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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
2度目のコンクールに向けて
318/423

先輩じゃない

「奈津先輩! ここ聴いててください!」

アルトサックス1年、璃星(りせ)がキラキラと目を輝かせて楽譜を奈津に見せる。

「あー、1年合奏見るの、アルトの1stは樹奈なの。だから、樹奈のところ行っといで」

ぎくりとする樹奈に向かって明らかに怪訝そうな顔を見せる。

「……はい」

「で、2ndは私見るから、美玲ちゃんこっちおいで」

「はい!」

「あ、璃星ちゃん。樹奈聴くよ、こっち……」

「"伊野"先輩、先輩の練習のお時間を削ってしまっては申し訳ないので、やっぱり大丈夫です」

完璧な礼儀で、また個人練習を始めた。

「あ……」

璃星は強豪校出身。であると、まだ自分は先輩として認められていないのだろうか。

変な空気になってしまい、璃星と樹奈のやりとりを見守る1、2年生。奈津は、それを気にしないのだろうか。

「璃星、聴いてもらわないの?」

「はい。大丈夫ですから」

「「……」」

「亜里沙先輩、ここいっしょに合わせてもらえませんか」

そう言ったのは、璃星と同じ東野小出身のバリトンサックス1年の朱里だった。

「うん、いいよ。じゃあさ、自由曲のCからのリズム教えてよ」

「もちろんです」

2人のやりとりに憧れる。どちらも先輩、後輩の立場を忘れずに、演奏面でも助け合っているから。

『樹奈も璃星ちゃんとああできたらなあ』

「璃星、ここってどうするの?」

振り向くと、美玲が璃星に質問をしていた。

「私もよくわからないんだ。後で先輩に聞こうよ」

「あ、私分かるよ」

そう言って駆けつけた樹奈を、璃星はまた首を振る。

「いえ。後で奈津先輩にお聞きするので、大丈夫です」

「……そっか」

礼儀正しく、否定された。

先輩として見られていなければ、認められていない。

美玲は、いいの?と璃星の顔を覗く。うん、と頷き、マウスピースをくわえる。鳴らされる彼女の音色に、また不安を感じた。

後日、パート練習に奈津はいなかった。副部長の仕事で遅れるとの連絡だった。

基礎練習が終わり、樹奈が廊下を歩いていると、璃星が渡り廊下にいた。

「ねぇ、何してるの……」

振り向いた璃星の目は赤く、ギロリと樹奈を睨む。

「どうしたの」

「いえ、なんでもありません。お構いなく」

と、教室に戻ろうとする。

そんな彼女の腕を掴み、璃星は足を止めた。

「……なんですか」

「え。いや、その。どうしたの? なにかあった?」

「なにもないです」

璃星が力強くその手を振り払う。

「そんなはずないよ。なにか困ってるなら相談してよ!技術は頼りないかもだけどさ、璃星の先輩なんだよ」

「もういいです! ほんとに大丈夫ですから!」

「それで、奈津先輩に相談するの?樹奈が頼りないから?」

「誰にも言いませんよ! だって私……部活辞めますから」

そう言って、硬直した樹奈の目の前を横切って言った。

「なんで……?」

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