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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
2度目のコンクールに向けて
324/423

練習終わり

練習が終わり、明日の音楽の授業の為に再びイスと机が並べられていた。

「「さよならー」」

「さよなら」

音楽室を後にした女子部員たちの笑い声が聞こえてくる。音楽室に残ったのは、凛奈、茜、そして小林の3人のみだった。

凛奈はフリーマーケットの司会の原稿を考えていた。

「この曲はトロンボーンソロがとても特徴的で……っておかしいなぁ」

ぶつぶつと呟き、書いては消して、書いては消してを繰り返していた。

小林は楽譜の整理をしている。

茜はというと、凛奈に話があったのだ。

小林がいるのでなかなか話しにくい。

まだ用事が終わっていないように、楽器庫と音楽室をうろうろと彷徨っていた。

「茜、用意終わったんなら帰ろよ」

小林が茜に声をかけると、茜はぎょっとした様子だった。

「え、そ、その、凛奈先輩に、お話があるんです」

「え、私?」

小林と茜の会話を全く耳にしていなかったのに、急に自分の名前が出てきたことに、驚いて顔を上げる。

「俺はいない方がいいかな」

と、苦笑いする。あせあせと茜が頭を下げた。

「す、すいません!」

「いいよいいよ。じゃあ、話が終わったら戸締りよろしく」

「はい」

と、にっこり凛奈が返事した。

小林は退室し、ぐっと背伸びをした。

「凛奈先輩、かぁ」

大きな欠伸をしながら、職員室へと歩き出した。

「それで、どうしたの? またパートのこと?」

「いえ、莉々奈の事なんですが」

「莉々奈と乃愛がまた喧嘩した?」

「違います」

凛奈は手を止めずに話した。

きっぱりと言い切った茜は、凛奈の前にあるイスに座った。

「莉々奈の、ご家系の話です」

その瞬間、ピタリと凛奈の手が止まる。

「……どういうこと?」

「とぼけなくてもいいです。私、知ってるんです」

「だから、何を」

すこし高ぶった茜の声に、すこし苛立った。

「莉々奈───ご両親が亡くなっていますよね。それで今、凛奈先輩と同居している」

その瞬間、息が止まった。冷静な彼女の声は、桜と似ていた。

「な、んで、知ってるの……」

真っ黒なボールペンが真っ白な紙を突いたまま、 手が震え、インクの水溜りができる。

凛奈は学校でこの話をしたことがない。

莉々奈の家系を知っているのは、幹部の4人と顧問2人に莉々奈の担任。そしてトロンボーンの蒼、風馬、美鈴、愛菜のほんのわずかだ。莉々奈から話すことはもちろんないはず。

茜はふいと顔を晒す。

「聞くつもりはなかったんです。ごめんなさい。職員室に入る前に、聞こえてしまって。莉々奈と、凛奈先輩は一緒に住んでいる。莉々奈のご両親は亡くなっている、と」

「……そっか。私は茜を信用してるから答える。本当だよ。莉々奈のお母さんは、私のお母さんの妹。5年前に、叔父さんと叔母さん山道でスリップして事故にあって……」

「……そうなんですか。ごめんなさい、悲しい出来事をを思い出させてしまって」

「いや、私よりも辛いのは莉々奈だから……」

「それは、わかってます。それより先輩、この事はわざと隠してますよね」

「わざとって……そんなの、本人は言いたくないみたいだからわざわざ私が言う必要はないし、もしみんなに言うことがあったら自分で伝えるって言ってたから」

「ずっと、黙ってるつもりですか。3年間」

「私は、そのつもり……だし、莉々奈もたぶん、そうだと思う」

「無理だと思いますよ」

訂正だ。桜よりまだ幼い声だ。

「3年間、ほんとにいろんなことありますよ。家に遊びに行っていいかなんて聞かれたら、親の話になったら。戸惑うのはあの子自身なんですよ」

返す言葉が見当たらない。たしかに、困るのは莉々奈だ。

「……茜は、どうしてほしいの?」

「私は。そんなどうしてほしいとかないです。このことを私が知ってしまった以上、莉々奈と凛奈先輩の考えを聞いておかないと、これから莉々奈にどう接したらいいかわからないですから」

「……そっか」

「すみません、原稿、書いてる途中でしたよね」

「いいよ。もう遅いし、帰ろうか」

「はい」

凛奈が荷物をまとめる。もう買って1年経つリュックは、当時と比べると色が薄れてしまっていた。

それに比べ、茜のリュックは比較的新しい。

「凛奈先輩、」

「ん?」

鍵を閉めると、茜はまた凛奈に声をかけた。

「もし、莉々奈とこの話をすることがあったら、ごめんねって茜が言ってたって伝えてください」

しょんぼりする茜をみて、ふうっとため息をついた。

「わかった。なにを言ったのかは知らないけど」

「ありがとうございます」

「うん」

2人の空気は微妙なまま、鍵を返し、学校を出た。

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