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System Error   作者: 葛葉
2/8

Story1 経過

 ゲーム空間に閉じ込められてから、一週間が経過した。


現状、プレイヤーがセーフティエリアで座り込んでいる姿をよく目にする。

目に生気は無く、生きているのか死んでいるのか、いまいち判断に困る様相だ。


一週間。


 プレイヤー全体が過ごした一週間は、現実で言う十数年レベルに匹敵した。慣れない環境や空間に適応するには、まだまだ時間が欲しいところだろう。現に慎太郎も、この一週間は宿を転々としながら、一人路地裏の小洒落たカフェで黙考を続けるばかりであった。


「早いのか遅いのか、一週間が経ったわけだけど」


今後の指標というか、構想が定まらない。

店内には慎太郎でさえよく知るクラシック音楽が流れている。

変な部分はシンクロしているものだな、と湯気が立ち上るコーヒーを啜る。


苦い。


「ふぅ…」


一週間。

それはプレイヤーの精神を摩耗させるのに十分な時間だ。


 現に多くのプレイヤーは廃人のようになってしまっているし、情報収集含む新コンテンツをプレイしているコアなゲーマーやギルドを除けば、大半が街中で日々を過ごしている。


 サーバー間の統合によって、多分一つのサーバー内に閉じ込められたのだろう。見知らぬプレイヤーやギルド名を目にする。見知らぬ人間がいきなり介在してくるのは、人見知りであろうと無かろうと、随分とメンタルに響く。馴染み深いゲームであればこそ、だ。


「大陸間のコネクションは途絶えてないようだし、主要ギルドは動いている。コンテンツクリアによっての脱出の可否を探っているらしいが…。それでもまだ、微かな希望でしかないな」


慎太郎が現在在中している街は、オセリア大陸中心部のテルドノア王国城下町である。


 『SSO』には五つの大陸━━オセリア、シルク、レイデル、ネルフレッド、クロアが存在し、各大陸ごとに沢山の街と国が存在する。ワールド全体の範囲としては地球の原寸大とほぼ同格の広さを誇り、オセリアは中でも人気が高い。高レベル帯から低レベル帯まで、多くのプレイヤーがこの大陸の上で生活をしているのである。


中でもテルドノアは有名な国だ。


 高レベル帯のプレイヤーが多く在中するエリアである。理由としては、付近の狩場やダンジョンが高レベル帯向けである事と、物販の豊富な種類が挙げられる。他にも転職ポータルやサブジョブ関連のクエストマップとも連動していて、アクセスに困らないという点も評価が高い。


