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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
春のコンサートに向けて
261/423

1年生結果発表

そして今、1年生の発表がはじまる。

「フルート、花野」

「はい」

彼女は、喜びを一切顔に出さずに返事した。

わぁっと、隣で泣き崩れる日向を見て、硬直した。

「オーボエ、濱田は不合格です。頑張った濱田に拍手」

ぱちぱちぱち……

ありがとうございます、とぺこりと会釈するものの、目が涙でいっぱいになっていた。

そして俯き、コンクールのオーディション結果発表の時より伸びた髪で顔を隠した。

「続いてクラリネット。近藤、松崎、2人とも残念ですが……」

不合格、そう言う前に2人は頷いた。

そして、2人とも暗い顔で「はい」と返事した。

池田は静かに頷いた。

池田も"不合格"の3文字を言うのが辛いのだろう。どんどん顔が暗くなる。

「……続いてサックス。伊野、藍沢」

「「はい!」」

亜里沙はふぅっ、とゆっくり息を吐き、樹奈とマリアがちらりと振り向くと、笑顔を見せた。

安心して2人はまた前を向くが、亜里沙は暗い表情になるのが後ろにいた凛奈にはわかった。

「弦バス、根川」

「え……は、はい!」

美奈は、自分が受かると思ってもいなかったのか、びっくりしたようで、少し声が裏返っていた。美奈の頬はピンク色に、口元をほころばせた。

『次だ!』

ドクドクと心臓の音が止まらない。

はぁっ、と呼吸が荒くなる。

「トランペット、香坂」

はい、と返事しようと思ったけれど、喉の奥で詰まってしまった。

『1人、だけ……』

そう悔やみながら俯いた。

「……はい……」

「……続いてホルン、新井、東原。2人とも合格です」

「「はい!」」

「トロンボーン、樋野」

「はい」

愛菜の目は、まっすぐ前を見ていた。

「ユーフォ、増田。チューバ、残念ながら不合格です」

「「はい」」

由紀はこんな時ならいつもぶすっとしたりするのに、なぜか素直に返事した。

「最後にパーカッション。佐野、氷鉋」

「「はい!」」

「……以上、9名です」

「「はい!」」

いろんな感情の者が集まっているこの空間。

小林が、前に出たら自然と顔が上がる。

「……オーディションお疲れ様でした。いろんな気持ちであると思いますが、まだまだ君たちは伸びます。今回合格した者もそうでない者も。このことを忘れるのではなく、1つの"経験"として、次に進んでほしいです。合格者は、明日合同練習です。学校に7時集合で。それ以外は休みです」

「ありがとうございました!」

茉莉花の声で、礼をする。

「「ありがとうございました!」」

号令が終わると、小林と池田は速やかに音楽室を去った。

「ふぅ……」

「お疲れ様です」

「ありがとうございます。やっぱり、結果発表の空気はぴりぴりしてますね。コンクールオーディションの時と違って、"不合格者"も発表するのは……」

「……」

小林は、無言で頷いた。

--------------

小林たちが去った直後、それぞれの感情が顔に表れた。

『日向、泣いてる。あ、美奈、すごい嬉しそう。巫愛とまっきー、2人で喜んでる。マイも、泣いてる。受かったのに。周りのこと思ってるんだ。私はどうなんだろう───』

「凛奈?」

肩をポンと乗せられた。

カナだ、そう思い振り返ると、加奈子も聖菜もぎょっとして驚いていた。

「どうしたの? 大丈夫?」

「え……?」

凛奈は、無表情のまま、涙を一筋、二筋と流していた。

それに気付いた途端、一気に涙が溢れ出てきた。

すると、それにつられて2人も暗い表情を見せる。

「ぐすっ……」

しばらく沈黙が続いた。

そして、ハッとなり顔を上げる。

『そうか、みんな……』

凛奈は感じた。

なぜ、コンクールのオーディションの時とこんなにも違うのだろう。

あの頃は、不合格でも泣きもしなかったあの子が、なぜ今泣いているのだろう。

『みんな、変わったんだ……』

あの頃は、落ちても何も思わなかったかもしれない。だが、皆、環境や考え方が変わって来て、この9ヶ月間で部活に対する思いが変わっていたのだ。

"じゃあ私は?"

自分で自分に問いかける。

『私はなにが変わった? リーダーになった。経験もいっぱいした。だけど、なにか他の人とは違う……。なにが変わったんだろう』

そうもやもやしたまま、加奈子の行こう、という声につられ音楽室を去っていった。


1年生選抜バンド合格者

花野 マイ(Fl.)

伊野 樹奈(A.sax)

藍沢 マリア(T.sax)

根川 美奈 (St.Bass)

香坂 凛奈(Tp.)

新衣 巫愛(Hr.)

東原 真紀(Hr.)

増田 萌論(Euph.)

佐野 麻由(Perc.)

氷鉋 夢跳愛(Perc.)

計9名

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