シンフォニックステージ
「莉々奈、ちょっと待って」
「おばあちゃん!」
本番の10分前。
栄本莉々奈。先日小学校を卒業したばかりの少女である。
今日は、従姉妹の"凛奈"の所属する吹奏楽部の演奏会に来ないかと祖母に誘われたのだ。
「莉々奈」
聞き覚えのある声。この声は───
「朝緋くん!叔父さん!叔母さん! 」
朝緋。そして、2人の両親だ。
「久しぶり!」
「来てたんだ」
「そっちこそ。いつもならこないのにねー」
「今日は暇だったんだ」
そんな話をしていると、ブザーが鳴り出した。
【ただいまより、はづき夢色吹奏楽祭2015、北原中学校ステージを開演いたします】
池田の優しい声に続いて、幕が上がりながら曲が始まる。ラッパ隊のファンファーレだ。
ホルンが同じメロディーを引き継いで、ハーモニーがぐんと広がる。
杏のファンファーレのようなまっすぐなソロに風香のファゴットが囁く。だんだん溶け込んで、テンポがゆったりになる。
「すごい……」
莉々奈はそんな言葉しかでなかった。
オーボエがソロを終え、クラリネットとアルトサックスがフルートのハーモニーを支え、ティンパニのクレッシェンドで、ハーモニーが会場を包む。
小林が指揮台を降りると、大きな拍手が巻き起こる。
《みなさん、こんばんは! 北原中学校吹奏楽部です。本日は、はづき夢色吹奏楽祭、北原中学校ステージにお越しいただきありがとうございます!》
マイクから伊織の声が聞こえる。隣には、夢跳愛がいる。
《私たちは、1年生21人、2年生18人の計39人と、顧問の先生方お2人で楽しく活動しています。申し遅れましたが、第1部、シンフォニックステージで司会を務めさせていただきます、2年オーボエパートの小河伊織です》
《同じく、1年パーカッションパートの氷鉋夢跳愛です》
《《よろしくお願いします!》》
ぺこりとお辞儀をする。拍手が、大きい。
ホールだからやはり響くのだろうか、観客は……多い。東野小、西野小、北原小のバンドメンバーも見に来ているはず。これも、部員たちが必死に宣伝したからであろう。
この演奏会をきっかけに、来年から北原中に入部する小学生たちにも入部を決めてほしい。
期待とプレッシャー。両方を持ちながらも、凛奈はわくわくとしていた。




