Story4 魔窟王の殿堂
「ここが『魔窟王の殿堂』のようだな」
一同が到着し、それを見上げる。
結構な敷地面積を誇るかもしれない。例に漏れず、このダンジョンも地下にあるようだが、ダンジョン自体が割と広い。目の前に広がる巨大な殿堂は、風化が進み、廃墟の様相を呈している。確かに遊園地のお化け屋敷なんかにありそうなテイストだ。ただ、残念な事に此処には非科学的・非現実的なことに対して恐怖心を覚えるような人間が一人としていない。
「年季が入ってんな」
「随分と手が込んでいる。さすがは『Neo Games』」
「いやー、アスベストとか大丈夫だよね?」
「それってビルとかじゃないの?」
三者三様ならぬ四者四様。的外れが過ぎるほどの感想だ。
おどろおどろしい建物を見て、メタいことを言ってのけるのは逞しいとも言えるだろうが。
「よし、入るぞ」
慎太郎の一声で、ダンジョンに潜入する。
かんかんかん、と小気味よいテンポで足音が響く。
中は想像通り広い。隊列は轟と聖羅を先頭に、その後ろに慎太郎といづなとなっている。物理ダメージに強いキャラを二体(聖羅は若干フィジカルに難ありだが)置き、支援系と遠距離攻撃系(慎太郎は遠距離と言うにはテクニカルが過ぎるが)という配列はオーソドックスと言えるだろう。
何事もないまま進む。
そろそろ地下二階に差し掛かる、といったところで。
「来たよ!」
前方から十五体ほどのモンスターが押し寄せてくる。
アンデッド系で間違いない。ゾンビ、レイス、バンシーなどが襲い掛かってくる。
「プロヴォケイション!!」
轟のスキルが発動する。
プロヴォケイションは敵MOBの注意を強制的に『パラディン』に向けるスキルだ。
効果時間は僅か二十秒だが…。
「ラウンドスラッシュ!」
『パラディン』では有数の範囲攻撃スキル、ラウンドスラッシュ。
これは対象数に制限が無く、剣士のリーチでは最も長いリーチを持つ。
威力は高くは無いのだが、プロヴォケイションと組み合わせることで一気にヘイトを集められる。
「今だ!」
「プロテクション! コンスタントヒール!」
轟の号令といづなのスキル発動が重なる。
プロテクションは対象の防御力・魔法防御力を一定時間強化し、コンスタントヒールは最大で約二分間自動で対象キャラを回復し続ける。いづなのスキルセレクトはさすがのもので、轟の持ち前の硬さも相まって、敵は全員が轟に集中し、その上で轟の体力に大幅なダメージは見られない。
「フレイムスピア!」
次は『ドラゴンナイト』の主要スキル、フレイムスピア。
ドラゴンの火炎で生み出された槍は広範囲に渡って焼け広がり、範囲内のモンスターに多段ヒット。加えて一定確率で火傷状態を引き起こす。単複両用で、『ドラゴンナイト』の代名詞でもある。
奇怪な悲鳴をあげて、何匹かの敵MOBが火の海に沈んでいく。
「ソウルコンストラクト:『死神の鎌』!」
最後は慎太郎だ。
ソウルコンストラクトは、最大で3種のアンデッド系モンスターを選ぶことで、それらのモンスターが持つ特有のスキルを自分のものとして使用できる。今回チョイスしたのは『死神』であり、威力・範囲・ヒット数のどれを取っても秀逸で、メイン狩りスキルでもあるのだ。問題は、『死神』とソウルコンストラクトするには190レベル以上が前提条件、その後受けるクエストの難易度と面倒くささが段違いであり、まず常人では手に入らないという部分だろう。
慎太郎の背後に巨大な死神が出現、巨大な鎌を振りかぶり、思い切り振り抜く。
ブォン、という風切り音と共に敵MOBへの多段ヒットによる炸裂音が交錯する。
敵は全員が無事に沈んだ。
「ふぅ…」
轟が一息つく。
「はい、ゴウ君」
「ありがとう、いづな」
いづながハイヒールを唱える。若干摩耗した轟の体力が急速に最大値まで回復する。
まずは初戦。慎太郎の主観ではそこそこだったと思うのだが。
「ダメだね」
「ダメよ」
パーティ狩りメインのお二人はお気に召さなかったようだ。
