ゲスト
「うおあああ!!! ひっろおおい!」
「ちょっと乃愛! 手伝いなさい!」
ホールを走り回る乃愛と、パーカッション1年生の小笹蓮のやりとりは何故か既視感を感じる。
「海だあああ!!!」
「樹奈! はやく運びな!」
ああ、きっとこれだ。楽器を手に持ったまま、フロントから見える海を見て叫ぶ樹奈と注意する麻由。
「パーカッションはしっかりしてるなあ」
茉莉花が呟きながら、凛奈の後ろを通り過ぎていった。
「じゃあ、基礎合奏を始める前に……」
今日から3日間貸切のホールは、合宿所にあり、ホール棟と部屋に分かれていた。
パタリと、背後でドアが閉まる音がする。
「こんにちはー」
スラリとした背に、きりりとした眉。顔のパーツ全てバランスが整った、これぞイケメンであろうという男性。
「こ、こんにちは!」
立ち上がったのは茉莉花と鈴音。そして愛菜、巫愛、彩音、都……葉月市吹奏楽団のメンバーだ。
「葉月市吹奏楽団指揮者の国木田 準先生です。国木田先生はプロのサックス奏者でもあります。今日からの合宿の3日間と、あと何回か来てもらう予定です」
「どーも、国木田でーす。みんなにはジュンちゃんって言われてます。みんな好きに呼んでください。僕は小林先生の中学時代の1つ下の後輩です」
にかっと爽やかな笑顔を見せる。
「つまり、国木田先生は君たちと同じ北原中学校出身です。午後から池田志穂先生も来てくれます。今日の午後からは木管を紀穂先生と国木田先生、金管を志穂先生と俺が見ます。打楽器は、今日は金管と一緒に。明日からは、沢江先生も来てくださいます」
国木田とは真逆に、いつもの冷静な表情のまま話す。
「部長は相変わらずだなあ」
「その呼び方いつまでするつもりだ」
からからと笑う国木田に、こほんと咳払いする。
「部長?」
1、2年生は小林が中学時代部長であったことは知らない。
「ああ、言ってないんだ。小林先生は中学生の時、鬼畜部長って言われてたよ」
「俺は後輩を怖がらせた覚えはない」
そっぽを向く小林に、部員たちはくすくす笑う。
「で、今の部長は? 誰?」
「わ、私です」
手を挙げた茉莉花は顔が赤い。
「茉莉花かあ。頑張ってる?」
「は、はい!」
さらに顔を赤らめる茉莉花を部員達はにやにや見つめる。
「ほーん、なるほどねえ……」
早苗がにんまりと笑った。




