朝、積み込み
当日の朝。年に1度の定期演奏会は、毎年朝から大忙しだ。
1年生リーダーの凛奈の仕事は、トラックに乗せられた楽器や荷物、劇の衣装を確認することだ。
これは毎年1年生リーダーがしているそうだ。
楽器を乗せる順番は、まずティンパニ。そして楽器の大きい順に乗せていく。
最後に指揮台、衣装を乗せてトラックは葉月市民ホール……葉月市民文化会館へと走り出す。
トラックの中に入り、楽器を確認し、それをキャリー係に報告する。
「チューバ人数分OK……と。次、バリサクとテナーお願いします!」
「「はい」」
自身の持っているクリップボードに書いてある『チューバ 3台』の文字を赤色で消す。
「お疲れ。体調大丈夫か?代わろうか」
「……あ、お疲れ様です」
リストからパッと目を放すと、風馬がバリトンサックスを片手に持っていた。
「大丈夫です」
せーの、と2人で協力して楽器をたてる。
「そっか」
「はい。あ、もう打楽器は全部包んでありますか?次バスドラムとチャイムとドラ乗せるんですけど……」
「んー、確認してみるわ」
「ありがとうございます」
「バスドラとチャイムOK!ドラは今から降ろすから、風馬、手伝って」
杏が呼び出す。
「了解です! じゃあ、バスドラからお願いします」
「「はい」」
風馬はトンッと踏み台を使わずにトラックを降り、杏と走りだした。
「───もう、」
杏は、頬を膨らませながら走った。
「なんだ?」
「近すぎ。凛奈と」
「見てたのか」
ぷぷっと風馬が笑う。
「後輩にやきもち?」
「もう、うるさい」
わぷっと声をあげた。
杏は、赤面を隠すために風馬に毛布を押し付けた。
「うわ、くっさ。パーカッションちゃんと掃除してんのかよ」
もごもごと喋る風馬と赤く染まりながらも笑う可愛らしい杏を、遠くから藍が目を丸くして見ていた。
「2人、付き合ってたんだ……」
「はーいお2人さん! いちゃついてないで、ドラ運ぶよ!」
「……わ! ごめん……」
また赤くなり、風馬から離れた。
風馬は藍と目が合う。
「あ、姉をよろしくお願いしますっ」
バッと頭を下げた。
「はいはい。さ、運ぶぞ」
「はい!」
*
「ふぁー」
凛奈は、なぜか暇になってあくびを出していた。楽器がこないのだ。
「もー、まだー?」




