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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
番外編①
295/423

8.捕獲

『新入部員捕獲作戦隊推薦』

「ぷっ。なにコレ」

「捕獲、ってねぇ」

雨の降る中、伊織と風香は窓際に座っていた。

隼人は藍を連れて渡り廊下に練習に行っていた。

捕獲作戦。まだまだ先の事のように感じられるが、もうすぐ北原の体験入学だったのだ。そこで吹奏楽部はミニコンサートを開く。そしてごっそり新入部員を収穫しよう、そんな作戦が毎年このダブルリードパートが中心で行われる。

何故このパートなのか、それは至って簡単であった。ダブルリードパートは、新入部員が少ないから。かつてはファゴットはこの部に存在しなかった。経験者である唄華が入部したことがきっかけで、オーボエパートからダブルリードパートへとなったのだ。それまでは、オーボエパートも1人新入部員が入るか入らないか。

オーボエ奏者が後輩と関わる機会がどうしても少なくなってしまうから、そんな理由で小林が北原に来てから捕獲隊の主幹となっていた。

捕獲隊の主な仕事は、体験入学のミニコンサートの進行、仮入部期間の予定の組み立て、勧誘。そして本入部した1年生のサポートだ。全ての仕事を終えるのはsunflowerコンサートまで。隊長はもちろんダブルリードの人間だ。

「隊長どうする?」

「あたしいくわ」

伊織が立候補し、案外スッと決まった。

「わかった」

「じゃあ隊員は順番にあげていこう。まず幹部4人」

「はいはい」

ルーズリーフに、茉莉花、奈津、ユリカ、凛奈と順に名前を書き込む。

「あと、ダブリ全員ね。藍ちゃんは来年隊長として頑張ってもらわないと」

風香が顔を上げると、伊織は少し顔を歪めていた。

「やだな。もうそんなこと言うの?」

「まだちょっと早かったかな」

「うん、早い」

廊下からオーボエとファゴットの二重奏が聴こえてくる。

まだ頼りない高音に、注意する声が聞こえる。

1年後、自分たちは楽器の代わりにシャーペンを握っているはず。

この音の主が、来年は今の隼人のように、後輩へ教える立場になっているのだろう。

「……なにしても最後になるよね」

「本当に。春コンだってそう」

「私たちがこの部に残していけるものはなんなんだろう」

「さぁ……。栄光、だといいな」

「栄光ね……」

窓の外を見るとさっきまでパラパラとしか降っていなかった雨も、土砂降りになっていた。


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