アンコール
《アンコール、ありがとうございます。部長の、泉 茉莉花です。先輩が引退され、もう半年が経とうとしています。そんな中、ぶつかったり悲しんだりしたのは、部員1人1人に、個性というものがあるからだと思います。そして、アンコール飾るのが、colorです。この曲は、部員1人1人、それぞれのパートに色がある、その鮮やかな色で奏でる、そんな思いでこの曲を選びました。
それぞれのパートのソリで曲が進んで行きます。北吹の、色を"聴いて"お楽しみください。
今日は、最後まで私たちの演奏を聴いてくださり、ありがとうございました。これからもどうぞ、北原中学校吹奏楽部の応援を、どうぞよろしくお願いします!》
パチパチ……
《それでは、colorです。どうぞ》
サックスカルテットから始まる。部員たちがイメージしたサックスの"色"は、黄色だ。
アルト2人のメロディーを、力強く支えるテナーとバリトン。気づけば、クラリネットへとメロディーが移り変わっていた。
クラリネット・バスクラリネットはオレンジ。
優しく、太陽のような5人の音色は、観客の心を温める。
「綺麗だね」
柚子は、ふっと笑った。溢れそうな涙を溜めながら。
ドラムのソロが始まる。優香だ。
タンバリンを夢跳愛がリズムを刻む。マリンバを穂花が、ビブラフォンを麻由が、優しく叩く。
そんなパーカッションの色は、青空のような澄んだ水色だった。
フルートの、優しい音色が被さる。フルートは桃色だ。エメラルドの、オーボエと絡み合う。それを支えるのが、ファゴットだった。
2つの楽器の美しい旋律は、どこか遠くで誰かが微笑んでいる、そんな気がした。
黄緑のチューバ、ユーフォニアム、コントラバスのソリのあと、トランペットパート7人が立ち上がる。
動きは違うが、全員の心は揃う。
トランペットパートにラベンダーが咲き乱れる。
途中から、トロンボーンも加わる。トロンボーンは、炎のような赤色だった。
ストレート管の音色は、やがてユニゾンとなった。
最後に、海のように青いホルンが語りかける。そして、世界が変わるように転調し、tuttiでサウンドを作りあげる。
全員が立ち上がった時、莉々奈は気付いた。
「Tシャツの色が、パートの色なんだ」
色鮮やかな音たちは、観客の心を震わせる。
曲が終わった時、自然と笑みがこぼれた。
立ち上がったとき、熱か、それとも心が温まったからか、体がポカポカと暖かかった。
「ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
全員で、礼をする。
【以上をもちまして、はづき夢色吹奏楽祭2015北原中学校ステージを終演いたします。本日は、お越しいただきありがとうございました。お気をつけてお帰りください】
池田の優しい声と、拍手が混じり合う。
「終わっ、た───」
へにゃりと口が緩んでいった。
「ありがとうございましたー!」
玄関で、観客たちを見送る。
「ありがとうございました!」
奈津が、満面の笑みで挨拶をしていると、後ろから肩を誰かに掴まれた。
振り返ると、そこには柚子がいた。
「柚子……」
「よかったよ。ソロも。あのね、私決めた」
柚子が耳打ちすると同時に、奈津の目から、涙が溢れ出した。
そのまま柚子に抱きつく。
「……ありがとう……!」
凛奈は、それを見て、ホッとしていた。
「凛奈ちゃん」
目の前には、従姉妹の莉々奈がいる。
「莉々奈! 来てくれたんだ。ありがとう!」
何か、莉々奈は言いたいような顔をしている。
「凛奈ちゃん、実はね───、」
言いかけたところ、人混みに逆らえず、流されて行ってしまった。
また後で!と手を振る。
「ありがとう!」
莉々奈も、これをきっかけに入学先の中学校で吹奏楽部に入ってくれたら。そう小さな思いが凛奈の口元をほころばせた。




