事件
「おっはよー!」
バスの中、樹奈が凛奈に手を振り、凛奈も振り返す。
「凛奈、もう大丈夫なの?」
心配そうにマイが尋ねる。
「うん。もう大丈夫だよ。でもさー、しばらく薬飲まなきゃいけないんだー。」
昨日、母がすぐに帰って来て、そのまま病院へむかった。医者に
「疲労ですね。しかも重症の。」
とあっさり言われた。
「今も薬がなかったら気持ち悪いの。」
と、凛奈がぺろっと舌を出し、パンパンになった薬袋を見せる。
「まぁ、でも部活これて良かったねー!」
と、樹奈が喜ぶ。
学校に着き、周りをみると、他の1年生の姿はなかった。1年生全員、部活の始まる1時間前に来て練習を始めるのが伝統らしい。
「あれ、今日1年生だけのミーティングとかあったっけ?音も全然聞こえないし……」
凛奈たち3人は、心配になり、急いで合奏室へ走った。
「「「おはようございます!」」」
と、挨拶すると、
「あ、凛奈……」
なんとマイ、樹奈、そして凛奈以外の1年生17人全員が汚れていた。
「みんな、どうしたの?」
マイが驚きながら聞く。
「じつは、ね……」
と、日向が凛奈の楽器ケースを見せた。
なんと、絵の具で汚れ、油性ペンで「死ね!」とうっすら書かれていた。
「え、何、これ……」
樹奈が驚き、その隣で凛奈は啞然としている。
「朝ね、私たちが学校に来た時に見つけたの」
と、百華が言う。
「そんで、ケースの他にも、ポーチとか、オイルとか、あとカバンとチューナーも汚れてた」
と、愛菜が冷静に話す。
「だいぶ綺麗になったんだけど、
やっぱりまだ絵の具が落ちないんだ。
あと、ポーチについてたグリスも」
と、残念そうに藍が話し、加奈子と巫愛が汚れた物を見せる。
「ひどい、誰がこんなことを……」
「トランペットパートの棚の暗証番号が開けられてたの。だから、大きくても吹部の人しか……」
「やめて」
と、ここでやっと凛奈が声を出した。
「私は、吹部の人を疑いたくないよ」
凛奈はそう言った。
「そうだ! あの監視カメラは?」
と、楽器庫の壁に付いている監視カメラを見つけ、
麻由が指をさした。
「どうやって見るの?」
夢跳愛が聞くと、
「「うーん?」」
と、みんな首を傾げた。
「ま、とりあえずやってみよ!」
由紀がそう言い、
「そうだよ! 最低限の事ならみんなわかるし!」
真紀も話し、カメラを取った。
ブツッッッ
「あ、つなげた!」
と、昨日録画したものを再生する。
「あ、ストップ!」
夜の8時14分25秒。黒っぽいパーカーをきた者がトランペットパートの棚を開けた。
周囲を警戒など一切せず、凛奈の楽器ケースに絵の具を垂らし、そのまま去って行った。
顔を確認する事は出来なかった。




