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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
2度目のコンクールに向けて
327/423

部活を楽しむために

本番の前日。

「はぁ───……」

「なんだ」

「あっ、と……すみません」

慌てて口元を押さえる。怪訝な顔をしながら、小林が凛奈の顔をのぞいた。

職員室前は、常に誰かが通っている。

「すみません……」

再び繰り返される。ああ、さっきも同じ言葉をしたはずだ。

「莉々奈もお前も……」

はぁ、と凛奈のため息がうつったのか、小林も小さくため息をついた。

そういえば、なぜ小林がいるのだろうか。

記憶喪失はほんの少しだけで、すぐに思い出す。

池田に用があったはずなのだが、なぜか出てきたのは小林だった。

先ほど、職員室を覗き、たまたま近くにいた教師に「池田先生お願いします」と言った。放課後で、吹奏楽部。部活のことだと理解したのか、池田が不在のため小林を呼んだのだろう。

いらない親切だった。莉々奈との相談をするに、小林はなんだか口を開きにくかった。

小林にしにくい相談でも、なんでも池田が聞いてくれたから。今回のことも聞いてもらおうとしてたのだが。

「で、何の用だ」

「あ、えと……池田先生に、相談がありまして」

「池田先生風邪で帰った」

「え! そうなんですか!?」

声でかいな、そう言った顔をされて、また口元を手で押さえる。

「その相談、俺じゃ駄目なのか」

「あ、じゃあまた明日池田先生に……」

「明日はそんな時間ないと思うぞ」

「あー……」

小林の目が見づらくなって俯く。

「部活の相談なら。嫌ならいいけど」

「あ、いえ!お願いします!」

「莉々奈の相談?」

「はい……」

長くなると判断したのか、生徒相談室に連れ出された。

莉々奈の話を少しすると、小林はうーん、と悩ましげに下を向いた。

コンコン。

扉をノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

「小林先生、生徒が呼んでますよー。濱田」

扉を開けたのは、2年生の理科を担当する若手教師の福原だった。

「すみません、あの、合奏……」

と、藍がこちらを向いた。

時計を見ると、とっくに合奏が始まっているはずの時間だ。

「ああすまん。もう少し時間がかかるから。俺が来るまで藍、お前が指揮して」

「えっ、わ、私ですか」

「そうだ。頼んだぞ」

「は、はい……」

苦笑いをする藍に向かって、ごめん、と手を合わせた。

失礼しました、とドアを閉じ、走っていった。

「で、莉々奈の家の事情を、か」

「茜が知っているんです。職員室から聞こえてきたみたいで。本人はずっと黙っていたいみたいなんですけど、私は……。茜に言われたんです。3年間黙り続けるつもりかって」

「……茜に知られてしまった事は、申し訳ないと思っている」

「いえ。あの、先生。莉々奈は春コンを見て、吹部を、トロンボーンを北原でしたいって思ってきたんです。だから、3年間楽しんで欲しくて。友達を家に呼ぶくらい仲良くなって欲しくて」

「それを、その凛奈の気持ちを莉々奈は分かってる?」

首を振ると、小林はまた困った顔をした。

「先生、私は……どうしたらいいんでしょうか。従姉妹として。義姉として。莉々奈はこの先ずっと隠し続けて、ヒヤヒヤして。部活を楽しめるんでしょうか」

途方に暮れた顔をする。

「……もう少し様子を見よう。今の1年生はまとまりがないから」

「わかりました。また、相談してもいいでしょうか」

「もちろん」

と、小林は机の上に置いてあった鍵を手に取った。扉を閉じ、ふと小林を見た。

蒼先輩。

一瞬、そう言いそうになった。

顔はあまり似ていないのに、どこか2人は似ている。そう思いながら小林と音楽室に向かった。


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