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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
2度目のコンクールに向けて
336/423

焦らず、焦る

───負けるな。

そう、自分に言い聞かせたあの日から、凛奈の心は変わった。なにも弱音を吐くことはない。なぜなら自分は1番のトランペット奏者だから。だから選ばれた。そう、自信を持っていた。綾乃のあの一言から、凛奈の気持ちは少しだけ変わった。

sunflowerコンサートまで残り1週間。終業式の1週間前であり、まだ練習時間はたっぷりある。ソロは難しい連符が続く。指回しが追いつくかどうかが決めどころになってくる。

ゆっくり丁寧に練習する。

「そこ、難しいですよね」

ひょっこり顔を出したのは夢花だった。

「うん……間に合うかな」

「大丈夫ですよ、凛奈先輩なら」

彼女の髪が、動きに合わせてさらりと落ちる。

「そうだといいんだけどなあー。あ、夢花は出来ないところとかないの?」

「夢花は大丈夫ですよ。それより……」

彼女の視線の先には、乃愛がいた。コルネットのパートで、相当苦戦しているようだ。隣には聖菜がついているが、あまり頼ろうとしていないようだ。

「負けず嫌いと言うか、人の手を借りるのがあまり好きではないみたいで」

「2ndだけクラリネットと同じパートってことが多いから、聖菜も教えにくいんじゃないかな」

聖菜と夢花の担当するコルネットの1stと3rdは、ホルンやサックスを補う部分が多く、乃愛とはまた違う動きをしている。

「乃愛、間に合うでしょうか」

聖菜の心配を拒否するように、乃愛は笑顔で大丈夫です、と手を振った。

クラリネット、つまり木管楽器の楽譜をそのまま金管楽器がすることになる。

木管楽器は見てもわかるように、キイが多い。つまり、はやいパッセージなどの指回しが大変なことがある。それに比べ金管楽器は、3、4本のピストンを息のスピードを変えて音を変える。

金管楽器の方が楽だ、という考えをする人がほとんどだが、指回しに加えて素早く息の使い方を変えなければならない。木管楽器も金管楽器も、同じくらいの難しさがある。

「難しいね」

ふ、と息が漏れた。

昨年と比べると、目標は大きいのに、随分と遅れているように感じる。コンクールの曲を決めるところからそう感じていた。

去年のこの時期、自分はソロを一通りできるようになっていた。

「なにが時間はたっぷりあるなの……」

自分の呑気さを疑い、口元を手で覆った。それを心配そうに見ていた夢花に気づき、

「私も、急がなきゃ」

と、苦笑いをした。

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