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小江戸の春  作者: 四色美美
3/9

川越駅から

川越駅から歩きます。

 川越に念願だったホームドアが出来たと新聞記事にあった。

私達は早速、其処へ行ってみることにした。

東武東上線は昔から事故が多く、その度電車が遅れていたのだ。

その原因の一つが、東武が高い違約金要求しないことにあると何処かの駅で運転再開を待っていた時に言われた。

実際にそうなのか解らないけど、もっと高く取れば軽々しく踏み切り内には立ち入らないても語っていた。





 東京メトロの乗換駅には設置されているにはいるが、それ以外は見たことがなかった。

だから尚更嬉かった。



「念願のホームドアってあったけど、本当に感慨無量だね」



「それにしても遅すぎないか?」



「そうよね。有楽町線には全駅あるのにね」



「会社方面じゃないな? 一体何処へ行ったんだい?」



「東京地方裁判所。桜田門駅で降りるの」



「桜田門って、確か皇居と警視庁がある場所か?」



「警視庁の反対側にレトロなレンガ造りの建物があって、その隣の建物に裁判所が入ってる」



「何の裁判だ。まさかお前さんが被告じゃないんだろう?」



「当たり前じゃない。私が悪いことをする人間に見えて?」



「ふふふ、人間見た目じゃな」

先輩がキツいことを言う。だから私は言ってはならない家族の恥をさらけ出す羽目になっていた。





 私の母は兄を装おった詐欺の被害に遭っていたのだ。



「『母ちゃんごめん』って電話機口で言われ、母は兄だと思い込んだの」



「お兄さんってそんな言い方するの?」



「うん。そっくりだったらしいよ」



「でも普通、違う人が持ちに行くって言われた時点で気が付くはずだけどな」



「それが最後まで自分が行くって言ってたみたい」





 そんなこと話していたら、観光案内所まできていた。



「市の駅には無いんだよ。だから此方が便利なんだよ」



「ちょっと遠回りになるけどね」



「いや、それほどでもないと思うよ。あっ、これが驛の鐘だ」



「驛の鐘? 初めて聞いたわ」

私は暫くそれを眺めていた。





 川越駅前のだだ広い高架デッキを左に歩き階段を降りる。

其処にあるデパートの脇道を真っ直ぐに比較的大きな通りとぶつかる。

更に進んで行くと、五叉路があった。



一番広い通りを行くと、喜多院入り口の標識を見つけた。



前にも来たことがあるはずなのに忘れていた。

川越第一中学校の先に中院の門柱と山門があった。



中に入って驚いた。

枝垂れ桜が満開に近い状態だったからだ。



「だから言ったろ。此処は桜の時期がいいって」

先輩は得意気だ。



「本当に素敵ですね」

私はありきたりな言葉しか出てこない。

ちょっと悄気ていると先輩が顔を覗き込んできた。



「な、何なのですか?」



「いや、急に大人しくなったからかな? お母さんのことでも思い出したのか?」



「ううん」

そうは言っても、先輩の言葉で又詐欺事件を語る羽目になっていた。





 「鎮守様まで現金を袋に入れて持って行ったんだって」



「息子さんだったら普通家に持ちに来るよな?」



「家には父がいるから……ね。だから外での受け渡しなんだと母は思ったの」



「でも、結局詐欺だと気付いたんだろ?」



「そうよ。お金を渡す少し前に、急に行けなくなったって電話があったんだって」



「それでも渡した?」



「そうよ。悪い? 母はその時詐欺ではないのかと思い始めたの。だから家に戻って息子の安全を確認してから110番に通報したのよ。すぐに捕まるって確信したからよ。地元の警察を信用したの」



「警察はすぐに来たの?」



「来るには来たんだけど、全然動かないんだって」



「何で?」



「詐欺事件だからよ。刑事が母をバカにして、逆探知機で遊んでいたんだって。その内に犯人から電話があって、『用意が出来てないから出ないでくれ』って言ったんだって。でも『きっとこれで掛かって来ないでしょう』とも言ったんだってさ」



