Story5 例外vs例外
グゴアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
空間を震撼させんばかりの巨大な咆哮に思わず耳を塞ぐ。
轟も、いづなも、聖羅も、そして慎太郎さえもその場から一歩も動くことが出来ない。
「ガァァ!!」
このダンジョンの主、レズヴェルは四本ある巨大な腕の一本を使って巨大な岩石を飛ばしてくる。
それは慎太郎らのいる場所を覆いつくすのには十分すぎるサイズだ。
「くッ!! アブソリュートディフェンス!」
轟の足元に白い魔法陣が大きく広がり、巨大な盾が召喚される。
まさに神業だ。召喚された瞬間に岩石が盾にぶつかり、ギリギリと嫌な音を立てる。
ドパァン! と破砕音が鳴り響き、轟の召喚した盾と岩石が双方砕け散る。
「アブソリュートディフェンスでギリギリって…。破壊力満点すぎでしょ」
轟が乾いた笑い声をあげる。
アブソリュートディフェンスは広域守護スキルだ。パラディンの虎の子スキルである。その名の通り、相手の攻撃を絶対に防ぎきるチートじみたスキルだ。しかし、このスキルは発動後のクールタイムが長く、それ故に召喚された盾にはライフ値が設定されており、それが削り切れるまでは常時展開し続ける事が可能なのだ。無論、ライフ値をオーバーする攻撃も一度に限り防ぎきることが出来る。
だが、それはつまり。
「あれは即死攻撃か」
「みたいだね。昨今のボスにありがちな話だけど、あのサイズから放たれるあの範囲攻撃って、死ねって言われてるようなもんでしょ…」
相手は常時小石のようなものを投げて攻撃してきている。
遠すぎて小石に見えたそれは一個一個がボックスワゴン一台分程度のサイズであった。
「皆避けろ!」
轟の指示に従って攻撃を回避、傘になっているエリアオブジェクトの下に隠れる。
先程の岩石は、それこそ一軒家数件分程度の横幅があった。あれを定期的に撃ってくるとすれば、頼れるのは己の勘のみだ。即死攻撃自体は珍しくないが、あそこまで回避不可能な判定の広そうな攻撃では、実質死刑宣告に近しい。対応策としては、『ハイプリーステス』の『アンチデッド』しかない。これは即死攻撃を受けてもライフが1残るスキルだ。とは言え、ライフの絶対値が高い轟のHP回復と同様に聖羅や慎太郎のHP回復をするのは至難の業だ。連続で来られたらマズイ上に、四本ある内の二本は常に落石攻撃を繰り出している。決して範囲は広くないが、万が一にも喰らってしまえば、『リザレクション』の対応に追われてパーティの回復機能はほぼ活動停止状態だ。
「どうするのだ、シン。一度撤退するのも手だと思うが」
聖羅が躊躇いがちに可能性を口にする。
彼我のレベル差は30程。絶望的な数字だ。相手の防御率にもよるが、見た目から察して防御率は70から80%といった所だ。防御率無視は基本オプション(廃ゲーマーなら、である。ライト層なら装備のセット効果で付いていれば良い方程度)であるので、慎太郎と聖羅は基本的にそれを無視して戦える。高レベルボスとのレベル差によって起きる問題は、被ダメ増加と防御率干渉値によってこちら側の攻撃力が削られるところにある。簡単に言えば、相手のレベルが高ければ高い程、こちらの防御無視パーセンテージの実数値の効果が薄れるという事だ。
仮に全装備で50%を無視出来るとすれば、凡そ相手の防御率は30%といったところだ。
しかし、彼我の差は30Lvとなると、厳密な計算式は分からないが、大体50%である。
無論、相手の防御率が、だ。
防御率50%は、つまり、自分達の攻撃力を半分にするという事である。
「確か、防御率無視の効果って自分のLvプラマイ10までは正規の効果で、それ以上なら1Lvにつき、1.5%減少のはずよ。だから、慎太郎なら、プラス15だから、正規の効果よりマイナス22.5%ダウン。セイラなら、プラス21だから、31.5%ダウンよ」
「私の防御率無視は80%程度だから、何とか削れる最低限までは持っていけるな。ボスダメージ増加もついているし、いづなのバフもある、私は戦えない事はないが…」
「俺は100%無視だ。ほぼ相手の防御率と変わらない、相殺可能だ。同様にボスダメもある。だが…」
問題はそれだけじゃない。
