パート練習の様子
「ロングトーンします」
「「はい!」」
トランペットのパート練習は、浜辺近くのベンチ───真夜中に、柚子と話したあの場所で行われた。
カチ、カチと均等に振れるメトロノームは、杏の私物だ。
「1、2」
杏の合図に合わせ、3、4拍目にブレスをする。
ゆったりと深くブレスして、そして歌うように。
これがいつもトランペットパートの心がけていることだった。
低音を鳴らし終え、杏は納得がいかないようにうーん、と唸った。
「どう? 早苗」
「なんか、混ざらないっていうかさ。みんな音が硬くなって、響かなくなってるかな」
早苗の意見に頷き、後輩たちに伝える。
「ブロックみたいに硬かったら、ぶつかり合うでしょ? だから、もっと柔らかい響きでお願いします」
「「はい」」
最近はこのように、3年生2人で協力してパート練習が進むようになっていた。
「じゃあ1人ずつ加わっていこうか。乃愛から」
「はい」
乃愛がB♭を鳴らすと、隣にいた茜がじっとそれを見て、ぐっと乃愛の背中を押し、乃愛も気付いたようで姿勢が正される。
「次、茜」
はい、と余裕の笑みを浮かべ、乃愛に音を寄せる。
杏と早苗は頷き合い、次に夢花が入るように指示した。
「夢花ちゃん、音暗いよ。乃愛も、だんだん高くなる」
「「はい」」
とは言いながらも、3人の音は寄せ合い響き合っている。1年生ながらなかなかの実力だ。
そんな彼女たちの音を潰さぬよう、凛奈は慎重に、丁寧に加わった。
*
「じゃあ、休憩しよっか」
「はいはいっ! 先輩、練習室行って涼んできてもいいですか?」
と、挙手するのは乃愛だ。暑さでぐでりと頬が赤く染まっている。
「いいよ」
「私も行ってきます」
「あ、そうだ、ついでにあたしのチューナー取ってきてもらってもいい?」
「わかりました」
早苗の返事をして乃愛を見ると、迫り来る暑さで機嫌が悪いようだった。




