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小江戸の春  作者: 四色美美
4/9

川越市駅から

今回は川越市駅から歩きます。

 後日、改めて川越市駅に下り立った。

あの日いただいたマップを又手にする。



「あれっ、持っていたはずじゃ?」

先輩が声を掛けてくれる。

今日は二人だ。

私はそれだけで嬉しくなっていた。



「あっ、これ先輩の分。持っていた方が便利かなって思ったの」

私はそう言いながらそれを渡した。



「あっ、ありがとう」

先輩がお礼を言うの初めて聞いた気がする。

それを無理矢理言わせたくてやった行動だ。

本当は叱られないかドキドキしていた。

スキップでもしたい雰囲気だった。

だからって遣ったら、可笑しな人間に思われるかも知れない。

それでもウキウキしていた。

あの日、先輩の仕草にドキンとした。

あれから、私は可笑しいのだ。

もしかしたら、先輩を好きになったのかも知れない。

いや、私は元々先輩に憧れていた。今に始まったことではないのだ。





 駅前の道を右に曲がり人の波に付いて行くと本川越駅が見える場所に出る。

其処を右に折れるとこの前行ったスクランブル交差点だ。

真っ直ぐの道は喜多院方向。

左に折れると熊野神社だ。

この前行った八咫烏のレリーフが飾ってあると神社だ。



「もうすぐワールドカップだろう?」



「あっ、だから此処もアピールですか?」



「そう、皆で応援して盛り上がろうか?」



「今不振に喘いでいるみたいですからね。何だか、監督と選手の意志疎通が出来ていないような気がするの」



「ナマ言って」

先輩が鼻で笑った。





 水洗い弁天の笊で持参したお金を洗う。

その後、来た時とは反対の鳥居方面へ行く。

其処にあるのが依然クイズに出題された踏み石の道だ。

尖った小石や丸みを帯びた石なとが沢山並んでいる。

とてもじゃないけど、裸足じゃ歩けない。

だからと言ってストッキングじゃ伝線しそうだ。

私は結局、歩かない方を選択した。





 鳥居の脇をすり抜け、その先を左に曲がる。



「あっ、此処が有名な?」



「あっ、此処は違うよ。この前は通らなかったから解らないか?」

私はどうやら蔵造りの道かと見間違えたようだ。

でもきっと見ていたはずなのだ。



「確か大正浪漫夢通りだったかな?」



「わっ、素敵なネーミング」



「そうだね。蔵造りの道は一番街通りだから、此方の方が洒落ているね」



「でももしかしたら、私のように勘違いする人もいるかも知れないね」



「かもな」



「でしょ?」

そんな会話が楽しくなった。





 今日は撮影が中心だった。

蔵造りの町並みの中には傘屋さんが何軒かあって、軒下や道路上にもカラフルな傘が並んでいた。

それもかなりリーズナブルだ。

表だけではなく、店内にも沢山並んでいた。

あまりの安さに一つ欲しくなった。



店の前に並んだ傘の脇に如雨露が置いてあった。



「これって、もしかしたらこの傘の撥水力を確かめさせるためかもね。だから道路が濡れているんだわね」



「あっ、本当だ。この傘は洋なんだけど、ファインダー越しに見るて和にも見える。いや、間違いなく和だな」

それを確認させてもらうと先輩が言った意味が解った気がした。



「川越って、和なのですね」



「そうだよ。だから有名な珈琲店も和の店をオープンさせたんだ」



「それも新聞記事で読んだわ」



「だったら行ってみる? 食事系の取材もしておかないといけないからな」





 早速、新聞記事にあった時の鐘近隣に向かった。

敷地面積は約700平方メートル。てんぽは約220平方メートルで店の奥には築山と池をイメージした庭園があるそうだ。

眼科医院の跡地で、屋根には瓦を使い正面は格子戸になっていた。





 次は小江戸蔵里だ。

川越市は新富町の市産業観光館の一部を県内の地酒を試飲販売する施設に改修したのだ。

オープンは今月半ばの予定だった。



「男性には外せないスポットだからな」



「先輩、もしかしたて飲んべえですか?」



「いや、たしなむ程度だ」



「本当ですか?」

私問いに困ったそうな顔つきをしたので思わず笑い出した。



「そんなことより、女性は着物だろ?」



「着物って、もしかしたら3月31日に開催する粋な誘客?」



「お、お前さんも新聞記事を見たか?」

その質問に頷いた。



私は先輩と少し近付けたことが嬉しくて堪らなくなっていたのだ。





 菓子屋横丁に足を運び、近くにあった和菓子の店に入る。

色々とある中から芋羊羮を選ぶ。

店内での飲食用のテーブルに座ると、笊に入れられた名物が運ばれて来た。

私達はそれを二人で分けて食べることにした。



「何だか、和菓子っていいですね?」

其処で又あの話題になった。



「小江戸」川越粋な誘客。

そうタイトルが付けられた記事だった。



時の鐘の近くに和装のレンタルショップがあり、一日20名以上の利用客が来るそうだ。

その約半数が外国からの観光客だそうだ。



でも殆どが日帰りで宿泊者は一割にも満たない。

それも3時間から半日遊ぶ程度だったそうだ。

其処で中心街に位置する大正浪漫夢通りで16年にイルミネーションを始めた。

翌年は歴史的建造物のライトアップも行った。



そんな涙ぐましい努力も悪天候には勝てずに昨年は41万人の減となったのだ。





 「この前の祭りでは町人姿でお出迎えしたそうだよ」



「春祭りのことですか?」



「そう土日にやったらしいね」



「私の友人は秩父に行きたかったそうですが、喪中なので諦めたそうです」



