ご挨拶
小林が急いで戻ってきた。
それを遠くからすでにわかっていた凛奈は、なんとなく慌てて横になり、顔を隠した。
バッとドアを開け、安心したかのようにそっと"あの"写真をかばんの中に入れた。
「香坂」
「はい……」
「エンジン切ってもいいか」
「はい」
エンジンを切って、小林はまた戻っていった。
「はぁ」
よくよく考えれば、顧問の車で寝ているなんて相当だ。
また起きあがると、あの写真はもうなかった。
写真は、どこか見覚えがある。
なぜかはわからないし、どこで見たかもわからなかった。
ただ、考えるだけでぐらぁっとまた気分が悪くなる。また横になって、何もしないでいると自然と眠っていった。
「古川先生」
「あぁ、小林先生」
「挨拶が遅れてしまってすみません。今日はよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします。体調が悪い生徒はどうなったの?」
「家に帰してもたぶん保護者が仕事でいないと思うんです。今は僕の車で休んでいます。昼まで休んでいるのでちょくちょく様子見にいきます」
そうかー、と古川が言う。
「そうそう、北原からうちに来たいって言ってる子はいない? やっぱり上手いところからいっぱいきて欲しいんでねー」
来年から皇城高校音楽科生となるのは桜と唄華。
少し前はもっといたのだが……3年間同じクラスになるということに抵抗があるのだろうか、ここ最近で北原から皇城への進学する者はあまり多くはないのだ。
「うーん……1年生で行きそうな雰囲気な者は1人か2人いますね」
小林が思い浮かべたのはマイと凛奈だった。
「本当?そりゃもっとアピールしないとな」
「東野からフルートが1人、西野からトランペット1人です」
「ほう、経験者か。まあ、今日の練習でうちに来たいって言ってくれる子がもっといたらいいんだけどねー」
「古川先生」
また羽奏だ。今は副部長をしているらしい。
こんな遅刻魔が副部長で大丈夫なのか。
「合奏何時からします?」
「そうだなー。基礎合奏は11時からしようか。そこで弁当を食って、2時半から合奏」
「わかりました」
にっこり笑って戻っていった。
「そうだ。相談があるのですが……」
「なんだい?」
2人は音楽棟に向かって歩き出した。




