1年生結果発表
そして今、1年生の発表がはじまる。
「フルート、花野」
「はい」
彼女は、喜びを一切顔に出さずに返事した。
わぁっと、隣で泣き崩れる日向を見て、硬直した。
「オーボエ、濱田は不合格です。頑張った濱田に拍手」
ぱちぱちぱち……
ありがとうございます、とぺこりと会釈するものの、目が涙でいっぱいになっていた。
そして俯き、コンクールのオーディション結果発表の時より伸びた髪で顔を隠した。
「続いてクラリネット。近藤、松崎、2人とも残念ですが……」
不合格、そう言う前に2人は頷いた。
そして、2人とも暗い顔で「はい」と返事した。
池田は静かに頷いた。
池田も"不合格"の3文字を言うのが辛いのだろう。どんどん顔が暗くなる。
「……続いてサックス。伊野、藍沢」
「「はい!」」
亜里沙はふぅっ、とゆっくり息を吐き、樹奈とマリアがちらりと振り向くと、笑顔を見せた。
安心して2人はまた前を向くが、亜里沙は暗い表情になるのが後ろにいた凛奈にはわかった。
「弦バス、根川」
「え……は、はい!」
美奈は、自分が受かると思ってもいなかったのか、びっくりしたようで、少し声が裏返っていた。美奈の頬はピンク色に、口元をほころばせた。
『次だ!』
ドクドクと心臓の音が止まらない。
はぁっ、と呼吸が荒くなる。
「トランペット、香坂」
はい、と返事しようと思ったけれど、喉の奥で詰まってしまった。
『1人、だけ……』
そう悔やみながら俯いた。
「……はい……」
「……続いてホルン、新井、東原。2人とも合格です」
「「はい!」」
「トロンボーン、樋野」
「はい」
愛菜の目は、まっすぐ前を見ていた。
「ユーフォ、増田。チューバ、残念ながら不合格です」
「「はい」」
由紀はこんな時ならいつもぶすっとしたりするのに、なぜか素直に返事した。
「最後にパーカッション。佐野、氷鉋」
「「はい!」」
「……以上、9名です」
「「はい!」」
いろんな感情の者が集まっているこの空間。
小林が、前に出たら自然と顔が上がる。
「……オーディションお疲れ様でした。いろんな気持ちであると思いますが、まだまだ君たちは伸びます。今回合格した者もそうでない者も。このことを忘れるのではなく、1つの"経験"として、次に進んでほしいです。合格者は、明日合同練習です。学校に7時集合で。それ以外は休みです」
「ありがとうございました!」
茉莉花の声で、礼をする。
「「ありがとうございました!」」
号令が終わると、小林と池田は速やかに音楽室を去った。
「ふぅ……」
「お疲れ様です」
「ありがとうございます。やっぱり、結果発表の空気はぴりぴりしてますね。コンクールオーディションの時と違って、"不合格者"も発表するのは……」
「……」
小林は、無言で頷いた。
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小林たちが去った直後、それぞれの感情が顔に表れた。
『日向、泣いてる。あ、美奈、すごい嬉しそう。巫愛とまっきー、2人で喜んでる。マイも、泣いてる。受かったのに。周りのこと思ってるんだ。私はどうなんだろう───』
「凛奈?」
肩をポンと乗せられた。
カナだ、そう思い振り返ると、加奈子も聖菜もぎょっとして驚いていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「え……?」
凛奈は、無表情のまま、涙を一筋、二筋と流していた。
それに気付いた途端、一気に涙が溢れ出てきた。
すると、それにつられて2人も暗い表情を見せる。
「ぐすっ……」
しばらく沈黙が続いた。
そして、ハッとなり顔を上げる。
『そうか、みんな……』
凛奈は感じた。
なぜ、コンクールのオーディションの時とこんなにも違うのだろう。
あの頃は、不合格でも泣きもしなかったあの子が、なぜ今泣いているのだろう。
『みんな、変わったんだ……』
あの頃は、落ちても何も思わなかったかもしれない。だが、皆、環境や考え方が変わって来て、この9ヶ月間で部活に対する思いが変わっていたのだ。
"じゃあ私は?"
自分で自分に問いかける。
『私はなにが変わった? リーダーになった。経験もいっぱいした。だけど、なにか他の人とは違う……。なにが変わったんだろう』
そうもやもやしたまま、加奈子の行こう、という声につられ音楽室を去っていった。
1年生選抜バンド合格者
花野 マイ(Fl.)
伊野 樹奈(A.sax)
藍沢 マリア(T.sax)
根川 美奈 (St.Bass)
香坂 凛奈(Tp.)
新衣 巫愛(Hr.)
東原 真紀(Hr.)
増田 萌論(Euph.)
佐野 麻由(Perc.)
氷鉋 夢跳愛(Perc.)
計9名




