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目覚め

 見渡せば、遠くまで広がる草原。風に撫でられ波のようにうなるその風景はとても美しい。空は高く澄み渡り、悠々と飛び回る鳥は()()()()()()()()()()()――――。


「いや……デカくね?」

 そう呟いた時、けたたましい着信音とバイブレーションがブレザーの内ポケットから響き渡る。突如として鳴ったスマートフォンに吃驚しつつ取り出すと、知らない番号がディスプレイに表示されていた。

「誰だ?」

 対して深く考えもせず、画面をスライドさせて通話画面にし、耳に当てる。

「も―――」

「おっはよーーーーー!!!」

 ビリビリと空気が震える感じがした。

 瞬時にスマートフォンを耳から遠ざけていなければ、鼓膜が破れていたかもしれない。

 けれど、声の主はその大声を悪びれる事はなく、自分の反応を聞かずにマシンガンの如く喋り出した。

「通話できてるってことは、起きたんだよねっていうよりも気づいたって言った方がいい? それともこれはキミの脳が認識し始めたってことでいいのかな? でもそれはいい事だよね! うんうん!」

「あの」

「いやぁ、キミを修復するのには時間がかかったよ! なんせあんなに壊れてたら部品(パーツ)が足りなくてね、仕方がないから代替品を引っ張り出してキミに組み込ませたんだけど、上手い事噛み合っているようで安心した! でも流石に試運転(テスト)が出来る時間がなくて、不具合が起こってないか改めて心配なんだけど、キミさ――」

「あの!!」

 相手の話を制すように、通話口に向かって負けじと大声を発する。それが効いたのか、向こうの相手はしばしの沈黙の後、冷める様な口調で応答した。


「……何?」

「何って、突然電話が鳴ったと思ったら、鼓膜破れるかと思うくらいの大声出されて、しかもわけわからない事をベラベラと喋って……。何なんだよアンタは!! ここは何処なんだよ! 俺はこんな自然豊かな場所に居たことはない。太陽を覆い隠すほど、デカい鳥が飛んでいる場所を知らない。こういうのは全部、テレビやラノベの世界だけで――」

 ふと、自身の言葉にひっかかりを覚えた。テレビ、ラノベ。言葉は知っているのに、何故かどういうものだったか、霞がかかったように思いだせない。喉のところまで出かかっているのに、そこで栓をされているかのような、そんな感覚。

「――テレビやラノベって、何だ……?」

 呟いた言葉に反応したのか、電話口の向こうで、嘲るような笑いが聞こえた。

「ブフッ、アハ、アハハハハ!」

「何が面白い!」

 思わず声を荒げて怒鳴ってしまう。 

「何がって、キミのその間抜けな疑問にさ! アハハハハ!! 抱腹絶倒とは正にこの事なんだろうね、想定してた範囲だったけれどこうも直に体験するとは!」

 さらに笑い声が大きくなる。いっそ切ってやろうかと思ったが、切るにしてもコイツの言ってることがわからない。俺を修復した? 代替品を引っ張り出して組み込んだ? くそ……何がどうなってるんだ……。


 笑い声にイライラしていると、電源が切れたように笑い声がぴたりと止まる。

「まぁいいや。いずれはそんな()()()も元に戻るだろうし。キミの脳味噌が、半分吹っ飛んだ話なんか聞きたくないだろ? それよりもボクは最終調整に入りたい」

 ズン、と身体に重しが乗ったように重くなる。

 身体全体にのしかかるそれは、次第に立つことすらままならなくなるまで強くなり、柔らかな草地に膝をついた。倒れようとする上体をなんとか抑えようと両手を地につけると、くぐもった音声が草の中から聞こえた。

 ……はずみでスマートフォンを地面に押し付けていたようだ。

「何を、した……!」

「何も。【名付け】されていない人形の活動限界が来ただけ」

「活動……げんか、い…?」

 次第に視界が霞んでいき、呼吸が荒くなる。息を吸おうとしても、吐き出すばかりで一向に肺に空気が充満しない。

「はっ……ぐ、ぅぅ……」

 天頂にまで上った太陽光が倒れ伏した俺を焼いていく反面、心地のいい風が熱された身体を冷やしていく。こんな状況でなければ、素直に喜べていたけれど、今は只管にこの苦しみから解放されたかった。


 向こう側の相手は黙っている。通話は、多分、切れてはいない。

「停止していくキミを眺めていたかったけれど、そうなるとボクの計画に支障がきたしてしまう。…まったくもって残念だ」

 観念したかのように、ぽつりと呟きだす。上手く脳が働かないせいか、言葉は入ったそばから外へと流れていく。

「さて、ボクはキミに三つのプレゼントを与えた、一つは脳、一つは両腕、一つは両脚。それはボク等が製造した中で一番の問題作(さいこうけっさく)だ。自由に扱ってくれ」

 ()()()()()()()()に、誰かが映り込む。

 女の人みたいに綺麗な顔で、無感動な金色の瞳が俺を見つめていた。

「『製造番号5010-666-17』、主たるマキアがお前に名を与よう。『賽野裕也(さいのゆうや)』…喜べ、お前の本来の名だぞ」


 妙にハッキリした声がそう言い終わった後、俺は電源を落としたみたいに意識を失った。

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