3年間黙り続ける
「凛奈ちゃん。どーしたの」
部屋に入ると、莉々奈が宿題をしていた。
「ちょっとね。話があって」
凛奈の真剣な表情にきょとんとしている。
「あのさ……すごく、言いにくいんだけど。莉々奈と私の事、一緒に住んでいる事。みんなにいつ言うつもりなの?」
その瞬間、やんわりとしていた彼女の顔が凍る。
「いつ、って……言う前提なの?」
「だって……3年間黙り続けるなんて、難しいよ」
今日の茜の言葉をそのまま借りる。
「莉々奈が、友達に家に遊びに行っていいかなんて聞かれたら」
「断るよ」
「私が友達連れてきたら?」
「遊びに来てるだけって言えばいいじゃん」
「それでも!」
凛奈は立ち上がる。莉々奈は、淡々としている。
「3年間、騙すつもり? みんなを。仲間を」
ぐっと唇を噛みしめる。悩みと怒りが莉々奈の唇に跡をつけている。
「騙すって……。もし、みんなが私のこと知ったら? 誰も冗談を言ってくれなくなる。親しくしてくれなくなるよ。今日みたくみんなでお母さんの話したくても、私がいたら気を使ってできない。私はこれからずっと気を使われて生きていくの?」
ゆらゆらと彼女の瞳が感情的に揺れる。
「そんなにみんなのこと信頼できないの? 気を使わなくていいように言ったらいいじゃん」
「凛奈ちゃんは事の大きさわかってないよね。わかるわけがない」
と、冷ややかにため息をついた。
床からヒヤリと冷たい何かを感じる。
「凛奈ちゃんには私の気持ちわかるわけないよ。だっているじゃん、お父さんもお母さんも。私の気持ち知らないで知ったように言わないで! 絶対にみんなに黙ってて!」
お風呂はいる、と言って部屋を出ていった。
机に飾られていた、莉々奈とその両親の昔懐かしい写真を見つめ、
「わかんないよ……」
と呟いた。




