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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
2度目のコンクールに向けて
316/423

1年生の仲

睨み合う乃愛と莉々奈。その訳は───

「ちょっと! 私凛奈先輩と話あるのにー」

「凛奈先輩は乃愛の先輩なの!」

「私の先輩でもあるんだよ!?」

凛奈の両腕は彼女らによって伸ばされていた。

「うー……2人とも、喧嘩はしないでー」

何故か取り合いになる。2人はどうして犬猿の仲になったのだろうか。

関わるようになったきっかけは、莉々奈の所属するトロンボーンパートのパートリーダー、蒼の妹が、トランペットパートにいると凛奈が伝えると、「今度話してみよう」、そう言ったのだ。

だが2人がそんな仲になった原因が凛奈の取り合いだ。

「もー、2人とも辞めなさい! ちゃんと話し聞くから、引っ張らないで」

もう先輩として怒鳴ることに慣れてしまった。

乃愛も莉々奈もしゅんとなる。

「で、どっちから先に話す?」

「乃愛から話します!」

挙手する乃愛にしぶしぶ負けたような顔をして、莉々奈が譲る。

「学年の話なんですけどー」

練習に戻ろうとした莉々奈も反応する。

「私もそうです」

「どうしたの?」

乃愛と莉々奈は、互いに顔を見せあった。

「なんだか、仲良くなった気がしないというか、団結力がないっていうか……」

「まだ話したことない子もいるし、よそよそしい感じで。お互い敬語でぎくしゃくしてるパートもあるし」

「そのパートってどこ?」

凛奈の質問に対して2人は、

「ベースです」

「え、私はホルン」

別々の答え。2人ともやはり思うところが違う。

「ベースは、なんか1年生だけの練習になって通りかかった時、すごい静かっていうか、喋らずに音しか聴こえないんです。いや、喋ってばっかじゃだめですけど」

「ホルンは?」

莉々奈に視線を移す。

「ほら、徳永桃ちゃんいるじゃないですか。あの子がたまに春ちゃんのところに行くんです。だからみくちゃんと杏里ちゃんが仲良くなっちゃって、桃ちゃんが孤立しそうなんです、今後」

徳永桃の双子の妹、クラリネット1年の春のところへ行く。

クラリネットとホルンのパートが同じタイミングで休憩をするはずがない。

「それで、春ちゃんの方は、クラはどうなの?」

「それが……2人で喋るから、和音先輩と鈴音先輩怒ってるんです。でも、直接的には怒られたことないけど、春ちゃんがそれに気付いて」

「ならよかったじゃん」

「じゃあ今度は春桃が喧嘩したんです。なんでダメなのって桃ちゃんが怒って」

「うーん……」

ややこしいことになっている。桃はいま、パートでも孤立しそうだが、春はそれを望んでいない。だが桃は春のところへ行きたい。

双子の思いがすれ違うこともあるものだが、異性同士の双子の凛奈にはあまりわからない。

だが1年生全体を見て言えることはただ1つだった。

「ベースはみんなおとなしい性格だからだと思うよ。喋らなくてもあの子たちは仲良いみたいだよ。4人で遊びに行ったみたいだし。1年生、今年は多いし、いろんな小学校から来ているでしょ? 東野に南高、西野に北原。それに成宮姉弟は葉月第2からだし、莉々奈なんてもっと遠くから引っ越してきた。そりゃあ考えも違うだろうし、それだけの場所から1つに集まってきたら、いきなり仲良くなれる訳じゃないよ。みんな入部してまだ2ヶ月だし、2年半のうちのまだ2ヶ月だから大丈夫だよ。気になる子だったり仲良くなりたい子がいるなら自分たちから声かけたらいいと思うよ」

「そうですよね!」

乃愛が目をキラキラさせる。

「ただ……まだあまり人に話したくない事とか、黙っておきたい事がその子にあるんだったらあまり首は突っ込まない方がいいよ」

その例は、隣にいる莉々奈だった。

彼女は自分の家系を話さず、凛奈と同居していることを黙っている。

知っているのは凛奈以外に、小林に池田、トロンボーンパートの上級生、そして部長副部長のみだ。それ以外に知っている者はいない。

だが莉々奈の家系を話したところで皆はどんな反応をするのか。その後どんな目で莉々奈を見るのだろうか。

「どうしたんですか?」

ほら、こうやって家と学校で凛奈への言葉使いを変えている。

「ううん。そんなかんじかな。もう練習戻ろうか」

「「はい」」

今年の1年生たちが今後どうなるかを考えながら、茉莉花のところへ向かった。

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