新たな戦力の登場
「ああー。もう合奏の時間だやだなー。まだ出来てないのにー」
合奏のある練習室に向かう途中、わざとらしくフラフラと歩く乃愛。
「クラと同じとこ出来たの?」
「それがまだなんですよー」
「あと2週間切ってるけど?」
「うあー……」
3年生2人からの心配に悩まされ、首を傾けた。
「あれ、聖菜は?」
「あ、後ろ」
彼女は凛奈たちの後ろでキョロキョロと周りを見ていた。
「あ、ごめん……。なんの音か気になって。これ」
聖菜の言ったことに、確かに、と耳を傾けた。
ファゴットの音ではないようだ。バスクラリネット……にしては音が高すぎる。
「誰が吹いてるんだろう……」
と、その音が止まった。
《ピィィィィィイイイイイッ!》
キ───ンと甲高い音がトランペットパートメンバーの耳に突き刺さる。
左耳から右耳に、1本の棒が貫通したような。
しばらく沈黙が続いた。
「げっ。時間やばいよ。行こ行こ」
あと5分も経たずと合奏が始まる。呆然としていたトランペットパートが、また動き出した。
*
「「よろしくお願いします!」」
合奏が、始まる。
「チューニングから」
「「はい」」
と、小林が伊織に目を向けた。
コクリと頷き、伊織は少し緊張した表情でチューニングB♭を鳴らした。
それを聴き、次々とB♭が鳴らされる。
前に立っているのは、小林、国木田、そして池田姉妹。左端にはサポートメンバーの1年生が座っている。
「───はい。じゃあ、午前中は課題曲中心でいく……けど、とりあえず最後には全部通します。その時サポートメンバーはタイムと録音、あとビデオもお願いします」
「「はい!」」
「あと、昨日気になったところ、まだ言ってなかったから。課題曲最後4小節間のテンポがもつれ気味───」
ギィィ……
小林の話の途中で、入口の扉がゆっくり開く音がした。
皆の視線は楽譜からそちらにずれる。
小林も一瞬入口の方を確認したが、そのまま話を続ける。
「8分音符の意識にプラスで、」
柚子だ。右手に器用にクラリネット2本を持っている。そしてらもう片方の手に、バスクラリネットよりも小さく、だがクラリネットよりは大きな楽器。
「E♭クラと……アルトクラ?」
「うっそ、2本とも柚子先輩がするの?」
ざわざわと周りがうるさくなる。
小林はそんなことお構い無しに続けた。
「タッカをタイにしてるかんじで2拍目をしてください」
ストン、と彼女が席に座った時、少しだけ異様な雰囲気となっていた。




