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コンクールについて
「発表します」
はやくも5月だ。音楽室に集められた73人は、小林の声を聞き逃さないよう、視線で小林を釘付けた。
すうっと空気が吸い込まれる。
「課題曲は翡翠、自由曲は海の王者です」
「「はい!」」
部員たちは拍手した。喜びの声も上がる。
課題曲は「翡翠」と「サン・マーチ」の2曲が、自由曲は「歌劇イーゴリ公より」と「海の王者」の2曲が最終候補になっていた。
「で、コンクールメンバーのことなんだが」
また静まった。
「今年、例年通りオーディションを行うかは未定です」
場は騒然とする。それもそうだ、小林が北原に転勤してきた翌年からずっとオーディションで、学年関係なしにコンクールメンバーを決めていたのだから。
「どうするんですか? 学年順ですか」
和音が尋ねる。
「いや、それは、お前たち3年生が話し合って決めろ。先生はそれに従う」
「従う、って……」
何故、小林はそうしたのか。それは誰にもわからなかった。




