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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
夏合宿in和歌山
342/423

熱血指導

「ここはもっとクラリネットが熱くなきゃ! ぐわああああああああってさ! バスクラもっと支える! そんなへろへろな音だとすぐ崩れちゃうよ」

「「はい!」」

国木田の熱血指導に、部員達は汗を流す。

「じゃあAの4小節1泊前からクラだけで」

隣の指揮台で小林が指示を出す。

「1、2」

連符から始まる。ボロボロだ。このままsunflowerコンサートに挑んだのだろうか。吹き終えたクラリネットたちは険悪な空気となる。

「うーん……3年生手あげて」

3本の細い腕が宙に上がる。

「じゃあ端から順にどうぞ」

と、トップの鈴音に手を向けた。

「はい」

息を吹き込むと流れるような落ち着いた連符を奏でる。問題は特にないようだ。

「じゃあ次の人どぞ」

次に指名された柚子と和音も、軽々とこなす。

だが、何か問題があるかのように考え込む。

「まあ、いいか。問題は、後輩たちってわけか」

と、顎を触る。

「じゃあ次2年生」

「はい……」

恐る恐る菜穂が構える。

指は回っているものの、音が途中でぶつぶつと途切れてしまう。

「息の芯がないね。連符で勘違いする子って結構いるんだけど、それぞれの音に合わせてシラブル変化させてたら、結局統一感ないでしょ? だからフラフラして聴こえる。だから息はまっすぐで、音を区切ってく。あと、音が上がっていくとき、一緒に息も上がってったら細くなってくから、上がりは下向きに、トトトトトトーって。OK?」

「はい」

「じゃあ次、君」

「はい!」

「おお、いい返事だね」

ぐ、と唇に力が入る。

百華の音は硬く、力んで聴こえる。それに、指も回っていない。

「はい、ありがとう。えっとそうだね……まずは、肩に力をいれないこと。あと、指回しはゆっくり形を変えてやってみたら偏ることはなくなるから」

「はい……」

と、縮まった様子で返事する。どうやら小指が引っかかってしまうようだ。

「まだ時間あるから、大丈夫だって! じゃあ次、1年生はいるのかな?」

「います」

ピシリと手を挙げたのは高田彩未だ。その隣で上がる曲がった腕は三枝(さえぐさ)未羽(みはね)

「じゃあ君からどーぞ」

「はい」

東野出身の彩未。落ち着いた様子で手慣れた指を動かす。それをみた百華は、ゴクリと息を呑んでいた。

「はい、ありがとう。えーと、名前は?」

「高田です」

「高田さん。あと、もう1人、君……」

国木田が目を向けた矢先は柚子だ。

「天瀬です」

「えーっと天瀬さんと高田さん? は東野なのかな」

2人とも目を開き、驚いている。

「そう、ですけど……」

「うーん、まだ北原に染まってないな」

「はい?」

彩未が首を傾げる。柚子もよく分かっていないようだ。

「いや、まだ君ら2人は東野の音をしてるから、もっと合わせなきゃ」

「「はい!」」

と返事したものの、なにか違和感があるように、柚子は自身の頬をさすった。

それに気付かず、国木田は笑顔でうなずいた。

「じゃあ最後に君かな」

未羽は困り果てた表情を見せる。

「あ、あの、その子……。初心者で、まだ連符とか早いパッセージはしてないんです」

「そーか。じゃあやってみよっか」

「え、」

「できないできないって言ってたらできないから。挑戦することが次のステップに繋がるんじゃない? 練習はしてるんでしょ?」

「は、はい」

ゆっくりめのテンポを叩く。

それに合わせているつもりでもズレが生じる。

だが、指は少しずつ慣れていっていた。

「はい、ありがとう。いけるじゃん! 早いテンポからじゃなくて、歌えることも大切。だからゆっくり初めて、あとは歌えるようにしてね」

「はい」

クラリネットを1人1人、丁寧に指導していく。

その分、一回の指導で上達の幅がぐんと伸びる。

「じゃあ、いま言ったことを10分間外で練習してきて。もちろん個人でだよ。10分で、まだできないなーって感じたら残っても大丈夫だから」

追い出すのか、と一瞬どきりとした。

「3年生は残っていてね、あと、」

一瞬何か考えるように目を細めた。

「天瀬さん、あとで来てもらえる?」

「? はい……」

本人も何故だかわからないようで、ポソリと返事をした。

「じゃあ次、同じところ全員でお願いします」

「「はい!」」

国木田の指導は隙がなく、みっちりと1つずつ丁寧に指導する。

もちろん本人が出来ていないことに納得していたら、

「行ってらっしゃい」

と笑顔で言った。その笑顔が、可愛らしい覆面をつけた鬼のようだった。

基本時間は10分だが、10分ぴったりに戻ってくる者はなかなかいない。苦痛を感じないものの、彼のレッスンでどっと疲れが溜まる。

昼休み前には、1、2年生で残っている者は少なかった。

「はい、じゃあ、午前中はこれで終わりとします」

「あ、えーっと……。さっき言った、クラの2ndの子、あと自由曲のペットソロの子、茉莉花……あと、ソプラノの子とホルンソロの子はー、じゃあ昼ご飯の後に僕の部屋来てくれる? あ、もちろん5人で来てね、セクハラだとか思われるから」

国木田の冗談にドッと笑いが起きた。

呼び出されたのは柚子、凛奈、茉莉花、奈津、綾乃。柚子を除いた4人は、自由曲の中心となるパートを担っている者だった。

「「ありがとうございました!」」

「終わったあああ!」

「やっとお昼だあ」

部員たちはぞろぞろとホールを後にする。

柚子は1人、楽譜に無表情で書き込んでいた。

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