震える勇気
凛奈が音楽室を去った後、妙に沈黙が続いたが、誰かが吹き始めると、パラパラと音が鳴り出した。
不安や悲しさを吹っ飛ばしたいのか、トロンボーン2人はバリバリと爆音を鳴らしていた。
遠くでずっとみていた茉莉花が、動き出した。
先ほどまで凛奈が座っていた指揮台に立ち、音を止める合図をする。
「みんな、いい」
「「……」」
「いいですか」
「「はい」」
返事がほぼないと見なした茉莉花は、もう一度同じ事を言った。
「あの子が、今なにを考えてるかは、みんなで考えろとは言いません。だけど、」
誰かがごくりと息を呑む。
「あの子は、リーダーを自信満々にやっている訳じゃないです。リーダーにとって自分だけで判断するのはとても勇気がいることなんだよ。いまはあの子だけがリーダーという立場だけど、私たちが引退したらみんなわかると思う」
なにか違ったことを茉莉花は話している。
まるでいままでの状況の、一歩先を話しているようだった。
「ただ、みんなの意見を聞いてばかりでは判断出来ない。みんなの心を1つにするには、自分の考えが、……勇気がいるけど、必要だと思う。それを分かって、あの子が戻ってきたら目を合わせてあげて」
「「……」」
「今日の午前練はこれで終わりにします」
次は、返事を待たなかった。
「「ありがとうございました」」
聖菜はなにがあったかはわからないが、なんとなくで察していた。




