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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
さあ、県大会へ
376/423

お説教

「何考えている」

「えっ……と」

休憩時間。凛奈は頭を冷やせと言われながらついてこいとも言われた。音楽室を出た瞬間に振り向いた小林の表情は、怒ったような、呆れたような。そんな表情だった。

「すいません、でした。ちゃんと集中します」

「考えてる内容頭で勝手に隠して集中できるか。頭を冷やせとはそういうことだ。それで自己解決したつもりか? 俺は謝れなんて言っていない。何を考えてたのか聞いている」

「それは……」

先程の思考回路が蘇ってきてまた目頭が熱くなる。

「……余計なこと考えちゃいました。部長たち3人がいなくて、みんな不安定になって。私1人でどうにもできなくて、その、……。怖いなって言うか、無力な自分に腹が立って」

どんどん涙が溢れてきて、抑えるものもなく手で拭うしかなかった。

「すみませ、泣くつもりなんて、なかったです、」

しゃくりあげるしかできなくなる。

音楽室をでないとトイレや冷水機はないので、部員たちはそれを横目に気まずそうに通り過ぎていく。

「私が、もっと、ちゃんとできれば、こんなに怖くなることなかったのに、」

「はー。お前も、似てんだな」

ため息をついて、呆れて笑ったように見えた。

「え?」

「お前は今、何年生だ」

「に、2年生ですけど」

「役職は?」

「2年生リーダーです」

「部長は?」

「……茉莉花先輩」

「パートリーダーは?」

「杏先輩」

「もう一度聞くけど、お前は?」

「2年生リーダー、です」

だろ? と共感を求められたがなんの事か分からない。

「お前が、1人で全部抱え込んでいるんじゃない。それに、泉たちがいなくなったら、なんて考えるにはまだ早い。新体制になっても副部長がつくんだから、お前が1人になることはないだろ? 何考え込んでるのかと思えば」

そう言って、ふふ、と控えめに笑った。

「お前は先のことを考えすぎだ」

「……はい」

茉莉花に1人になるのは駄目だと言ったくせに、1人になる恐怖を感じているのと同時に、自分が1人になろうとしていたのだ。凛奈は認めることしか出来なかった。

「まだ終わらないからな。安心しろ」

そう言って、小林は楽器庫に入っていった。

しばらく立ち尽くすしか出来なかったが、いきなりバフッという音がして、誰かに顔面にタオルを押し付けられているのがわかった。

「あーあ、俺も同じこと言おうとしてたのに」

「あ、蒼くん」

「説教に来ました」

と言いながらも、押し当てられたタオルから顔を出し、振り向くと蒼は笑っていた。

「はい、脱水になるから飲んで」

「ありがとう」

擦った跡ののこる赤い顔で、ボトルを受け取った。

「集中しろよ、周りをしっかり見ろ。お前だけじゃないし、変なこと考えなくていい。まだ3年生(おれたち)は、ここにいるから」

そう言われてしまえば、また涙が溢れてくる。

「あーもう、だから泣くなって、ほら」

と、タオルで涙を拭われ、頭を撫でられる。

どうやら時間は迫ってきたようで、周りには誰1人いなかった。

「スッキリしたか?」

と言われるが、

「ぜんぜん」

と言って、蒼だけ先に戻るように促す。ぽん、と頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でると先に戻っていった。その後、もう一度頭に手を置かれ、顔を上げるとそれは小林で、目を合わせることなく、くしゃくしゃと蒼と同じように撫で回して音楽室に入っていった。

結局合奏には遅れて戻ってしまった。

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