ネットのチカラ
SNSでエゴサーチをしない、という規定を聞いてすぐに破った。そんなことをするのは初めてだったが、正直そんな規定をしたところで破って自分のようにエゴサーチや検索をしている部員はいるだろう。そんな気持ちで《北原 吹奏楽 子役》と検索をかけた。
「───あっ、た……」
悪いことをしているのはわかっている。わかってはいるが、検索をかけて関係のない投稿ばかりで、下へ下へとスライドすると、デマだと思ってスルーしたあの投稿が出てきた。
《吹奏楽コンクールみてきた。元子役が北原中学校にいた》
いいねもリプライもなにもなく、ひっそりとしたその投稿。そしてまた暫く下にスライドすると、別のアカウントの別の投稿が出てきた。
《北原の吹奏楽部にホシコイの実写ドラマでユウキくん役してた子いてる!!!!》
ホシコイ、とは5、6年ほど前に流行った恋愛漫画の愛称。ユウキくんは、確かヒロインの義理の弟だったはずだ。自分がまだ小学校低学年だった頃のドラマで、当時見てはいたが漫画やアニメに比べて実写ドラマはあまり流行らず、話題もそこそこだった印象がある。
Twitterを閉じて、今度は検索エンジンを開く。
《ホシコイ 実写 キャスト》
検索してすぐに出てきたのは、"星の降る日に恋をした"と書かれたホームページだった。キャスト、を検索すると、そこには名前のみが書かれていた。
《森本 優希役:野咲 壮真》
そこにあったのは、"成宮壮太"の文字ではなかった。それでもなんとなく勘づいてしまった凛奈は、もう1度検索エンジンを開き直して、"野咲壮真"の文字をいれる。ドキドキと心臓が鳴る中検索をする。
ネットは恐ろしいと初めて感じた。野咲壮真と検索するだけで、求めていたもの以上のものが掘り出されていく。
当時使われていたであろう宣材写真。幼い少年の笑顔には、少しだけ壮太に面影がある。
《子役 野咲壮真についてまとめ 家族構成は? 家は芸能一家!?》
《スターフラワー芸能事務所には大人気俳優の子供が所属していた!?》
《芸能界を引退した子役まとめ 元子役の現在は…!?》
たった5分で、だいたいの情報を手に入れてしまった。どれも少し昔の投稿だ。見たところで1番新しいサイトでも1年も前のもの。そして検索をかけることを繰り返し、ひっかかる点にそのサイトを開く。
「母は野咲耀子、父は鳴宮壮亮……!?」
ほぼ確定であるが、この"野咲壮真"が壮太だとすれば。壮太───成宮姉弟は、女優の野咲耀子と、俳優の鳴宮壮亮の子供という事になる。
少しずつ人差し指の動かすスピードが落ちていく。
そして、あるサイトにたどり着いた。
《実は双子!? 人気子役 鳴宮真子と野咲壮真は
双子の兄弟 兄は元キッズモデルの鳴宮陽稀? 苗字が違うのはなぜ?…》
「鳴宮……真子」
その文字を見た瞬間、検索していた全てのタブを急いで閉じて電源を落とした。
まさか、と冷や汗が止まらなくなる。子役の"野咲壮真"に関してはあまり認識がなかった。しかし、"鳴宮真子"の名前は、認識があるどころか、壮太には失礼だが知名度が少し高いはずだ。
きっと彼女のことを深く知ってはいけないのだ。そんなはずなのに、自分は自爆するかのように真緒の"関わってはいけない"が詰まった箱を開けてしまうのだ。
そこで、凛奈の理性が完全に思考を停止させる。壮太をはじめ、茉莉花にも、真緒にも酷いことをしてしまった。
脱衣所の扉を閉めてからの狂ったかのような数分間に、凛奈は後悔を募らせた。