前述したように、アタッカーを務める二人は基本的に防御が薄っぺらい。轟がその代役を務める事で対応できない事も無いが、相手は躊躇無く即死スキルを乱発するだろう。当然、轟の致死率は跳ね上がる。幾らいづなが付きっ切りで対応しても、偶然やまぐれによって死んでしまいかねない。
最もハードな役割を務めるのは、他の誰でもない、轟といづなだ。
先程の即死攻撃の範囲は異常な広さだ。
いづなのヒールのリーチを考えれば、轟に向かって落とされるとほぼ巻き添えを食らう。
「…面白いね。こういう機会って中々ないしさ」
「確かに。アタシ達裏方が輝けるチャンスってこういう時ぐらいしかないもんね」
しかし、二人は寧ろ楽しそうでさえあった。
いづなはまだ上のボスと戦う場面もあるが、轟はほぼカンストに近い。つまり、こうして格上の敵と戦う機会など滅多に無いのだ。ただ相手のヘイトやタゲを集めていれば勝てる。そんなシュチュエーションばかりではモチベーションも保てない。案外、慎太郎と二人で狩りに出て遊んでいたのは、その辺の単純作業への飽きがバックボーンにあったのかもしれない。
しかし、そうであれば、畢竟、ここでむざむざリタイアを選択する理由は無い。
それに。
「俺は負けず嫌いだからな。あの岩人間をバラバラにしないと気が済まない」
「危険思想だな。嫌いじゃないが」
「敵のヘイトは僕に任せて。スキル総動員で楽しませてもらうよ!」
「HPを気にする暇なんて与えないわ。全員前だけ向いてなさい!」
決意は固まった。
「行くぞ!!」
掛け声と共に、落石続く殿堂を駆け抜ける。
◆◆◆
相手の攻撃は一撃が体力の10%程度を削っていく。
元々輪をかけて防御力の低いマジシャンジョブがベースにあるだけに、慎太郎は一撃をわざと受けてダメージ量を体感しながら、極力回避する方向性に確定した。マジックガード系のスキルでHPダメージをMPで肩代わりしていてもこの量、バフの効果時間を意識しながら、回避を念頭に攻撃しなければ。
まぁ、大して難しい事ではない。何せソロプレイならこれが基本だ。
寧ろ時折ヒールが飛んでくる上に、攻撃タゲが半分以上他キャラに向く分ヌルゲーに近い。
「なめんなよ…!」
テレポートスキルを多用して攻撃を躱しつつ相手に肉薄する。
『ネクロマンサー』は全職中で最もテクニカルなジョブだ。マジシャンベースの紙防御でありながら、ローグさながらの回避力と素早さを兼ね備え、アーチャー特有のクリティカル率と遠距離攻撃を持つ。無論、マジシャンの生命線スキルであるマジックガードも持っているので、良いトコ取りである。しかし、良いトコ取りは得てして器用貧乏、或いは中途半端になるパターンが多い。攻撃スキルのレンジがマチマチで、スキルに応じた距離間を上手く詰めなければいけない。
「トランス:スペクター!」
巨大な霊体が現れる。傍目に分かるパンクなファッション、両目を覆うように結ばれたアイバンドには大きな瞳が描かれている。両手には各四本、計八本の短剣を持っている。ゆらゆらと漂う様は幽霊そのものであるが、その存在感は尋常ではない。
「ゴーストダンシング!!」
いづなが先程少しだけ触れた、15段ヒットの高威力スキル。
炸裂音が重なり合い、タイミングを合わせて聖羅の攻撃も重なる。
「ピアッシングレイ!」
現在、聖羅は召喚したドラゴンに騎乗して戦っている。
ドラゴンの魔力で精製されたクリスタルを投擲、ドラゴンの放つレーザー砲が命中する。
すると、まるでスペクトルのように反射して無数の光線となって相手に降り注ぐ。
「ゴガウア!?」
いきなりの連続多段ヒットスキルのコンビネーションにぐいっと厳つい顔を向ける。
「お前の相手はこっちだ!!」
瞬間、轟の剣戟が響き、一瞬でゴーレムの無感情な瞳が轟を睨みつける。
そして、見慣れた動作。
「ゴウ、即死攻撃だ!」
「大丈夫!」
慎太郎の叫びに呼応したのは、轟ではなくいづなだ。
既にいづなは自らに『アンチデッド』を掛けており、轟にもそのエフェクトが見える。
「ダメージディヴァイン! フェイドオブブレイク!!」
「ゴッデスリバース! エインシェントエイド! セイクリッドフィールド!!」
二人が高速でスキルを紡いでいく。
ダメージディヴァインは自分が食らうダメージを減らすスキル。フェイドオブブレイクは相手の物理・魔法攻撃力を一定時間低下させる。普通に考えれば、即死攻撃に対して何故ダメージ軽減スキルで張り合おうとしているのか、と思うが、轟はダメージを受けた後、HPが1になった場合の対処策としてこれを講じているのである。仮に回復が追い付かず、ダメージを受けても耐えきれるように、だ。基本的に、この対策はいづなの回復が少なからず1回は掛けられると踏んでのことである。
