無理と真面目
「凛奈、凛奈! 早くあがりな」
「え、先輩なんで……」
湯船の中で、バシャバシャと風香に手を引っ張られる。
「光里に言われて……。全然気付かなかったけどあんた何分入ってるの?」
と、脱衣場に放り出された。
「あ、凛奈」
そこで待っていたのは光里だった。
「何分入ってるの! もう」
「え、5分くらい……?」
凛奈の感覚のなさにため息をついた。
凛奈は投げ渡されたタオルで体を拭いて、ロッカーの鍵を開ける。
「20分は軽く経ってる。マイちゃん湯あたりでいま横になってるから、凛奈も絶対やばいって」
「え、そうなの? 私は別に、なんとも……」
着替え終えたところでまた光里の方へ行く。
「うそでしょ?」
呆れた様子の光里は、今度はペットボトルを手渡し手を引っ張る。
「───は後でか───いいから、とにか───て!」
キ───ンとクラクラするような耳鳴りが聞こえる。
「いま、なんて……」
『あ、やばいかも、しれな…い。頭が……』
ここで世界が360度回った。
ふらついた凛奈のすぐ側にベンチがあった。頭をぶつけると思って、光里がとっさに体を支える。
「ちょ、大丈夫? 凛奈!」
*
ゴクリ、ゴクリと水分が喉を通る。
「どう? すこしは気分、マシになった?」
「はい……」
あの後、記憶は朦朧としていたが担架で合宿所の救護室に運ばれた。
「まったく……風呂で20分も何してたんだ」
「ごめんなさい……」
小林も先程の光里と同じ反応をする。
「先生、花野は」
「自分の部屋で休んでます」
「そうですか」
と、小林は立ち上がった。
「無理をするのと練習真面目なのは違う。そこをまだお前は分かってないようだな」
と、呆れたまま救護室を出た。
「……小林先生も心配してるのよ。無茶は厳禁だからね」
と、後を追う様に池田もその場を離れた。
手に持っているペットボトルは、手でぐちゃりと押しつぶされた。