プレイヤーレベルのアベレージは170といったところだ。

レベル上限解放で最大値が300となったが、以前は200だったので、高アベレージと言えるだろう。


「まぁ、だから今回の場合はアクセスに困らん、という点では集まるのに適していたわけだがな」


ポーン、と軽い通知音が鳴り、メッセージが届く。

それとほぼ同時に店のドアが開いて、カランコロン、と小気味よい音が店内に響く。


そこには。


「やぁー、シン。久々だね、元気にしてたかい?」


ごついショルダーメイルにでかい盾、にこやかに笑う爽やかな好青年が一人。


「ちょっと慎太郎! アンタ一週間何してたのよ! 真っ先にアタシに連絡寄越しなさいよ!」


白を基調としたローブ姿にロッドを携えながら、ぷんすかと怒って顔を背ける少女が一人。


「生きているとは安心したよ。私も中々しがらみがあって、シンにまでは連絡がな…。何はともあれ、こうして集まれてよかった」


先の青年ほどではないにせよ、相応の重量があるメイルを備え、小脇に長槍を抱えた女性が一人。


組み合わせのミスマッチ感が拭えない。

それでも慎太郎は気にしない。どころか少し安堵の表情を浮かべて。


「よく来てくれた。取り敢えず座れ」


そう言って席に着かせる。


ただ一人、店の店主だけが若干慌てた様子でコーヒーを運んでいた。





◆◆◆





 「全員無事だったか」


四名が席に着き、店主がコーヒーを運ぶ。

一口それを啜って一息。全員の浮ついた表情が引き締まる。

そうして、慎太郎がそう切り出した。


「まぁね。僕も色々と面倒事に駆り出されて、生きた心地はしなかったけど」


そう言うのは『パラディン』である、東城寺轟とうじょうじごうだ。


 超大規模ギルド『百花繚乱』の幹部を務める男。前衛で敵からのヘイトを集めて、自陣の味方キャラをサポートする聖騎士の役割を担う。気さくな好青年で、ソロで活動する慎太郎とはプライベートで狩りに行くことも多々あった。割と自由奔放で重責な立場にも関わらず、個人的な理由で仲の良い連中と遊びに行ったりすることも。その9割が慎太郎なわけだが。


しかし、それだけ勝手をしておいても除籍されないのは、如実に彼の技能の高さを表している。


 前衛、それも「盾」と呼ばれる『パラディン』は、それ自体に強力な攻撃スキルは存在しない。しかしながら、敵からのタゲ集め・ヘイト集めを基本に、味方のデバフ解除や小回りの利くショートヒール等を使いこなし、パーティ全体の生存率を高める重要な役割である。無論、細かい対応と臨機応変なアドリブが求められる職業でもあり、『パラディン』として名を馳せるという事は、難易度の高さを示す。引く手数多な現状で、今でも『百花繚乱』に居座っているのは良い勧誘避けになるから、でもあるらしい。


レベルは198で、拡張される前ならほぼカンスト状態というスペックの高さも誇る。


「『百花繚乱』は規模がデカいからな。それも末席みたいなポジじゃないから、大変だったろうな」


慎太郎は一人頷く。

すると。


「アタシのギルドだって大変だったんだから! 何よ、ゴウ君だけそうやって!」


ふん、と顔を背けてお怒りになっているのは、慎太郎の幼馴染である、支倉はせくらいづなだ。


 『ハイプリーステス』として、こちらもまた有名ギルドである『Crazy Party』に所属する。元々は慎太郎の勧めでゲームをプレイするライト層だったが、『SSO』の魅力にハマってヘビープレイヤーに。とは言え、慎太郎と違って高校にもしっかり通い、教師や周囲の友人からも高い評価を受けている。


因みにだが、いづなと慎太郎は同じ学校に在籍している。


 慎太郎は毎年ギリギリの成績で留年を回避しているのだが、そんな慎太郎の世話を焼くいづなは、学年の生徒や教師から「女神」と呼ばれているそうだ。


そんないづなの職業は『ハイプリーステス』である。


 『ハイプリーステス』は神官系ジョブの最高位であり、支援系のキャラクターだ。回復スキルを使用するジョブには『ビショップ』や『アークプリースト』等も居るのだが、回復スキル及びパーティ支援スキルをメインにしたサポート特化というスタイルを確立している。『パラディン』同様に相応のプレイヤースキルを求められ、パーティメンバーの生存率を左右する上で最もなウェイトを占める。ギルドによっては『ハイプリーステス』を二人連れる事も多いくらいミスが目立つ職業だ。


であるにも関わらず、いづなはギルド唯一の『ハイプリーステス』である。

そもそも『ハイプリーステス』という職業の品薄状態がベースにはあるが、それでも異例の事態だ。

何せ相手は有名ギルド。回復特化・支援特化など居て当然なのである。


「ギルマスは寧ろ精力的に取り組んでるし、温度差も激しかったから、ギルド内部で軋轢やら対立やら、ほんとに大変だったんだからね」


「相変わらず上手く立ち回ってるんだろ? なら別に良いだろう」


「良くない! 少しは褒めなさいよ! ゴウ君は褒めたくせに!」


「あーはいはい。凄いよ、いづなは。凄い凄い」


「ムカつくッ!!」


がばっと飛び上がって襲い掛かりそうになるのを慎太郎と轟で鎮める。

今ここでじゃれ合いに戦闘行為を起こして罰則を喰らってもらっては困るのだ。


「ははっ、相変わらずだな、いづなは。とは言え、ギルド絡みの内情も中々複雑そうだな。同好の士の集まりだと思っていたが、各々でプレイに対する姿勢は違うのか…。私達のような逸れ者にはいまいち、良く分からない感覚だが」


