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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
夏合宿in和歌山
355/423

ぐるぐると回る合奏

合奏が始まっても、柚子への視線が刺さる。

いつもと同じ、だがどこか響きが違う。

自由曲の冒頭。ピッコロに低音パートと言う奇妙な組み合わせに、柚子のアルトクラリネットが加わる。

「そこ。A♭(アス)暗い。ファゴット2nd。バスクラも」

「「はい」」

「1人ずつ吹いてみろ」

と、ハーモニーディレクターでA♭の音が流される。

「はい……」

ケホ、と小さく咳をしたのは風香だった。

疲れが溜まっているのか、表情も曇っている。それを心配そうに覗く隼人。彼女の出す音色も活気がない。

「体調悪いのか? 休んでろよ」

「いえ、大丈夫です」

風香は決してそれを口に出さない。何故かあまり関わりのないはずの凛奈の胸もピリッと痛む。

『無理しない方がいいのに───』

風香は低血圧だ、無茶をしているのを見たくない。

そんな事を思っているうちに、彼女の音色はいつものような音へと戻っていた。

「次バスクラ」

「はい!」

今度は光里の番。部員や教師たちの視線が、一気に光里へと集まる。

「もっとさ、オープンに。音こもってるよ」

「はい!」

国木田の言葉に、すぐに吹きなおす。

「あーほらほら、集中して狙わないと。またこもってきた」

「はい!」

光里は折れずに、返事をする。

「……うん、さっきより良くなった。」

小林と国木田が頷き合う。

「じゃあ、5度上の音はー……アルトクラ、それからファゴット1st」

「「はい!」」

柚子と隼人、同時に音を鳴らす。だが、初めてなだけあってあまり合っていると思わない。

小林は考え込んだ。

「分けてみようか。1回目、天瀬。2回目、21小節目から隼人」

はい、と返事をすると、すいっと周り全体に手を回した。

「全員で7から」

「「はい!」」

いつもよりも緊張感があり、慎重な合図に部員達も応える。

1回目は柚子だ。バスクラリネットとファゴットの支えに乗って、静かな音色が響く。

2回目の隼人の音色は、同じ楽器だからだろうか、はっきりせず1つにまとまって聴こえている。

音を止める合図を出し、凛奈たちには聞こえない程の声で国木田と話している。

「……逆で。1回目隼人、2回目天瀬。全体はもう1回同じところから」

「「はい!」」

吹き終えると、また相談をしている。今度は聞こえるくらいの声量で。

「やっぱり違いをつけた方が面白みが出ると思いますよ」

「とりあえずそれは決定で……」

チラリと国木田に目をやる。国木田本人は今あまり迷っている様子はない。

「僕は2回目の方が迫力あっていいと思いましたよ」

と、スコアをめくった。

「この2回でどんどん近づく感じを見せといて、いきなりふっと静かになってホルンのソロが始まるってのがいいんじゃないかな」

タメ口が入り交じった会話。2人とも「先生」と呼ばれる前は、先輩後輩の関係だったはず。なのに今はお互い先生という敬意があるというか、相棒のように見える。そう凛奈の脳内で複雑化された2人の関係は、決して凛奈が正解というわけではなさそうだ。

「じゃあ、同じところから。1回目隼人、2回目天瀬。次のホルンソロ入るよ」

「「はい!」」

ゆらり、と小林の手が振れる。

いつもどおりのはずだがどこか違う。そう、柚子のアルトクラリネットが居るから。

心地よいハーモニーの上で、高音の筋が乗る。夏帆のピッコロだ。デクレッシェンドと共に、その音層はゆっくりと消えていった。

国木田も納得のように頷いている。そして彼の目は、ホルンへと向けられた。

✽北吹のちょっとしたお話✽

小林先生と国木田先生は、北原小学校出身です。

小学生時代は、小林先生がアルトホルン、国木田先生がチューバだったそうです。そして北原中学校に進学して、小林先生はそのままホルン、国木田先生はアルトサックスになりました。何故国木田先生が中学校でサックスになったかと言うと、体が小さかったのでチューバが合っていないと当時の顧問の先生に言われたそうです。

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