暗い朝
壮太は、全体練習が始まると同時に静かに学校を出た。朝の練習開始のミーティング、凛奈は茉莉花たちと一緒に指揮台から部員全体を眺めていた。出欠点呼で壮太が欠席であることが伝えられた時、ちらりとユーフォニアムの方を見ると、真緒は相変わらずの仏頂面だが、不満げに眉間に皺を寄せている。
「それじゃあ、今日から1年生のサポートメンバーも加わって基礎合奏をします。先生がいらっしゃるまで音出ししていてください」
「「はい」」
部員たちの返事と共に幹部たちは自分の席へと戻る。
「真緒、おはよう」
いつもは逆方向から席に戻るが、サックスの列を横断して、チューバとユーフォニアムの席の間を通る。少し真緒と挨拶を交わしたかった。それだけだ。
「……おはよう、ございます」
「もう元気?」
「はい、あの時は、ありがとう、ございました」
全然、と首を横に振ると、ぺこりとお辞儀をして真緒は楽器を吹き始めた。───今までで1番掴みどころがない後輩だ。本人は吹き始めたのにその場に留まるのは気まずくて、そそくさと自分も席についた。
「おはよ。昨日大丈夫だった?」
基礎合奏は自由曲の席順で座るため、凛奈はトランペットの中でも1番中央寄りに座ることになる。左側を見れば、蒼が楽器をおろしてこちらを見ていた。
「おはよう。心配かけてごめんね、もともと軽症だったし、もう大丈夫」
「そっか」
そう言って目を伏せた彼は、いつもとどこか違っていた。なんだかよそよそしくて、そっか、の一言で済ます彼に違和感を覚えた。
「……なんだか元気ない?蒼くんもしんどくない?」
「そう? 普通だけど」
目を合わせず、前を見ながらそう答える。なんだかじわりと凛奈の胸に鈍い衝撃が走る。花火大会の帰り道で浮かない表情をしていた。疲れているだけで、一晩しっかり休めばまたいつもの優しく明るい蒼と話せると思っていたが、結局変わりない。むしろ、なんだか花火大会の日よりも覇気がない気がする。
「……そっか、……」
凛奈は前を向いて、スタンドにさした楽器を手に取った。なんだか素っ気ない彼に不安が募った。
『私、花火大会の日、蒼くんに何かしたかな……』
そんな思いが凛奈の頭にこびりついて、結局その後の基礎合奏には集中出来なかった。




