあるか、決闘にて証明致しましょう。正式な規則の下、貴方に確かな敗北と醜態たる屈辱の両方を贈らせていただきます」
目の前の女神が、それはもう、大層怒った様子でそんな事を言ってくる。
カイザンへと一直線に向けられた人差し指。そこから言葉として差し出されたのは、所謂、決闘の果たし状である。
・・・はい、調子に乗りました。はい、煽りまくりました。......はい、俺が悪いですね、わかります。
カイザン自身の告白通り、彼は調子に乗った。
それはもう、思いつく限りの調子というものに乗りまくったわけだ。女神ということで歳をいじり、身の程を知らずに貶し続け、ここまできた。
その結果、当たり前に今、天罰を受けている。
ここで何故、第一村人ごときに決闘を申し込まれたことが天罰という扱いを受けるのかと思うだろう。
その理由でもあり、一番重要な点、その女神が何者であるのか。
それは既に、彼女自身が自らを名乗っている。
「....これを、最強種族から貴方への制裁とします!」
そう、こう通り、彼女は女神っぽい女性ではなく、女神種という種族であり、最強種族と呼ばれているそうです。
・・・うん....まぁ、分かってはいたけど、まあ、そりゃあ、女神は強いよね、常識的に考えて。俺に常識が無さすぎよね。
さすがにこんなのは聞いていない。
どの世界においても女神が最強レベルなのは常識的だが、異世界転生なんて非現実的な事をさせておいて常識関係を問うなんてのが酷い!!
普通、転生早々に敵意を向けられながら出会う相手なんて、英雄譚への踏み台か何かだと思う..............思う!!
これはもう、全面的に閻魔様が悪い。そうする。そうしておこう。そうしましょう。
ってことで......
・・・って、何も解決してねぇ....。
「とっ、とりあえず.......平和的な対話で解決しようか......お姉さん?」
降参ポーズでもするように両手を上げ、多少引きつった笑みで笑いかける。
最後につけた疑問が女神の眼光を鋭くさせ、カイザンは益々の危険を感じるのであった....。