3.ソロ
6月中旬。コンクールメンバー発表。
「ソロは、課題曲Hを星野」
「はい!」
課題曲か。
正直、自由曲のMしたかったけど、今年は紗江かな。
実際オーディションで演奏あんまり納得いかなかったし。まあ、紗江なら私はいいや。
と思っていたけど───
「自由曲Cを米田、Mを香坂が担当するように」
その瞬間、みんな私と紗江を見る。
もちろん私たちも何がなんだかわからなくて、顔を合わせる。
何故私たちじゃなくて、1年生が選ばれたのか。
対してあの子と私たちの実力にそれほどの差はない。むしろ、まだ『先輩』と呼ばれてもいいぐらいだ。
小さな嫉妬が、もやもやと出来始めていた。
なんで? なんで? って、みんなそんな目でこっち見ないでよ。
中学校に入って、こんなこと初めてかもしれない。
負けたんだ、凛奈に───。
その後、こばTに呼び出されたのは、私だけだった。
「今年はなぁー。トランペットはソロが多いから」
「なんで、凛奈なんですか」
初めて小林先生の前で泣いた。
紗江でも私はこんな気持ちになっていただろうか。ちがう。紗江は、ずっと私と2人でパートを守ってきた。なのに、なのに……。
入って2ヶ月の、しかもまだまだ自分の方が上手なのに何故あの子が選ばれたか。
「もうすぐ分かる。追いつかれるなよ」
「そんなの、もちろんですッ!」
むきになって叫ぶ。
何故こんなに焦っているのか。
「じゃあ、もう戻れ」
「……はい」
私は、教室に戻りながら涙を拭って深呼吸する。
目薬をさして、くっと口角を上げる。
そして教室を開ける。
「たっだいま〜。基礎練、始めよっか!」
笑顔を盾にして、私は負けない。