だろう? と、くりっとした大きな瞳で慎太郎に目配せする。

彼女は苗代聖羅なえしろせいら、『ドラゴンナイト』のソロプレイヤーだ。


 ギルドには所属しないスタイルを一貫し、同じ境遇にあるプレイヤーとパスを繋ぐことで無類の交友関係を築いている。今は一つとなったようだが、かつて五つあったサーバーで、聖羅の名前を知らないプレイヤーは居ないとさえ囁かれた超有名人だ。


ただ、聖羅がこうして名を馳せるには色々と理由がある。

物腰や態度、容姿、気遣いといった面も大幅にウェイトを占めるのだが。


一番は彼女のジョブ、『ドラゴンナイト』である。


 『ドラゴンナイト』は自身は槍を用い、ドラゴンを召喚して戦うジョブである。色々なスキルを駆使し、ドラゴンを用いて戦闘する中でも、ドラゴンと融合したり、騎乗したり、自分をドラゴンに変身させる事も可能なテクニカルなジョブである。ベースは『ランサー』で、元々そこまで打たれ強いキャラクターではなく、寧ろ攻撃特化型のキャラクターであり、パーティ運用が基本となる。だが、聖羅もまた卓越したプレイヤースキルで以て、パーティ狩り推奨ボスをソロで倒すなど、偉業を残している。


それが彼女の認知度を高める一助になっているのは言うまでもない。


「逸れ者とは言ってくれるな。俺は別に逸れてなんかいない」


「グレてるんでしょ」


「おい」


そこまで捻くれてねぇよ。慎太郎は心中で毒づく。

そんなやり取りを通して、轟が話の先を切り出した。


「で、シンが僕らを呼ぶって事は、何か妙案でも思いついたんでしょ?」


「ま、慎太郎なら有り得るわよね」


「シンが満を持して私達を呼んだのだから、当然だろう?」


「さすが、僕らのブレインたる『ネクロマンサー』様だね」


轟の話にいづなが乗っかり、鷹揚に頷いて聖羅がそれを肯定する。

最後には慎太郎への皮肉な当てつけ(?)も忘れない轟。


今更ではあるが、慎太郎のジョブは『ネクロマンサー』である。


 『ネクロマンサー』は現状で最も使用率の少ないジョブだ。解放クエストの難易度とキャラ操作の難易度がとてつもなく高いのである。ベースは『マジシャン』なのだが、召喚、攻撃・防御魔法、バフ・デバフ、他にも召喚したモンスターに憑依して操作する、などと『ドラゴンナイト』も真っ青なテクニカルジョブだ。その上、『マジシャン』がベースにある為打たれ弱く、緻密なプレイングを必要とする。


だが、それを十二分に発揮できれば最強と名高いジョブでもあるのだ。


 過去にサーバー別『World Duel Championship』━━━通称『WDC』において優勝し、サーバー統合で行われた『WDC』ではワールド二位、つまり準優勝を果たした実績を持つ。それ以来過疎気味だった『ネクロマンサー』への注目度が高まり、今でもプレイを続けるコアなゲーマーも多々居るとか。


轟が言う通り、慎太郎はブレインとしての、司令塔としての役割を担う事が多い。

それは単純にプレイスタイル云々に限らず、慎太郎本人のスペックに依存している部分が強い。


IQ182。それが慎太郎が誇る驚異のスペックである。


 学校をほぼ毎日休んでいるような人間が進級出来ているのには理由があるのだ。そもそも高校選びの段階で、いづなに強制されて同レベルの高校を受けさせられた慎太郎だが、いづなは優等生なので有名な進学校に進学する。慎太郎は特別行く気は無くとも、いづなの強引さに押し切られて進路を確定。周りの連中が毎日十何時間と勉強している最中、慎太郎は一週間、それも毎日一時間かそこら程度の学習量で受かってしまったのだ。驚異的な記憶力、計算力、洞察力、規格外、という言葉がぴったりなトンデモ人間なのである。