「秩父も春祭りだったの?」



「はい。確か山田の春祭りって言ってました」



「山田の春祭りって、もしかしたら音楽花火発祥の?」



「あっ、それです。流石埼玉マニア」



「又それか……」

先輩は苦笑いをしていた。



「山田の春祭りが音楽花火の発祥だって知って、この花火を作った人を取材した。でも残念ながら考案した人は亡くなっていたんだ」



「あっ、もしかしたら友人の……」



「友人? もしかしたら定峰峠に桜を植えようと発案した人の孫と、知り合いなのか?」



「あっ、その人です。友人のお母さんが言ってたそうです。結婚したり、仕事で故郷を離れた人が帰って来られる場所を作りたいと」



「そうだ。確かにあの人もそう言っていたな」



「友人は葬儀会場で花火が打ち上がるのを聞いたそうですが、その時エーデルワイスが流れたそうです。それで尋ねたそうです『これが音楽花火ですか?』と」



「秩父はお昼にエーデルワイスがチャイム代わりに流れるそうだから、勘違いしたのかな?」



「もう、先輩。私が言おうとしたこと先に言わないでください」



「……って、ことは図星か?」

仕方なく頷いた。





 「それだけ定着したんだって、友人は思ったそうです。だからかな? 葬儀会場はごった返していたそうです」



「秩父の葬儀って合理的なんだっな?」



「あっ、それはお墓がある人だけだと思いますが」



「それもそうだな。お墓がなかったらその日の内の埋葬は出来ないからな」



「そうですよね。朝斎場に行って、葬儀したら埋葬ですから。でも……あっ、さっき確かに喪中だと言いましたよね?」



「ああ、聞いたよ」



「でもそれじゃ寂しいらしくて、埋葬は四十九日にしたそうです」



「そうか。合理的過ぎたら、却って辛いかもな」



「はい。友人もそう言ってました。だから私も祭りに参加しなかったのです」



「何時その喪は開けるの?」



「ゴールデンウィーク中はまだですね。だからあの、日枝神社の川下りには……」



「解ったよ。でもお前さんじゃないんだろ?」



「はい、そうですが……」

先輩が何を言いたいのか解った気がした。



(出来れば私も先輩と乗りたいよ)

私は先輩の気持ちも確かめない内から一人で舞い上がっていた。



その時、店の前を人力車が通った。

先輩は店を出て、後ろ姿を撮影した。



「これぞ和だな」

先輩はファインダーを覗きながら呟くいた。





 菓子屋横丁の奥の方に足を運ぶ。



「名物はこれかな?」

曲がり角近くの店先にあった、日本一長い麩菓子を手にする。

「いや、此方かも?」

私は先輩を誘った場所に飴細工の屋台が出ていた。



「初めて見た」

私が呟くと、先輩がその飴を買ってくれた。

写真撮影のためだと解っていても嬉しかった。



「先輩も舐めてみる?」



「それじゃ間接キッスになるだろう」

その言葉に又ドキンとした。



「あはっ、止めてください」



「お、お前さん赤くなったぞ」



「もうー、先輩ったら」

そう言いながら、急に恥ずかしくなり俯いた。





 「この先は止めておこう」

私が行こうとしたら先輩が手を引いた。

私は思わず先輩の顔を覗き込んだ。

でも先輩の言葉に従い、又蔵造りの町並みに向かうことにした。



「あの先の店の主人が火事で亡くなっているんだ。俺はそれを知らなくて、数日後に訪ねているんだ」

先輩はそう言いながら、その時に撮った写真を見せてくれた。



「火事が起きたのは日曜日だそうだ。だから当然賑わっていた。でもそれだけじゃなかったんだ。偶々前日に特集番組が放映されていたらしいんだ。それも、小江戸川越蔵造りの町と火事だったそうだ」



「えっ、そんな時に火事ですか?」



「だから皆驚きパニック状態になったそうだ」



「解る。もし私も現場にいたら、きっとそうなる」

それから暫く、黙り込んでの移動が続いた。





 結局、写真撮影らしいのは撮れなかった。

でも先輩との距離が近付いたと感じて嬉しかった。

あの重苦しい雰囲気はあったことは別にして……



「私、その人とは物凄く仲が良かったの」



「だから神社へ行かなかったのか?」



「四十九日が過ぎれば、喪中の人でも鳥居を潜らなければお詣りしてもいいそうなの」



「何だか、それも合理的って言うか……あれっ、そう言えば熊野神社の鳥居すり抜けていたよね?」



「はい。つい」



「そこまで大事な友人なのかな?」

先輩の言葉が詰まった。

私達は気まずい思いしながら、黙々と歩いていた。



「あれっ?」

先輩が立ち止まった。

何事かと思ったら、目の前に川越市駅があった。

私達は何も考えずにずっと歩き続けていたのだ。



「何時の間に此処に来たのだろう?」

先輩の言葉に思わず笑った。



「本当に……」

私も声が出ない。



「もう一度歩き直す?」

その言葉に首を振った。



「今日は会社に戻りましょうか? 本当にごめんなさい。私が友人の話を始めたから……」



「お前さんのせいじゃない。俺も悪かったんだ」

川越市駅の階段を上り電車に乗る。

でも会話が止まった車内では、会社までの道のりが遠く感じてならなかった。



私達は撮影した写真で大まかな企画書を作成した。

でもこれで終わりじゃない。

これからも二人のロケーションは続くのだ。



「何か癒しの空間があってもいいね」

不意にそんな、思ってもいない言葉が漏れた。






川越での大火を取り上げたテレビ番組があった翌日、菓子屋横丁で火災が発生致しました。

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