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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
夏合宿in和歌山
360/423

花火

倒れたあとの練習は頼みに頼んでなんとか参加させてもらえたが、のぼせた後に浜辺で急激に冷えて風邪をこじらせても困る、と花火大会は参加することを断られた。

『まあ仕方がない、練習させて貰えただけでも……』

マイはとっくに回復していた、自分よりも軽い目眩ほどで済んだので花火大会に参加している。

「……暇だなぁ」

と、1人ロビーのソファに腰掛けた。

一面海が見渡せるロビーからは、花火を楽しんでいる部員達の姿は見えず、ただ光だけがガラスに映し出されていた。

「凛奈先輩?」

「ひぁあっ!?……春ちゃんか、びっくりした」

急に肩に手を置かれ、叫ばずにはいられなかった。

「花火、行かないんですか」

「うん、ちょっとさっきのぼせちゃって……」

春ちゃんは? と聞こうとしたが、すぐに思い出した。春が暗闇に恐怖心を持っていることを。

「あ、大丈夫ですよ、気を使わなくて。慣れてるので」

「え、」

「───林間学校も、修学旅行も。憂鬱でした。正直行きたくなかったです、友達にも気を使われるし。でも、中学校に入って知ってる人はほんのちょっとになって、黙ってる方が楽なんだって思いました。だから……」

「え、ちょっと待って、それ、みんなあんまり知らないってことだよね? 私に言ったのは……その、次期部長として? それとも……」

「凛奈先輩だからです」

その言葉に少しホッとした。

「それで、莉々奈ちゃん、ご両親がいないっていうのとは違って、あまり友達との会話内容に支障出ないから、莉々奈ちゃんとはまた違うかなって思って」

「春ちゃん……」

「夜に1人で外を見ると、自分があの暗闇に引きずり込まれる感じがして……。震えが止まらなくなるんです、呑み込まれて、真っ暗で、左右も分からなくなりそうなところで」

と、コンコン、とロビー正面の窓からノックが聞こえた。

同時に、春の携帯から電話がかかってくる。都だ。

《春、いないからびっくりした》

都は正面から春に電話をかけているようだ。

「うん、ちょっと……ね。また言うね、都」

《花火、しないの?》

「うん、しない」

都は少し照れくさそうだ。

《じゃあ……》

《みーーーやこぉぉぉぉッ!》

後ろから抱きついたのは、トロンボーンの彩音だった。フルートの菜奈、アルトサックスの美玲など次々に1年生たちが来た。

《誰と電話してるの?》

《春》

と、指を春に向けた。

美玲と菜奈は、やっほー、と言っているのだろう、手を振っていた。

そして都と彩音はなにやら話をしていたと思えば、電話を切り、都の携帯を美玲達に任せて走っていった。

「2人ともどこ行ったの?」

「さぁ……?」

少しすると、花火を持ってきて戻って来たようだった。池田も連れて。

火をつけて、花火をし始めたのだ。

「わぁ……!」

「春ちゃん、花火初めて?」

「小さい時に、やったことがあるみたいです。でも、あんまり見たことなかったから……すごく綺麗」

「よかったね」

「はい……!」

バンバンと、菜奈が窓を叩き、口をパクパクと動かせた。

「え、なになに? い? 」

【き】【れ】【い】【?】

口の動きで聞き取れた春は、頬を赤く染めながら、うんと大きく頷いた。

【よ】【か】【っ】【た】

と、今度は都が言った。

春も言葉を返す。

【あ】【り】【が】【と】【う】

それを聞き取ると、都はそっぽを向いた。凛奈にはわかっていた。耳を赤くして、彼女が照れていることを。

「あの子達には、伝えてもいいんじゃないかな」

「え?」

「まぁ、春ちゃん自身で考えてみて」

「……はい」

春の目には、パチパチと光る花火が映し出されていた。

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