これには慎太郎だけでなく、聖羅も同じ反応だ。
「何故だ? 今のは割とスムーズに事を運べた気がするが…」
「んー、確かに今回の場合はそうなんだけど。セイラのフレイムスピアってクールタイムあるよね?」
「そ、そうだが…」
「こういうラッシュ系の相手にクールタイムあるスキルはあんまりお勧めしないよ。特に、セイラは元々の火力が高いから、必要以上の火力は必要ないんだ。今回は単発だったから良いけど、『モンスターハウス』みたいなダンジョンなら確実に悪手だ。僕の壁としての性能と、いづなのヒーラーとしての性能が誤魔化してはくれるけど。高威力高性能のスキルで一網打尽を狙うよりも、威力は若干低いけど連射率の高いスキルで攻める方が建設的かな。特に、シンはスキルの発動から着弾までに時間を結構要するものが多い。攻撃ジョブである片方が固定砲台を務めてくれるなら、セイラは動き回って攻撃したり、細かく敵にダメージを与えてくれる方が有難いよ。勿論、逆も然りだよ、シン」
「動き回るとヒーラーのタゲ取りが大変とか思ってるなら、アタシを見くびりすぎよ。個別で届かないと分かれば全体に掛かるエリアヒールとかパーティヒールを掛けるわ。回復・支援って一口に言っても使い分けが出来るぐらいには選択肢があるんだから、遠慮はいらない。慎太郎もよ。アンタ特に『トランス』すると前線に張ってくでしょ、変な遠慮はしなくていいから。こう見えても、あの滅茶苦茶な連中のヒーラーとしてやってきたんだから、もう少し無茶してくれたって全然平気ね。コンスタントヒールを始めとする、一定時間効力を発揮し続けるスキルもあるから、幾らでも対応可能よ。どうしても戻ってほしい時は言うから、それまでは大暴れしなさい。あ、でもゴウ君は暴れないでね。アタシ紙防御だから」
「そりゃあ勿論。パーティを守るのがパラディンの役目だ」
二人の話を聞くと、確かに、と頷かされる。
聖羅も慎太郎も、最初にチョイスしたのは一撃で相手を殺せるスキルだ。無論、それを選ぶこと自体は別に悪くない。問題は相手は道中の雑魚であり、最初から万全を尽くす必要は無かったという事だ。普段のソロ狩りじゃない、轟が必ず一度惹き付ける上に、ダメージを追っても即死ダメージで無ければいづなのヒールがある。寧ろ、小回りの利くスキルで攻めるべきだ。敵はダメージの絶対量に関わらず、攻撃した相手にタゲが向く。轟からタゲを奪い、また轟が奪う。この攻撃を淀み無く続ければ、ほぼノーダメージで敵を一掃することも可能だ。普段の癖で一撃必殺に近いスキルを使ってしまった。
クールタイムや着弾までの時間が長いスキルは御法度、というわけだ。
ボス戦でも強ちそれは通用するものなのだろう。
慎太郎にとって取捨選択出来るほど、対ボス戦スキルは無いが、聖羅には多々ある。元々PvP向き、ノックバックもスタンも折り込み済みの舞台においては滅法強い『ネクロマンサー』だが、それ故に狩りスキルは必然的に削られる。しかし、『ドラゴンナイト』は単複共に優秀な性能を誇るスキルの宝庫だ。状態異常系スキルが品薄なのが弱みだが、狩りという面では特別不自由しないどころか、寧ろ有利に働く。
「そうか…。なら、私はノーブルスピアやスピアスラストなんかを選ぶべきだったのだな」
「そうだね。ノーブルスピアは着弾の速さが全職トップクラスだ。スピアスラストは4段ヒットスキルでクールタイム無し、連射可能なチートじみたスキルだからね。小回りの利く多段スキルと、一撃で敵を沈める広範囲スキルを上手く使いこなすのがコツだよ。他にも色々切れる手札も多いでしょ?」
「慎太郎もよ。アンタのソウルコンストラクトは確か…『死神』『ノーライフキング』『スペクター』でしょ? なら真っ先にスペクターを選びなさい。スペクターのスキルはクールタイムの無いものが多数だし、単複共に強力なスキルが沢山でしょ。個体最大15段ヒットとかいう頭おかしい技だってあるんだから、積極的にスペクターを選ぶべきよ。確かに威力は落ちるけど、あくまで此処はアタシ達と10Lv以上のアベレージがあるんだから。スキルの取捨選択をボスやダンジョンに応じて上手く駆使していく事なんて基本中の基本なんだから!」
