ロビーコンサート
春コンとは、毎年行われる"春のコンサート"の事で、北原中学校は、単独コンサートではなく、はづき夢色吹奏楽祭の北原中学校ステージがある。
はづき夢色吹奏楽祭は、3月後半から約3週間に渡って行われる県内最大の吹奏楽イベントで、葉月市内の小学校、中学校、高校の吹奏楽部、一般バンドのステージが1日ずつあるのだ。
そして、ラストステージでは、市内だけでなく県内でオーディションを行なって、中学校、高校選抜バンドを結成する。
ステージと言っても、定期演奏会と同じようなもので、何部でも、ゲストを呼ぶなど、入場料、開演時間や回数も、その日1日各校の自由である。
北原中ステージは、午後6時から、1度だけの公演となって、ゲストは毎年皇城高校吹奏楽部となっている。
皇城高校は、県内有数の強豪校で、桜橋と並ぶほどだ。
音楽科と普通科があるが、普通科からも吹奏楽部に入る者も多い。
今年度も、コンクール、アンサンブルコンテストで全国大会出場を決め、さらに金賞を受賞しているのだ。
合同練習などを年に2、3回繰り返し、憧れを持って北原中学校から皇城高校に行くものが多かった。
だが、ここ近年では北原中学校から皇城高校に進学する者も少なく、北原中から皇城の音楽科へ進学した者は、現在高2の西宮羽奏が最後だった。
「「はぁー……」」
テストが終わり、音楽室には開放感よりも、失望感が溢れていた。
「全然出来なかった……」
と、真っ青な顔で話していた。
「はーい、ミーティングするよー!」
「あ、はい!」
すぐに席に戻る。
「今日は時間があるから、お弁当を食べて2時からパート練、3時から春コンの曲の合奏です」
「「はい!」」
「あ、このミーティング終わったらすぐ先生が来て春コンのことについて話があるみたいなんで、残っておいてください」
「「はい!」」
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「「よろしくお願いします!」」
「えーっと、春コンの曲順が決まったんで、おしらせします」
と、皆シャーペンとメモを取り出した。
「まず1曲目───」
「───以上で、プログラム上は終了で、アンコールに2曲します」
「「はい!」」
『───あれ?』
手を止めると、あることに気がついた。
「「先生、」」
自然と、声が出てしまった。
同時に言葉が出たのは、2年生の茉莉花だった。
"先いいよ"と、茉莉花が譲ってくれた。
ぺこりと会釈して、まっすぐ前を見た。
「アンサンブルの曲はしないんですか」
「あぁ、そのことなんだが、"3グループとも"ロビーコンサートで行うことになった」
「3、グループ……」
鈴音が呟いた。
そう、と小林が頷いた。
「1部の後に打楽器、2部の後に金管、それと……3部の後に木管のたなばた」
ちらりと木管の方をのぞいた。
だんだん奈津の頰が赤くなるのがわかった。
さらに、光里と目が合った。
にっこりと笑ったが、彼女はふいっと前を向いた。
「……」
最近、自分がどう思われるかを気にするようになった。
『痛っ……』
ツキッと胸に痛みが走った。
柚子のことが落ち着いたいま、自分自身、なにが怖いのか、なにが悲しいのかわからなかった。




