嫉妬
「えーっと、輝夜姫、Kから通します。」
「「はい!」」
部員たちの返事が音楽室に響く。
ppから始まり、ウィンドチャイムでクレッシェンドがかかる。
凛奈が深く息を吸い、ソロが始まる。
カンカンッ!
小林が指揮棒で譜面台を叩いた。
ソロが始まってたったの2小節で音楽が止まった。
「香坂。そこのソロやってみろ。」
「は、はい!」
凛奈は、大きくブレスした。
〈♪〜♪〜〉
「ストップ!」
『え?』
また止められた。
「お前、満月見たことあるよな?」
「は、はい。」
「お前は、月の輝きを表現できていない。もう一回やってみろ。」
「はい!」
〈♪〜♪〜…〉
「違う!」
突然、小林が怒鳴り、みんなビクッとなった。
「お前、いま月をイメージして吹いていたか?」
「い、イメージしました。」
「じゃあ聞くけど、お前はいまの自分の演奏に自信あったか?」
「え、」
凛奈は少し戸惑った。
「どうなんだ?」
小林が問い詰める。
「まだ、完璧ではないと思います……。」
「いつになったら完璧になるんだ?」
「……。」
「次までにできていなかったらそこ星野に吹いてもらうから。」
「…はい……。」
と、小林が時計を見た。12時半だ。
「じゃ、昼休みにします。」
部員たちは慌てて立ち上がった。
「ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!!」」
『今日の午後からはずっとパート練です。」
「「はい!」」
『なんで? 桜先輩にテストしてもらったし、いつも通りに吹いてたはず……。なにがおかしかったの?』
「はぁ……」
凛奈は、昼食の時もずっとモヤモヤしていた。
「…な、んな、凛奈、」
気付いたら、マリアがずっと呼んでいた。
「あ、ごっめん! 聞いてなかった!」
「大丈夫? 最近、無理しすぎな気がする……」
「大丈夫だよ! 私、食べ終わったから練習いってくるね!」
と、凛奈は去って行った。
「マリア、凛奈のこと心配……」
「うん……そうだよね。さっきの事ずっと引きずってるみたい」
マイも心配そうな目でみた。
「私、凛奈のとこ行ってくるよ!」
と、加奈子が立ち上がった。
「よろしくー!」
〈♪〜♪〜〉
凛奈は、いつもの屋上で練習していた。
「はぁ……」
『なにが違うのかな。いつも通り吹いてたし、いつも先生に注意されなかった。なんでさっき先生に注意されたんだろう。なんで、なんで……』
凛奈は、考え込んでいると胸が苦しくなった。
ストンとしゃがみこみ、顔を伏せた。
「凛奈、どうしたの」
加奈子が、凛奈の背中をポンっと叩いた。
「カナ、」
と、加奈子もしゃがみこんだ。
「私、わからないよ。どうしたらいいんだろう」
「そんなの、みんな思うことだよ。ネガティブに受け止めすぎ」
加奈子は空を見た。
「先生も次にできていなかったら桜先輩と交代しろって……。なにが違うのかもわからない……。私、私ソロ吹けないよ……!」
いままでの思いがこみ上げてきた。
初めて泣きそうになった。
「……。 凛奈さぁ、少しワガママだよ」
「……ぇ……?」
「1年生なのに、コンクールに出ることができて、しかもソロを貰ってる。ちょっとぜいたくすぎない?
経験者だから、経験者だからって……。こんなこと当たり前じゃないの。わかる?凛奈は経験者だからわからないよね。初心者の気持ち。私だってコンクール出たいし、ソロだって吹きたい。凛奈は実力でコンクールに出れるんじゃないし、ソロを取ったんじゃない。経験者だからなれたんだよ。そんな弱気でさ、少しは初心者の事も考えたら?!」
加奈子はそう言ってスタスタと去って行った。
「なに、ずっと経験者のことそんな風に思ってたんだ」
と、隣の校舎の屋上に立っていたのは、愛菜だった。
その頃、職員室。
「小林先生。」
「あぁ、池田先生。」
「あの、凛奈ちゃんなんですけど……。」
池田は、いつも合奏を横から見ている。
小林は、コーヒーのはいったカップを机に置く。
「池田先生も気付いていましたか。」
「はい。最初、あの子が入部して、トランペットの音を聴いた時、びっくりしました。やっぱり、あの子は……、」
「もっと音楽に入り込むことができる。」




