嫉妬と信頼
「……」
皆、そこに円になって座っていた。
「ねえ、さっきの続き……」
「……」
凛奈もマイも、その中に座って行った。
「……ごめんなさい。でも、でも……。どうしても私だけじゃ駄目な気がして。私の判断だけで……この学年が良くなるなんて、もう思えない。半年しかやってないけど、これから先輩が引退して部長なんて尚更だよ。みんなの意見聞いてばっかりなくせに、結局まとめられていない。なんで私を選んだの? なんで、私がリーダーなの……。選ばれたのに、期待外れだなんて無責任だよ。こんな、こんな……」
泣き出してしまった。
心の底で、もう、どうにでもなってしまえばいいと思っていたのだろうか。
「そっちのほうが無責任だよ」
いつもなら面倒な事に口を出さない樹奈が口を開く。
「樹奈が凛奈をリーダーに投票した理由知らないよね。なのに、なにが期待外れなの? たまにぼーっとしてる。しかも、自分の気持ち伝えるのが苦手。だけど! いつも、練習頑張ってたじゃん。ごちゃごちゃしてた時だって、いつも必死にどうしたらいいか考えてたじゃん。吹いていく力も、自分で考えてた。樹奈は凛奈に付いてけばこのバンドは上手くなると思ったから投票したんだよ。それなのに、何も知らないで、自分が期待外れだとか言わないでよ。樹奈は、リーダーをもう1人作るなんてやだよ。だから」
「もうやめて!」
樹奈が話し終える前に凛奈が叫んだ。
「なんで……。私もうわかんないよ。リーダーの意味……。結局、誰もわかってくれないじゃん! 自分の意見なんて、伝わらない。まとまらない。そんなの、どうしたらいいって言うの!」
立ち上がると同時に、立ちくらみが起こり、へなへなと崩れてしまった。
「大丈夫!?」
「だっ……大丈夫だから! なにもない」
「大丈夫じゃないじゃん! 無理していい子ぶんなよ」
由紀が泣きながら叫ぶ。
「いい子ぶってなんかいない! 無理してない! 私は、みんなの気持ち聞きたいだけ! これからどうすればいいのか迷ってる。大丈夫なんて声かけるなんて……。なんでよ。私本当にわかんないよ。誰も私を頼らない。みんな、巫愛とか、マイとか、しっかりした人で……。誰もリーダーの私を頼ってくれない。私の立場がない! いままで相談してくれたことなんかなかった。なにも壊したくなくて、そっとしてた。なのに、なんで……? なんでみんな私から離れていくの!? もうわかんない……! 樹奈は私のどこをみてそう言えるの?」
誰もがうっと言葉を詰まらせた。
耐えられなくなった凛奈は、その場を去ろうとした。
「……そうか。みんな……嫉妬してるんだ」
誰かがぽろりと言葉をこぼす。
萌論だった。
思わず振り返る。
「私……。凛奈に嫉妬してたんだ」
自分でもびっくりしたような顔をしていた。
「コンクールで同じ1年生なのにソロ吹いて、アンサンブルにも出て、しかも重役で……。先生からの信頼もあるし、先輩とも仲が良い。役員にもなって、他の1年生より何倍もしんどいはずなのに、いつもにこにこ笑ってて……。どうして笑えるの?ってイライラしてたんだ。そのうち凛奈の意見聞くたびにリーダーだからそんなこと言えるんだって……。悔しいって思ってたけど違った。これが、嫉妬なのか。私は凛奈に嫉妬してたんだ」
肩を落としながら、涙を一筋流す。
「……だから、だから……」
萌論は立ち上がり、頭を下げた。
「ごめん……っ。許してもらえないかもしれない。だけど、私は謝るよ……」
声が震えていた。
怒りがだんだん治まってくる。凛奈は力が入っていた肩をゆっくり落として言った。
「ねぇ、凛奈はいっぱい悩んでるよね。なのに、なんで相談してくれないの? リーダーは相談に乗る立場なのかもしれないけど、凛奈は私たちのこともっと頼ってよ」
マイはぽそっと呟いた。
「……う、」
立ったまま、わあわあと泣き出してしまった。
「うっ……結局っ、自己中心に……なって、たんだよ……私もっ……みんなも……!」
そのあとは、ほとんどの部員はごめんね"と言いながら号泣していた。




