小林から
「それで、柚子先輩は?」
「……わからない。今日小林先生と話してくれたらいいんだけど……」
翌日、昼食の時間にベランダで少しだけマイに柚子の事を話した。
マイも、柚子のことを少しだけ知っていたようだ。
「そっか……」
「マイは、戻って来てほしい?」
「ん? うん。まあ……」
と、空を見上げた。
空は、曇っていて、どこか物悲しさを語っているようだった。
「そー!で、 どーする!? 3月29日!」
スカートも短くなって、ピンクのカーディガンを着て。
1年前とは随分違った。
ケラケラと笑う姿は、とても明るく、おてんばな姿もみられる。
そんな姿を小林は廊下から眺めた。
ガラッ。
「柚子、ちょっと」
と、小林は柚子を手招きした。
「? はーい!」
普通、部活を辞めたらその顧問と辞めた生徒の間で気まずい空気が流れるが、柚子と小林はそのようなことはなかった。
「放課後、まぁ、テスト勉強忙しいと思うがちょっと職員室来てくれるか」
「はい」
失礼します、と、教室の中に入っていった。
「ねぇ、あんた、小林先生に柚子って言われてんの?」
「え? うん、たまにだけど」
「いいいなぁぁあ! わかも下の名前で呼ばれたいわ!」
わかと呼ばれる同級生は、小林の事が大好きなのだ。
「そんなに好きなのー?」
「え、かっこいいじゃん! わかさ、まだ苗字で呼ばれてるから!」
「てか、29日どーする!?はやく決めよーよ!」
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「失礼しまーす。小林先生いらっしゃいますかー」
「お、きたか」
と、小林の机へ向かった。
「えーっとだな、部活のことなんだけどな」
「……はい」
小林は、少し言いにくそうに、頬をぽりぽりとかいた。
「復帰、じゃなくて最初から入部しないか? もう1度」
「……」
あまりにも驚いてしまって、どんどん笑顔が消えていってしまう。
「……私は、」
「ん?」
小林は俯いた柚子の顔を覗き込んだ。
「戻ってきても、いいんでしょうか……」
「……それは、お前が決まればいい。部員たちは待っているから」
と、ピンク色のチラシを差し出した。
3月29日。はづき夢色吹奏楽祭 葉月市立北原中学校吹奏楽部ステージ。
「もし予定がなかったら見にきて」
「……はい。ありがとうございます」
失礼しました、と職員室を出た。
「柚子ー、なんの話だったの?」
「んー、ちょっとね。あ、わか、」
と、わかに手を合わせた。
「ごめん、29日予定入っちゃった!」
「えぇ!? なんの予定?」
「実はさ……」
と、少し嬉しそうに頬を赤くしながら話した。