「何なんだ、その刑事」



「でしょ? だから母は怒ったのよ」

私は母から聞いたことを話した。

でも私も刑事の母を小馬鹿にした態度が許せなくなっていた。

だから先輩に話したのかも知れない。





 折角の中院の枝垂れ桜を、詐欺事件の説明で楽しむことが出来ない。

それでも私は続けるしかなかった。

地元の刑事に母が受けた侮辱を先輩に解ってほしくなっていたからだ。



「刑事が事情聴取をしている時に兄から電話があったんだって。画面に名前があったんだって。その電話に刑事が出て『もしもし、お兄ちゃんだよ』って」



「何それ?」



「刑事が、母の前で兄の兄を騙ったんだってさ」



「お前さんにお兄さんが二人いる訳か? その刑事が一番のワルみたいだな」



「そうなのよ。母を揺さぶって遊んでいたの」



「訴えてやったら?」



「母もそう思ったらしいけど、刑事が何故本気になれないかをその後知った訳よ」



「何だろ?」



「あのね。警視庁から刑事が来てね、事件は警視庁に引き継がれることになったな。犯人は栃木県で捕まった らしいの。母のは別件で……」



「そうか、地元の刑事が犯人を捕まえても警視庁に持っていかれるんだ。だから本気になれないってことか?」

先輩の言葉に頷いた。



「詐欺事件なんかで俺達を煩わせるな。ってことでしょう」



「お母さんにしたら、詐欺の犯人よりも刑事の方が許せないってことだな」



「うん。その通り。あのね、刑事はすぐに全部のタクシー会社に連絡したって言ったんだって。でも警視庁からの刑事はそのタクシーの運転手を割り出したそうよ」



「流石警視庁の刑事だ。でもちょっと待て、ちゃんと捜査していればその場で逮捕出来たのかも知れないな?」



「そうなのよ。母の通話記録では、現金の受け渡し事件が発生してから1時間後だったの。それに、アジトも割り出せた可能性もあったみたいなの」



「逆探知機を弄ばなければってことか?」



「警視庁の刑事によれば家の電話に掛かって来たのがアジトからで、携帯に掛かって来たのとは別だったみたいです」



「本当に馬鹿だね、その刑事。アジトが判明したら、未然に防げた事件があったかも知れないのにな」



「母もそれを言ったいたわ。母はね、鎮守様に向かう前にその電話を受けて不振に思ったんだって。だから犯人の後ろ姿を撮影したの。だからコンビニの防犯カメラで犯人が特定出来たの」



「えっ!? それでも動かなかったの?」



「本気に馬鹿な刑事がいてね」

私達は何時の間にか意気投合していた。





 菓子屋横丁を出て、高沢橋を渡る。

右に曲がって4つの橋を越えてかなり行った場所に北公民館があった。



「此処の桜もまだまだね。満開になったらきっと物凄くなるんじゃない。きっと大勢押し掛けるわね」



「そうだな。これからまだ観光客を呼べるな」

私達が何故川越に観光客を呼ぼうとしているのかは新聞記事にあった。

川越観光客41万人減、とあったからなのだ。



「この地図にも桜の絵が描いてあるくらいだから、きっと後少し」



「来月の頭かな?」



「4月1日。エープリルフールよ」

私は笑っていた。





 北公民館にも、日枝神社のインフォメーションボードのような物があった。

何やら同じような物みたいだ。



「もしかしたら日枝神社の祭りの告知かな?」

私は其処へ行こうとしたのだけど、何故か先輩が止めていた。



「ごめん。疲れたから帰ろうか?」

先輩のその一言で私は立ち上がった。





 帰りの道は来たときより険しい。

道ではない。

体力が……なのだ。



川越氷川神社前を右に曲がって暫く行くと、裁判所前の信号機にぶつかる。



「裁判所?」



「さいたま地方検察庁とさいたま地方裁判所があるらしいよ」

先輩は以前私がもらっておいた地図を見ながら言った。

どうやら私の地図も役に立ったようだ。



「どうせなら、蔵造りの町並みを歩く?」



「この道を行ったら何かあるのかな?」



「いや、ないと思うよ」



「だったらその道を行きましょう。だって一番解りやすいし、駅にも近いからね」

私の一言で帰りの道が決まった。

私達は疲れた体を引きずりながらもその町並みを楽しんでいた。






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