第5話 物騒な状況
とりあえず近づいて、彼女の様子をよく見てみる。
「大丈夫なの!?」
多少すすけてはいる様だが、見る限りは普段の彼女そのままだ。
太陽の様な鮮やかな髪色は暗さのせいで見えないが、愛嬌のある顔立ちも丸々とした大きな瞳も、それなりに見て取れなくはない健康的な体のどこにも怪我はない。
「そんなにじろじろ見なくても大丈夫だってば、顔近いよ」
「あ、ごめん」
心配のあまり少々我を忘れてしまっていた様だ。
クロードは、慌てて距離をとる。
イリアはこちらに安心させるように話してくる。
「あたしは平気だよ。爆発があった時に、ちょうど財布を落としちゃって、かがんでたから」
爆発。
やはり、何かが爆発したらしい。
だが、イリアは幸運にも遮蔽物に身を隠していた為に、五体満足でいたと言う。
運が良かったらしい。
「あたしがラッキーガールなのは知ってるでしょ」
「まあね。それでも理屈じゃないだろ? こういうのって。イリアだって友達が危険な目に遭ってるか持って思ったら心配するでしょ」
「確かにそうだね。ごめんね。あと、ありがとう」
何にせよ、目立った怪我もなくてほっとした。
イリアは意識のない少女を示して、クロードに抱える様に伝えて来る。
「ちょうど良かった。私一人で運ぶのは不安だったから、クロードが来てくれてほんと安心だよ」
「まだ、終わってないだろ。もう」
放っておいて一人で逃げても、誰も責めやしないだろうに。
何とかしたいと思って、方法を探している内にずるずると居残ってしまったのだろう。
ともあれ、探していた彼女と合流できたのなら、ここに居続ける理由は無くなっただろう。
「じゃあ、イリアがその子を運んで。何かあったら、僕が対処するから」
イリアにそう指示して、クロードはそれを取り出し、手に取ってセーフティを外した。
護身用の銃だ。
この世界は、遥か昔……古代の地上世界とはちがって色々と物騒だから、普段からこんな物でも持っておかないとやってられないのだ。
「「あっ」」
爆発の影響が今になって表れたのか、上から何かが崩れて来た。
天井のがれきだ。
クロードはそれらいくつか、こちらの障害になる物を撃ち抜いていく。
的はかなり小さくて、十センチにも満たないものばかりだったが、狙いうつ事ぐらいこちらの腕なら造作もない。
それでも落下してきたものもあるが、それらの全ては『クロードには絶対当たらない』。
「ちょっとごめん」
「えっ?」
イリアの肩を引き寄せて、頭を守る様に手をかざせば、彼女めがけて落ちていた物が不思議なほど避けていった。
「もう大丈夫」と声をかければ、予想以上にイリアの顔が近くにあって少しだけ心臓が驚いた。
「あ、ありがとう。えへへ、ちょっと照れちゃうね」
「え、あ……うん。ごめん」
ぎこちなく謝りつつも、改めて周囲を見回しながら思考をすぐに切り替えていく。
「安心して、何があってもイリアの事は僕が必ず守るから」
「うん、信じてるよ」
そんな先程の光景を当たり前のように受け止めたイリアにも、この世界を渡っていく実力はあった。が危険な目にあう回数は少ない方が良いに決まっていた。
「あ、でもクロード。私だけじゃなくて、この子も含めてだよ」
「細かいね……」
少女を背負ったイリアに、もう一人の存在を言われて苦笑。
その姿からは微塵の不安も感じられなかった。
「じゃ、行くよ。ちゃんと僕の後ろについていてよ」
「はーい」
「はーいじゃなくて、はいだろ?」
「はい……。クロードこそ細かいよ」
「何か言った?」
「何でもー」
少女を背負ったイリアを背後に連れて、他愛のない話をしながらも、クロード達は警戒しながら来た道を戻っていく。