6.ホルンへの愛
「綾乃先輩は、ホルンが大好きですね」
「もちろん」
パート練習、ホルンパートは巫愛と綾乃の2人きりになっていた。
「なんで2年でそんなに上手になれたんですか? 何か秘訣とかあるんじゃないですか」
巫愛は正直驚いていた。
自分が中学に上がって吹奏楽部に入れば、初心者の2年生なんて軽々追い越してしまうだろうと考えていたから。
パート練習の時に、笑顔でこう言われた。
「巫愛ちゃん、音が硬くならないようにね」
勝手に経験者だと思い込んだのだ。なにせ自分よりも上手かったから。
「あたし? あたしは中学から始めたよ」
本当の天才は、ここにいた。
目を丸め、ぽっかりと口が開いてしまう。
「秘訣ね〜」
過去から現実に戻ると、綾乃はうーん、と頭をひねり考えている。
「特に、ないんだよなぁ〜」
「ほんとですか?」
ずいずいと顔を押し詰める。
「ほんとだよ、ただ、」
「ただ?」
クスッと笑い、巫愛の頭に手を乗せた。
「ホルンと吹奏楽が、大好きって思うことかな。負けず嫌いな巫愛ちゃんが素直に好きって言ってくれるのが待ち遠しいな」
「な、何言ってるんですか!」
かあっと顔が熱くなる。
「でも、いま巫愛ちゃんにある上手くなる秘訣教えてって言ったでしょ? その姿勢が大切なんじゃない?」
すっと細い人差し指が、巫愛の胸を指す。
「姿勢……」
「あたしは、心から好きだよ!ホルンが」
と、備品のホルンを抱きしめた。
この人についていけば、心の底から音楽を愛せるかもしれない。
この人についていこうと思ったのは、この瞬間だった。