対するいづなもスキルを連発。ゴッデスリバースは本来は受けたダメージの30%を回復するスキルだ。しかし、これは多分轟に対するスキルではない。たまたまエリア内に轟が居ただけで、本来は自分を対象としたスキルである。次のエインシェントエイドは、ベーススキルであるヒール・ハイヒール・メガヒールのスキルをゼロフレーム、ノーモーションで行う事が可能になるスキルだ。効果時間は30秒、再使用時間が5分というハイリスクローリターンなスキルだ。セイクリッドフィールドはパーティ全体の物理・魔法防御力を上げ、アンデッド系モンスターからのダメージを半減させる。
つまり。
轟は2つのスキルで即死ダメを耐え切った後の応急処置を行い、ついでに聖羅と慎太郎の被ダメを削る。いづなは自分は攻撃を浴びても死なないように保護しつつ、瞬間的に轟の体力を最大値にまで持って行こうとしている。また、聖羅と慎太郎へのフォローも忘れない。
相手の即死攻撃後は隙が多い。
セイクリッドフィールドとフェイドオブブレイクを掛け直したのはその為だろう。
地を揺るがす強烈な一撃が衝突する。
破砕音に紛れて、僅かにいづなの声が聞こえる。
何をしたのかは言われなくても分かる。
削られた轟の体力がほぼ一瞬で最大値に到達していた。
「メガヒール!」
今度ははっきり聞こえる。
いづな自身の体力も完全回復していた。
「ははっ! こうでなくてはな!!」
聖羅は意気揚々と敵に肉薄していく。
無論、慎太郎もだ。
「ゴーストダンシング!! ブレイドオブアサルト!! デッドリーシャドウ!!」
「シューティングスター!! アイシクルゲイン!! エレクトロバレット!!」
巨大な人型が短剣を振り回して、踊る様に切り付ける。その後相手を一周するようにしながら切り付け続け、最後には思い切り飛び上がって両腕を振り下ろしながら叩き付ける、そして相手を思い切り貫く。それはまさに現代風のダンスにも似ていて、ストリートでジャンクな、それ故に次の手が読めない動きで相手を翻弄する。
ゴーレムは即死攻撃後、素早く攻撃態勢を取ったが、慎太郎の攻撃にスタンしていた。
聖羅は召喚したドラゴンを天空から急降下させ、その瞬間に手に持った槍を振り回す。その後ターンして体勢を整える。そして今度はドラゴンの雄叫びに呼応していきなり空中から氷柱が出現し降り注ぐ。更に、ドラゴンが高速で口元から稲妻を放つ。当たる度に体表を跳ね回り、持続ダメージと多段ヒットを与え続ける。
「グゴアアアアアアアアアア!!」
雄叫びをあげるゴーレム。
敵のHPゲージはまだ半分に差し掛かったぐらいである。
「無駄に硬いんだよコイツ…!!」
慎太郎が『トランス』スキルを用いて連続攻撃を繰り返すも、相手の猛攻に遮られる。
その上『トランス』時に発生する、憑依したモンスターのHPが見事に削り切られていた。
『トランス』状態で受けるダメージは既存のダメージより8割ほどカットされる。その代り8割をモンスター自体が肩代わりする。そして、モンスターに設定されたHPが削り切れると『トランス』が解け、その時点からクールタイムが始まる。クールタイムは10分。その上『ソウルコンストラクト』等の、モンスターの力を借りて攻撃するスキルの内、『トランス』したモンスターのものは使えなくなる。
憑依したモンスターのHPは回復することが出来ない。
「チッ!」
降り注ぐ岩石を器用に避けながら、スキルを重ねて行く。
「バッドデスティネイション! ダークネスアロウ!! スタンゴースト!!」
デバフ効果を持つ攻撃スキルを連続する。バッドデスティネイションは全能力値を一定時間低下させる。ダークネスアロウは一定確率で相手を盲目状態に。スタンゴーストは一定確率で敵をスタンさせる。この3
つを上手く駆使しつつ、聖羅の攻撃が通るように調節する。
「ソウルコンストラクト:『ブラッディムーン』!」
『ノーライフキング』の持つスキル。
真紅に染まった、三日月を思わせるカットラスを振り下ろす。
連続で最大3回。合計18発ヒット。
その上相手を出血状態に陥らせる。
「ナイトオブルーン! セイントスマッシュ!!」
