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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
夏合宿in和歌山
359/423

無理と真面目

「凛奈、凛奈! 早くあがりな」

「え、先輩なんで……」

湯船の中で、バシャバシャと風香に手を引っ張られる。

「光里に言われて……。全然気付かなかったけどあんた何分入ってるの?」

と、脱衣場に放り出された。

「あ、凛奈」

そこで待っていたのは光里だった。

「何分入ってるの! もう」

「え、5分くらい……?」

凛奈の感覚のなさにため息をついた。

凛奈は投げ渡されたタオルで体を拭いて、ロッカーの鍵を開ける。

「20分は軽く経ってる。マイちゃん湯あたりでいま横になってるから、凛奈も絶対やばいって」

「え、そうなの? 私は別に、なんとも……」

着替え終えたところでまた光里の方へ行く。

「うそでしょ?」

呆れた様子の光里は、今度はペットボトルを手渡し手を引っ張る。

「───は後でか───いいから、とにか───て!」

キ───ンとクラクラするような耳鳴りが聞こえる。

「いま、なんて……」

『あ、やばいかも、しれな…い。頭が……』

ここで世界が360度回った。

ふらついた凛奈のすぐ側にベンチがあった。頭をぶつけると思って、光里がとっさに体を支える。

「ちょ、大丈夫? 凛奈!」

ゴクリ、ゴクリと水分が喉を通る。

「どう? すこしは気分、マシになった?」

「はい……」

あの後、記憶は朦朧としていたが担架で合宿所の救護室に運ばれた。

「まったく……風呂で20分も何してたんだ」

「ごめんなさい……」

小林も先程の光里と同じ反応をする。

「先生、花野は」

「自分の部屋で休んでます」

「そうですか」

と、小林は立ち上がった。

「無理をするのと練習真面目なのは違う。そこをまだお前は分かってないようだな」

と、呆れたまま救護室を出た。

「……小林先生も心配してるのよ。無茶は厳禁だからね」

と、後を追う様に池田もその場を離れた。

手に持っているペットボトルは、手でぐちゃりと押しつぶされた。

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