第2話 そんなんじゃないのに
道の広い大通りに出て、いつも昼食を買っているパン屋を通り過ぎる。
足元でちょこまかと歩くのは小さな蟹や貝。
遠い昔には人間の生活圏に交じって行動するなんてあまりなかった生き物だけど、諸事情あって今の時代は隣人の様なものだ。
暗くなった通りをなれたように歩き、餌となる道草をはんでいる。
わずかに塩のにおいをさせるその道草は、彼らの貴重な栄養源。
むしゃむしゃと一心不乱に食べている者達を見ながら、僕は目的地に向かって急ぐ。
そのさなか、同期で卒業した友人が営む喫茶店が店じまいしているのを見た。
「よう、クロード。仕事は終わったのか?」
こちらにに話しかけてきたのは、通り過ぎようとしたた閉店作業中の友人だった。
「ケニィか。まあ、そんな所。これからイリアを回収しにね」
「ああ、あいつか。相変わらずイリアのお守りは大変だろ」
かけてくる言葉は非常に気安いもの。
それは、同じ学び舎にて、数年顔を合わせた人間としてのありふれた距離感だ。
「お守りって……。あながち否定できない所もあるけどさ。彼女、僕達と同い年だよ」
「知ってるよ。何度同じクラスになったと思ってるんだよ。でも、とてもそうは思えないんだよな」
「ま、僕もよくあるけどね、年下? 年上?」
「年下が九割、年上が一割ってとこだな」
「僕もそんな感じ」
軽口を叩きながらも気にしてしまうのは時間。
ここで、懐かしい顔と話に花を咲かせるのも悪くないが、それだと本来の目的が達成できなくなる。
「悪いけど、もう行かなくちゃ、イリアがコンサート会場にいるんだけど、すっぽかしちゃったからさ」
「ほうほう、あのクロードがデートですか。中々やりますな」
「そんなんじゃないって」
肩を小突かれて、調子に乗ったような声を間近で聞かされ、クロードは辟易する。
どうも彼らは、学校卒業後も付き合いが続いている異性の人間同士を見ると、出来上がっている事にしたがるらしい。
だが、目の前の友人はそこまでではなかったらしく、時刻を考えて大人しく引き下がってくれた。
「でも、ま。いくらイベント後って言っても、夜の一人歩きは危険だしな。イリアによろしく言っといてくれ」
「うん、分かった。伝えとくよ」
そんな距離感を心地よく思いながらも、再び歩みを再開。
数分のロスを経て、残りの一曲すらも聞けない到着時間になってしまったが元から捨てているので今更だ。
「まったく、どうして皆は僕とイリアをくっつけたがるのか……。そんなんじゃないんだけどなぁ」