轟もバフを掛けつつ『パラディン』最大火力の『セイントスマッシュ』を放つ。
聖なる光に照らされたシールドを相手の体表に叩き付ける。
「グオゥ!?」
「まだまだァ!!」
連続しての『セイントスマッシュ』を放ち、ゴーレムが攻撃対象を轟に変えたタイミングで。
「喰らえ!! ボルケーノメテオ!!」
聖羅の乗るドラゴンが口を上に向け、不釣り合いなほど膨大なサイズの隕石が生まれる。
爆炎を纏ったその隕石が、敵目掛けて落下していく。
鈍い衝突音と共に、相手のHPゲージがごそっと削れる。
すると。
「「「「「グゴアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
無数に反響する咆哮が放たれた。
慎太郎は体勢を崩した上に落石攻撃を何度か受け、HPが半分ほど削られた。聖羅も召喚していたドラゴンが光の泡となって消失し、かなりの高度から落下、加えて落石ダメージで瀕死状態だ。一番近くにいた轟は、スタンスが100%であるにも関わらず思い切り遠くに吹き飛ばされている。いづなは持ち堪えてはいるが、轟の次に近い場所で攻撃を受けた為、ダメージによる被害は重大だ。
どうやらHPが30%を切ると、必ずこのエフェクトスキルを発動するらしい。
「チッ、勇み足だったか…」
勢いに任せて押し切れそうな場面、相手は寧ろそうして攻撃に転じたパーティの弱点を突いてきた。慎太郎も聖羅も、高威力多段ヒットスキルを多用し、轟も積極的に攻撃スキルで攻めていた。陰ながらではあるが、いづなも聖属性魔法で攻撃していたのである。彼我のLv差は30弱、ヒーラーと盾はもっとそのジョブに徹底しなければならなかった。アタッカーは盾役のプレイヤーと連携しなければならなかったし、HP%による攻撃を事前に察知しなければならなかった。
手持ちの回復薬でHPMPを共に最大にまで持って行く。
いづなも早急に立ち直って、飛ばされた轟の元へ向かっている。
最後の攻撃は聖羅によるものだ。タゲは聖羅に向いている。
「喰らえ! ソウルコンストラクト:『バイトオブデス』!!」
巨大な『ノーライフキング』の顔が出現し、大口を開けてゴーレムを嚙み千切る。
ボスには効果が無いが、即死効果を持つ範囲攻撃である。
ただ、高確率で出血状態を引き起こし、呪いを掛ける効果もある。
「グゴォォォォォ……!!」
一瞬で此方を振り向く。
思いの外の威圧感だ。これと真正面から対峙していたのかと思えば、轟の凄さが改めて分かる。
「ホーリーレイ!」
すると、遥か後方から白い光線が飛来する。
ドン、と鈍い音を響かせて直撃する。
「グゥォ!!」
「ラウンドスラッシュ!」
いづなによって完全回復を経た轟がギリギリのリーチからスキルを放つ。
攻撃対象が移り変わる。
「ジェネレイトリペア!」
断続的に体力を回復するスキルを聖羅に飛ばす。
聖羅もこの一連の動作で立て直し、もう一度ドラゴンを召喚して上昇していく。
「ここからだ」
「あぁ、悪い、シン。僕がちょっとばかり出しゃばったから…」
「いや、反省は後だ。今は」
「分かってる!」
振り下ろされた岩石の腕を両サイドに分かれて慎太郎と轟が避ける。
轟ならまだしも、慎太郎なら今の一撃で半分近く削られてもおかしくはない。
その後も、猛攻は続いた。
ゴーレムからの連撃に耐え切れず、轟が一度戦死。慎太郎と聖羅がヘイトを集め、その間に『リザレクション』で復活。轟がヘイト集めに戻る寸前で聖羅が横薙ぎに腕を振る攻撃に直撃し、戦死。いづなが『リザレクション』をしている間は、ターゲットをお互いに切り替え合いながら、なんとか耐え忍ぶ。
いづなが死ぬ事態に至らなかったのは僥倖と言えるだろう。
こうして、猛攻を続ける事十数分。
「行くぞ…一斉放火だ!!」
「セイントスマッシュ!!!」
「シャイニングビーナス!!!」
「スタードラフト!!!」
「ソウルコンストラクト:『マスカレード』!!」
各々の最も威力の高いスキルが一気に対象へぶち当たる。
派手な破砕音、弾ける光の中、爆音の悲鳴を挙げてゴーレムが崩れていく。
腹の底に響くような地響きを携えて、勇猛果敢に動き回ったゴーレムはただの石塊となった。
「よ……」
「「「「よっしゃああああああああああああああああ!!!!」」」」
無駄に広いボスエリアの中。
歓喜に叫ぶ四人の声が、木霊していた。