「『スペクター』をセットしておくとしよう…。って事は、ゴーストドレインとか、ソウルエクスプロージョンも使えるな」
「そうね。吸血スキルのゴーストドレインがあれば、アタシもゴウ君とセイラに集中出来るし。ソウルエクスプロージョンは、確か最大8回まで連射出来るんだっけ? 合計で40だか50だかヒットするっていうお化けスキルだったってのは覚えてるわ。クールタイムはあるけど、威力で考えれば8回の内に決着つかない道中MOBなんて居ないから、まぁ結果オーライね」
それにしても驚きなのは、轟といづなのスキルに関係する記憶力である。
慎太郎もほぼ全職のスキルの特性を抑えている(PvPにおいてはスキルの特性を知っているか否かで勝率がグンと変わるのだ)わけだが、いづなは兎も角として、あの大して頭脳派ではない轟でさえ覚えているとは…。馬鹿は馬鹿でもゲーム馬鹿ということか。無類の強さの原点を見た気がした。
聖羅も轟に教えられ、スキルセッティングをし直している。
「さ、地下2階に向かうよ」
◆◆◆
「ソウルコンストラクト:『ライフシェイカー』」
その後幾度かの戦闘を経て、徐々にタイミングが慣れてきた。
轟のプロヴォケイションからのラウンドスラッシュに同調するようにスキルを発動。
すると、注意が向いた敵キャラの攻撃が当たる寸前で敵が消えていく。
その上このスキルは敵MOBを両手で持ち上げてひたすら打ち付けるスキルだ。
最大5回。この間に死なない敵は居ない。
「はははっ、シンの順応力は凄いな~。パラディンとして身体張る機会が無くなっちゃうよ」
「セイラもさすがね。敵との接触スレスレでスピアスラスト打ってダメージエフェクト無効化とか、『ドラゴンナイト』じゃないみたい。ノーブルスピアの効果範囲も分かってるし、スピアレインのタイミングも慣れてきてる。やっぱ多彩ね、スキルが」
二桁いかない程度の戦闘で、徐々にパーティでの戦闘形式に身体が慣れてきつつある。
さすがはワールド2位。そして、パーティ推奨と呼ばれる『ドラゴンナイト』だ。
「まぁ、道中の雑魚だからな。問題はボス戦だ」
「そうだね、ボスキャラはレベル差が有れば有る程、マジシャンベースのキャラには厳しい。全体範囲攻撃は各自で耐えないといけないし、シンであれば『トランス』で攻めても僕のヘイトが追い付かなきゃ良い的だ。セイラもフィジカルは大して強くないからね。まぁそれでも、僕に任せてよ。伊達にパラディン一筋でやってきてないんだ。細かい動きは大体マニュアル化されてるから、簡単だと思うよ」
「特に『リヴァイアサン』なんかはヒーラー殺しよ。アイツの攻撃って範囲広いから、パラディンの後ろでヒール飛ばしてたら普通に死んじゃった事もあるし。要は各自のプレイヤースキルに依拠する部分は少なからずあるわよね。それでも一番被ダメが大きいのはゴウ君だし、率先してパラディンにヒール飛ばすのはまぁ、定石っていうか、自然の摂理だから、気を張っておいて、二人とも」
「ふふん、私もシンも伊達にソロプレイヤーをしていない。個人別の行動が求められるのであれば、より実力を発揮できるだろう。その上ゴウが敵からの攻撃を半分でも背負ってくれるのなら、私達もやりやすいというものだ、なぁ、シン」
「そうだな。被ダメに対して敏感になって時間掛かる事が無くなるんであれば、楽だ。特に俺のスキルは威力が高いだけに、押し切れそうな雰囲気があって事故ることも多いからな。ゴウといづながそれをフォローしてくれるなら、ソロより圧倒的に早く片が付くな。魔法攻撃効かねえ時にはセイラの槍が文字通り刺さるわけだし。物理と魔法の二枚看板なら相手も対処しようが無いしな」
ぐだぐだと話をしながら進む。