「いや、真面目な話どうすれば良いっていう具体的な案は浮かんでないんだ。今回は紛れもなく超レアケースなわけで、そもそも新コンテンツについて未知の情報が多すぎる。各ギルドに干渉してってのも考えたが俺の能力じゃ不可能だ。かと言ってお前ら全員に頼りっきりで情報待ちってのも格好がつかない。だから今のところ打てる手は、これだけだ」


そう言って、一拍置くと。


「俺達四人で、ギルドを組む」


こう言った。


沈黙、或いは驚きによって声が出なかっただけかもしれない。

それでも今まで若干騒がしかった雰囲気が一瞬で静寂に包まれていくのを、慎太郎は体感する。


「シン」


聖羅が細めた瞳で此方を見る。


言いたいことは分かるのだ。


 場合が場合、状況が状況、だからそこに自分を擦り合わせる必要が何処にあるのだろうか。聖羅は今まで一度たりともギルドに所属してこなかった。それは彼女のモットーであり、ポリシーだ。異常事態だったからと言って、その信条を蔑ろにして良いわけではない。寧ろ、こうした状況であるからこそ、自らを見失わない為に、縋るべき信条があった方が良いと言える。


轟、そしていづなでさえも、あまり表情は芳しくない。


 二人はギルドの一員である。慎太郎が行おうとしているは謂わばヘッドハンティング、実力者を友人であるという立場を利用して引っこ抜こうとしている、と見えなくもない。こういう状況であるからこそ、より一層ギルドメンバー間での友好関係・信頼関係を重視すべきであるのも、慎太郎は重々承知だ。


つまり、最初から不利な戦いなのである。


 見方によっては現状に妥協して打開しようとしていない、と糾弾も出来る。だが、それはこの状況が生み出したまやかしでしかない。未知への恐怖は誰しもが持っている。彼ら彼女らが思わしくない表情を浮かべているのには、きっと信頼出来る仲間・ギルド・信条に背く行為である、というだけでなく、少しばかりかそれ以上に、対処不可能なこの状況に対する恐怖心が依拠している部分もあるからだろう。


最悪のケース、それは慎太郎個人で脱出方法を探る事だ。

実力という点においては不可能ではない。未探査コンテンツも何度か「死ね」ばクリアできる。


ただ。


慎太郎は信じたかった、という部分が強い。


 元々コミュニケーションが下手くそで、友人も数える程度しか居ない慎太郎。彼にとって唯一に近い、親族を除いた気を許せるメンバーがこの四名だったのだ。自分の提案に乗ってくれるのではないか、という期待を込めて、希望的観測をもって、今回の勝負に挑んだ。だが、普通に考えれば、慎太郎という一個人を切り捨てた所で、この三名に実害は無いのである。如何に慎太郎が屈指の実力者であろうと、現に慎太郎の上には一人、確実に慎太郎より強い人間が居るのだ。それに、慎太郎に及ばずとも、実力派のプレイヤーは数多居る。確かにジョーカーとして起動する慎太郎ではあるが、別にジョーカーが無くても手札の切り方次第では上手くやる方法があるのだ。


「(ま、そうなるわな)」


一人納得する。

手札を切る上で、最も切りやすいのは多分自分だろう、と慎太郎も思っているからだ。


 妙に能力のある人間は排斥されがちでもある。別に彼ら彼女らが悪いわけではない。強いて言えば能力を持って生まれた慎太郎と、持たせてしまった運命が悪い。常にマイノリティーな慎太郎にとって、脱出方法を見つけるならば、まず第一にソロプレイが確率の高い方法だ。誰にも迷惑を掛けない上に、普段からそうやってプレイングしているだけあって馴染み深い。パーティプレイは苦手なのだ。


でも、確度の低い方法でも、慎太郎はこの目の前の連中と一緒に見つけたいと思った。

それは初めての感情で、慎太郎自身、どうしてこの選択をしたのか、いまいちわからない。


「悪い、忘れて━━━」


くれ。


そう言おうと思った時だった。

渋い表情をしていた轟が、ふぅ、と一つ溜息をついてこう言ったのだ。


「良いんじゃないか、ギルド」




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