ナイトフリーマーケット
本番は、まぁ上手くいった、というところだろう。演奏はぎこちない部分があったが、観客たちは温かい拍手を惜しみなくしてくれた。
「こんな機会を与えてくださって、ありがとうございました」
代表の凛奈は、主催責任者である年配の男性に小林と挨拶に行った。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。お嬢ちゃん、しっかりしてるね。来年もまたよろしく頼むよ」
ありがとうございます、と小林が頭を下げた。
「お嬢ちゃん」と言う言葉が少し恥ずかしかったが、来年もまた、そう言ってくれたことに頬はほんのり赤くなっていた気がした。
*
「凛奈ー! 挨拶終わった? 自治会のおじさん達がさ、吹部にチケット配ってくれたよ」
マイが、チケットを手渡そうと駆け寄る。
マイと凛奈。この2人で屋台を回ろうと事前に話していた。
ギュッ。チケットを受け取ろうとした時、急に袖を掴まれた。皮膚まで巻き込んだせいで、チクリと痛さが混じった。
「……莉々奈? どうしたの?」
凛奈の腕を掴んだのは、拗ねた顔をした莉々奈だった。
「凛奈ちゃんと回りたい」
「……は?」
キョトンとする凛奈に、もう1度言う。
「私凛奈ちゃんと回りたい」
「でも私、マイと一緒だし……」
「……やだ」
と、莉々奈は小さく呟いた。
「なんで? ほら、いつもの友達は? 茜とか奈央ちゃんとか……」
「……」
ぶんぶんと首を振り、小さな子供のように、だだをこねる。
「なに怒ってるの?いい加減に……」
「凛奈」
苛ついた凛奈が怒鳴りかけると、マイはそれをなだめるように名前を呼んだ。3人の沈黙の間に最近はやりの音楽がBGMで流れる。
「私はいいよ。樹奈たちと回るから」
「……いや、いいよ」
「でもほら、莉々奈話したいことがあるんじゃない?」
マイは莉々奈には聞こえないように耳打ちした。顔を近づけられ、彼女のほんのりといい香りがする。
「……ごめんね?」
「ううん、大丈夫だよ」
にっこりと笑う。
じゃあ、とマイが去ったあと、莉々奈は再び凛奈の腕を掴んだ。