道中湧き出るモンスターは慎太郎と聖羅が交代交代で倒していく。
何せほぼ一撃で沈むわけだから、分業もへったくれもあったものではない。
片方だけが常に攻撃していては訓練にならない。
何度も何度も敵のラッシュに遭遇するわけだが、一撃の元に敵を葬り去っていく。
「新コンテンツと言っても、難易度の低い方だな、これは」
「いや、僕らのレベルが元々高すぎたんだよ…。これって新規さんって程じゃなくても、上級者向けコンテンツとしては上々だと思うけどな。ラッシュで一気に詰めてくるから、マジシャン系はまぁ即死。パーティ狩りならヘイト取るのと回復するのが嚙み合わないとすぐ分裂しちゃうし。まぁ、シンならサクッとソロクリアしちゃいそうな難易度だけど」
「取り敢えず、アタシやゴウ君じゃ無理な難易度よね。幾らヒールが刺さるからって、特大ダメージになるかと言えば微妙だし。ゴウ君のセイントシールドも、結局多段スキルじゃないから生き残り出ちゃうし」
「ソロプレイ向けのキャラではないからな、ゴウもいづなも」
「いや、お前もだろ、セイラ」
「む、確かにパーティ推奨キャラではあるが…」
「そもそもオンラインゲームなんだから、皆でやるべきなんだと思うけどね…」
轟が苦笑いを浮かべる。
オンラインゲームであるからと言って、別にパーティを組む必要などない。それを聖羅も慎太郎も実証してきている。ソロでも狩れるし、何なら効率だって良い、そんなシュチュエーションもある。まぁ、問題は長時間プレイ後の「俺何やってんだろ感」なのだが、慣れればこれも克服可能だ。
三階、四階、と階層を重ねて行く。
ラッシュの数は増える。一度に来る敵の量はマチマチではあるが、それでも着実に増える。だがそれすら意に介さずにバッサバッサとなぎ倒す。圧勝である。『ハイプリーステス』の看板スキルの一つである『ダメージブレス』によって破壊力を増した慎太郎の一撃がカンスト値に乗り、一同がざわめく。
「初めてバフもらったけど、こりゃ凄いな」
「ふふん、どうよ、これが『ハイプリーステス』よ。誰もが欲しがる最強サポート職なんだから!」
「実に見事だな! いづな、次は私にも掛けてくれ」
「良いわよ。これでセイラもカンストダメージ叩き出しちゃいなさい!」
「んー、趣旨が変わって来てるねー」
轟が苦笑い。常時コーヒーが口の中にあるのかってぐらいの苦笑いの頻度だ。
まぁ、幾ら慎太郎らのパーティが粒揃いで場慣れしているとはいえ、前線の盾役としては油断しっぱなしとはいかないのだろう。場に流されることなく冷静に、客観的に物事を判断できる轟は、慎太郎とは別種のリーダーシップがある。正統な、と枕詞につく方向性の。
歩みは止まらず、ひたすらに進む。
そうして一時間も経過しないうちに、最深奥に到着。
ご丁寧に豪奢で禍々しい、巨大な両開きの扉がお出迎えしてくれる。
「さ、いよいよ締めだよ」
「よし、気張っていくぞ」
いづなと轟からバフをもらい、雀の涙ほどしかないバフを聖羅と慎太郎もお裾分けする。
初っ端からフルスロットルである。
「行くぞ!」
号令と同時に、轟がシールドで扉を強く弾く。
勢い良く開いた扉の先には。
全長50mはありそうな巨大なゴーレムが存在した。
「「「「え…」」」」
何か違う。
ギルド掲示板によれば、この半分のサイズのゴーレムが鎮座しているという情報だった。そして体表の色も違う。掲示板に挙がっていたスクリーンショットは、如何にも岩といった配色のゴーレムが。しかし、目の前のゴーレムは血の色にも似たワインレッドに染め上げられている。何かがおかしい。
敵の情報を見る。
『憤怒の魔窟王レズヴェル』
掲示板に記載されていたのは、『魔窟王レズヴェル』である。
所謂亜種。時折発生する希少個体と言うヤツだ。それ自体の概念は、元から存在する。
しかし、問題は敵の名前でも体表でもサイズでもない。
Lv225
現段階で、誰も到達していないレベル帯に、ヤツが居たことである。




