まとまらない姿勢
「成長したんでしょうか」
「その途中というべきかな。あいつはあいつなりで、多分いまから結果を言いに来る」
と、2人並んで廊下を歩いていた。
「小林先生、池田先生!」
ほら、と小林が言った先には、凛奈が息を切らして立っていた。
「お話が、あります」
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「リーダーをあと1人?」
職員室で、3人で話した。
「はい。私以外の人で選んで欲しいです」
と、小林が何か言おうとしたが、そっと口をつぐんだ。
「……理由は」
「理由は、時々……私1人で判断して、本当にいいのかわからない時があるんです」
「……わかった。茉莉花たち呼んでこい」
「はい」
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「ねえ、なんで合奏始まらないの」
「さぁー……」
合奏の時間になっても、始まらなかった。
その場にいないのは、小林、池田、部長副部長、そして凛奈の6人だった。
「てか、合奏しないんだったらはっきりしないってはっきり言って欲しいんだけど。オーディション明日でしょ? こんなんだったら個人練したいのに」
夏帆がマウスピースから口を離す。
そう、明日は吹奏楽祭のラストステージの選抜オーディション。
オーディションに受かりたいと言う気持ちが強く、相当苛ついている。
「でも」
日向が反論しようとしたが、
「あー……日向、ちょっと楽器庫きて」
と、風香につれられた。
「あの子ね、去年オーディションに落ちたの。その時はまだなんとも思ってなかったけど……。実際に選抜バンドのステージ見て火がついちゃったんだよ。それに……、私たちは最後のチャンスだからね」
「……」
「そーゆーこと、かな。もう戻ろうか」
「はい」
納得したように、扉を開け、自分の席へ戻った。
「どうしたんだろう」
そう思っているのは風香だけではないはず。
「はぁ……」
と、大きなため息をついていると、くらっと立ちくらみが風香を襲った。
「おっ、と……」
倒れかけた風香の肩を支えたのは、颯人だった。
「大丈夫?」
「うん……。ありがと。てか、颯人どーしたの?」
「いやー、リード割れた」
「うそ」
「あー……」
と、頰をかく。
風香は気付いていた。颯人の顔が青白いことを。
「酸欠だよね。みたらわかるよ」
「……うん」
ファゴットは、他の楽器の何倍も息を多く使う。
「ファゴット2人とも体調不良かー。て言っても私はただの貧血。酸欠だなんてどうせ音楽室換気してないんでしょ?」
と言いながら、扉を開けた。
「みんな、ストップ。聞いてください」
「「はい」」
「換気するので窓を開けてください」
「「はい」」
結局、部長副部長がいないとこんなことまで出来ないのか、そう思ってまたため息をついた。
「颯人ー、大丈夫」
楽器庫へ戻ると、彼は座っていた。
「あぁ、風香」
「なに?」
「無理すんな」
「……」
風香は、黙って俯いた。
「お前、低血圧だろ。たぶん今のも貧血じゃなくてそのせい。俺はもう大丈夫だから、お前が休んでろ」
彼女は、もともと低血圧だった。
だから、立ちくらみやめまいがよく起きていた。
ただ、最近はそんなこともなくなり、忘れかけた時に突然やってきたのだ。
「……なんで、わかるの」
「お前の隣にいてるからわかるんだよ。さっき立海呼び出す前、気持ち悪いから楽器庫行こうとしてたんだろ。久しぶりで焦るのもわかるけど、しっかり休んで明日のオーディション受けれたらいいじゃん」
「でも、颯人も気持ち悪いから楽器庫来たんでしょ、お互い様じゃん」
わかりやすいほど笑いながら顔が赤く染まっている。
そして、笑いながら涙を流す。
「ありがとう、気付いてくれて……」
と、ふっと楽器の音が止まった。
「先生来たかな? お前は休んでろよ」
彼女はこくりと頷いた。
音楽室へ行くと、小林が
「合奏はじめるぞ。あれ、風香は?」
「めまいがしてたみたいで、楽器庫で休んでます」
そうか、と言ってぱらりとスコアをめくった。
「最初から通します」
「「はい!」」
返事して、さっと楽器を構えた。
「はぁ……」
暗いそのため息は、音によってかき消された。
風香は、いつも周りに気を使いすぎて、自分のことを大事にできていない。
だから、泣きたいときだって、苦しいときだって誰も気付いてくれない。自分から言わないから。
どの部員も周りの事を見れていないから……。
そんなことを考えているうちに、曲が終わってしまっていた。
みなさん、お分かりでしょうか。
風香と隼人は実は……笑笑




